環境科学国際センター > 試験研究の取組 > 刊行物 > 埼玉新聞連載記事「埼玉の環境は今」その29
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ページ番号:21767
掲載日:2023年1月13日
最近、都市の再開発に伴い工場などの跡地にビルやマンションが建てられる光景をよく目にするが、実はこうした土地から土壌や地下水の汚染が見つかるケースも増えている。その多くは、工場の操業時に敷地に埋められたり、施設から漏れ出た有害物質が原因となる。このような汚染が身の回りで見つかった場合、その状況をどうやって調べるのだろうか?
一般的には、地面に穴を掘って採取した土壌や地下水を分析する方法が採られる。だが、この方法には、広範囲を調べる場合に費用が膨らんだり、地層を壊して汚染を広げるおそれがあるという問題点もある。これに対し、電流や地盤の振動などを用いて、掘らずに地上から地下の状況を調べる技術(物理探査)がある。物理探査の手法は様々だが、汚染調査の分野では、主に電気的な手法がよく用いられる。代表的なものとしては、地下の電気の流れやすさを調べる方法(電気探査)や電波を当てて生じた空間的な性質の変化を測る方法(電磁探査)などがある。
これらの手法が使われるのには理由がある。それは土壌の性質の違いや汚染物質の存在などにより、地中での電波や電流の伝わり方が大きく変わってくるためだ。それゆえ、これらの伝わり方の違いを測定すれば、ある程度は地下の状況が推定できる。土壌や地下水の汚染を「大地の病気」と考えれば、掘って調ベる方法はいわば血液や組織の検査に当たるもので、物理探査はCTスキャンやMRI検査に当たる。
環境科学国際センターでは、土壌や地下水の汚染の調査において物理探査を用いる方法について研究している。だが、研究に適した汚染現場はそれほど多くないし、汚染のない土地で実験するわけにもいかない。そこで、こうした研究では、実際の汚染現場を模した実験土槽(プラスチック製の箱に土を詰めたもの、写真)を使用している。電気探査によって、有害物質を含む廃液の地中への染み込み方を追跡すると、その様子を視覚的に捉えることができる(図)。上段が汚染のない状態で、下段に行くほど染み込んだ廃液の量が増えているが、これに伴って電気の流れやすい領域が拡がっていくことが分かる。さらに、電気探査を化学分析と組み合わせることで、土壌と汚染物質の組み合わせによって、染み込み方に大きな差が生じることも明らかになった。
物理探査が汚染の調査に使われ始めたのは、ここ二、三十年のことであるが、さらなる実用化を図っていくためには技術レベルの向上や適用対象の拡大といった課題も残されている。今後は土壌や地下水の汚染問題へのスピーディな対応に向け、こうした課題を一つずつクリアすべく研究を進めていきたい。
実験土槽を用いた測定
有害物質を含む廃液が地中へ染み込む様子
地質地盤・騒音担当 佐坂 公規
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