環境科学国際センター > 試験研究の取組 > 刊行物 > 埼玉新聞連載記事「埼玉の環境は今」その9
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掲載日:2023年1月13日
二酸化炭素は、京都議定書で対象となった六種の温室効果ガスによる地球温暖化の六割以上に寄与し、人為的に排出されるガスの中で最も影響が大きい。一九五八年に開始されたハワイのマウナ・ロアでの観測結果から、大気中の二酸化炭素濃度の経年的な上昇が確認され、地球温暖化に対する関心が世界的に高まった。こうした事実を背景に、国連の世界気象機関(WMO)が推進した計画に基づいて、世界各地に観測所が設置され、二酸化炭素などの温室効果ガス濃度の観測が行われてきた。
二酸化炭素濃度の観測には、世界各国での長期間にわたる観測値を相互に比較するため、世界的な基準の統一が必要である。このため、WMO標準ガスが基準として用いられ、日本国内ではWMOにより精度が証明されている標準ガスを気象庁が管理している。環境科学国際センターにおいても、気象庁の協力によりWMO標準ガスを基準とした二酸化炭素濃度の観測を一九九一年に浦和で開始し、現在も堂平山と騎西で継続している。このような精密観測を行う観測所は、国内には埼玉の他に数地点しかなく、観測データは大変貴重である。
気象庁の温室効果ガス世界資料センターでは、世界各地での観測データを集計している。これによると、人為的な汚染の影響の少ない清浄な地域では、二酸化炭素濃度は人口の多い北半球の中・高緯度で最も高く、季節変化も陸地の多い北半球では四月頃に極大となり、春から夏に植物の光合成で二酸化炭素が大量に吸収され九月頃に極小となるが、南半球では明瞭でない。また、北半球における濃度の季節変化の変動幅も高緯度では大きく低緯度では小さいといった違いがあることがわかった。
そこで、堂平山観測所のデータを同程度の北緯三五度付近に位置する観測所のデータと比較した。その結果、気象庁の綾里観測所(岩手県大船渡市)と堂平山では、北アメリカ大陸や大西洋などに位置する観測所と比較して、特に冬季に高濃度であった。冬季には北西風が卓越するため、ユーラシア大陸からの影響を受けていると考えられた。また、綾里と堂平山との比較では、海陸風により南関東からの影響を受ける夏季に堂平山で高濃度となった。なお、堂平山のデータは、観測所近傍の汚染などの影響を取り除くため、綾里と同様の手順でデータを選択する作業を行なった。
次に、地球規模での濃度変化によらない観測所近傍の汚染などの直接的な影響を検討するため、浦和と騎西のデータの単純平均値から堂平山の前述のデータ選択により得られた値を差し引いた。その結果、両観測所のこの値は、燃焼起源である窒素酸化物濃度と同様に大気の安定する冬季に高濃度であった。このことから、浦和と騎西では、人為的な排出による影響が大きいことが分かった。近年、二酸化炭素の排出量を削減する取り組みが行われているが、観測を長期間継続することで、その効果を確認することも必要である。
堂平山観測所
二酸化炭素濃度の推移
大気環境担当 武藤 洋介
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