環境科学国際センター > 試験研究の取組 > 刊行物 > 埼玉新聞連載記事「埼玉の環境は今」その3
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掲載日:2023年1月13日
火山の噴火などの自然現象や人間の日々の活動から、いろいろな物質が大気中に排出されている。特に、工場や自動車の排出ガスなど人間の活動から排出される大気汚染物質は、地球温暖化など多くの環境問題を引き起こす。そのひとつである酸性雨問題とは、大気中に排出された汚染物質が再び地上に戻るときに、生態系や建造物、文化財などに及ぼすさまざまな影響のことだ。
身近な酸性雨の被害には、雨が流れた跡にそって表面が溶けた銅像や、古い建造物などの割れ目からしみ込んだ雨水がコンクリートの成分を溶かしてできた「酸性雨つらら」(写真)などがある。また、朝顔などの花びらが脱色されることもある。
石油や石炭などを燃やすと、汚染物質(硫黄酸化物、窒素酸化物など)が大気中に排出される。排出された汚染物質は、化学変化を起こして酸(硫酸、硝酸など)を生成しながら、風に乗って大気中を長距離移動する。そして、生成した酸を雲や雨水が取り込んで、地上へ降りそそぐ。この雨が酸性になるため「酸性雨」と呼ぶ。
酸性、アルカリ性の強さは、pH(ピーエイチ)という0~14の数値で示す。pHは7が中性で、7より小さいと酸性、大きいとアルカリ性。pHの値が小さいほど酸性が強い。pHが5.6より小さいと酸性雨とみなされる。
一九七三-七五年の六-七月に、関東地方を中心に三万人を超える人々が目や皮膚への刺激や喉の痛みなどの異常を訴えた。このときはpHが3より低い極めて強い酸性の雨が降ったといわれており、このことを契機に、県では十一市と協力して酸性雨モニタリングネットワークを整備している。現在は、人への被害の報告はないが、pHを測定している十五地点のほとんどで、pH3.5以下の強い酸性雨が年に数回程度降っている。
この中で、環境科学国際センターでは、一九七五-九九年度はさいたま市(旧県公害センター)で、センターが開設した二〇〇〇年度以降は騎西町で、雨のpH測定と成分分析を行っている。測定された降り始めの雨の年平均pHは3.9~4.4、降水すべてのpHは4.4~4.7である(図)。降り始めの雨は、大気中の汚染物質を多く取り込み、強い酸性を示すことが多い。降水に溶けている成分を分析した結果をみると、燃料中の硫黄分を減らしたことなどで、硫黄酸化物が降水に及ぼす影響は減少している。しかし、自動車から大量に排出される窒素酸化物から生成する硝酸は依然として高濃度であり、自動車排出ガスの影響がかなり大きい。
酸性雨を改善するためには、原因となる汚染物質の排出を減らすしかない。したがって、私たちが毎日の生活の中でマイカーの代わりに公共交通機関を利用したり、エコドライブを実践したりすることも有効な対策になる。
一方、近年、経済活動の発展が著しい大陸から運ばれてくる大気汚染物質の影響も懸念されている。大陸からの影響についても注目しながら、酸性雨について調査を続けていきたい。
歩道橋の下にできた酸性雨のつらら
大気環境担当 松本利恵
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