環境科学国際センター > 試験研究の取組 > 刊行物 > 埼玉新聞連載記事「自然との共生 埼玉の現状と課題」その14
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掲載日:2023年1月13日
2008年9月1日掲載
今年六月に環境省から「平成の名水百選」が発表され、埼玉県から四カ所が選ばれた。従来の名水百選は、昭和六十年に認定されたもので、県内では大里郡寄居町の風布川・日本水(やまとみず)が唯一であった。
今回の百選では、特に、地域住民等による主体的かつ持続的な水環境の保全活動が評価の重要なポイントになっていることから、県内に清らかな水環境が多く残っていること、そして県民の水環境保全意識が高いことが認められたことになる。選定では、その他に水質・水量、周辺環境、水利用の状況、故事来歴や希少性なども考慮されているが、ここでは自然科学的な視点から、県内の名水の特徴を紹介する。
新たな名水は、秩父山地から小鹿野町・毘沙門水と秩父市・武甲山伏流水、県北部の熊谷市・元荒川ムサシトミヨ生息地、県南部の新座市・妙音沢が選ばれ、水源や地形条件が異なる様々なものとなった。毘沙門水は、白石山(はくせきさん=通称、毘沙門山)中腹(標高七百メートル付近)に水源があり、そこからパイプで水汲み場まで引かれている。真夏でも水温は一七度と冷たく、飲用もできる。水質はカルシウムが若干多く含まれ、硬度は軟水と硬水の中間くらい。水は吉田川から合角ダムへと流れていく。
武甲山伏流水は、秩父市街地の地下水が広く対象となっている。この地域は秩父盆地を流れる荒川の東側に位置し、階段状の地形である段丘が形成されている。名水は、そこの堆積物中に貯まっている水だ。比較的浅い深度にあり水質も良く、古くから地域の貴重な水資源として利用されている。
昭和の名水の日本水は、秩父山地の湧水の中でも水質が特異だ。水源は釜伏山の頂上付近、垂直に立った蛇紋岩という岩の割れ目から湧き出ている。その岩との相互作用でpHは高くなり、特に、ミネラルのマグネシウムを多く含むのが一般の水と異なる。
埼玉県の魚ムサシトミヨは、元荒川最上流部にのみ生息する絶滅危惧種だ。この地域は荒川扇状地の末端に位置し、昭和三十年頃までは湧水が豊富でその流れの中に生きていた。ところが高度成長期に湧水は枯れ、現在はムサシトミヨ保護センター等が汲み上げる地下水を頼りにしている。選定されたのは、保護センターから下流四百メートルの保護区域で、日量約一万トンの水が流れている。水温は年間を通じて一八度以下で、特に夏場に一三度前後と低くなる傾向がある。
妙音沢は、武蔵野台地の北部を流れる黒目川に沿った斜面林の中にある。水源は崖から湧き出る台地の地下水で、大沢と小沢の二カ所があり、水量は毎分数トンと豊富だ。水温は一年を通じて一六~一八度、pHは弱酸性、土壌などから溶け込んだイオン類を含む。冬にはきれいな淡水に生育する希少種の藻類、カワモズクが確認できる。
今回の名水は、どの水も有機物(炭素)量が少なく清らかで、水質的に非常に優れている。地下水や湧水が水源となり、同じような水の流れは県内各地に見られる。地下水汚染が各地で発覚し、心配されている昨今ではあるが、大地の下を流れる水の恩恵を忘れてはならない。
平成の名水4か所(●)と昭和の名水(○)
県内の名水一覧と水質
埼玉県環境科学国際センター 水環境担当 高橋基之
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