環境科学国際センター > 試験研究の取組 > 刊行物 > 埼玉新聞連載記事「自然との共生 埼玉の現状と課題」その12
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掲載日:2023年1月13日
2008年8月18日掲載
自然界はさまざまな生態系の中で、私たち人間を含めた生物同士が複雑に関係し合い、微妙なバランスを取って成り立っている。そのため、突然ある種が絶滅してしまうと、自然界のバランスが崩れてしまう恐れがある。特に「希少種」は、読んで字のごとく数が少なく希にしか見ることができないような種だ。それ故、絶滅の危険性が極めて高い。このようことから、希少種を保全することは、自然界のバランスを維持するために必要なことなのだ。
平成四年、ブラジルのリオデジャネイロで開催された「地球サミット」において、「生物多様性条約」が採択された。これにより、多様な野生生物が絶滅することなく生存し続けることが、自然生態系を健全に保持するための条件だということを、世界が改めて認めたのだ。平成五年に日本はこの条約を締結し、平成七年、政府は「生物多様性国家戦略」を決定した。これにより、日本は「生き物のにぎわいがある国土づくり」を目指すことになった。
これを受けて埼玉県では、平成八年に「さいたまレッドデータブック(動物編)」を、平成十年に「同(植物編)」を作成した。埼玉県で失われつつある生物種について重点的に知るためだ。最新のそれぞれの改訂版によると、埼玉県内において絶滅のおそれがある種の数は、動物が七百八十七種、植物が千三十五種とされている。これは、埼玉県産在来種のそれぞれ、7.6%及び21.5%に相当する。すなわち、植物に関していえば、埼玉県内の在来植物種のおよそ五種に一種が絶滅のおそれがある種だということであり、極めて憂慮される状況だ。
このような県内の希少な野生動植物を絶滅から守り、県民の共通の財産として次世代に継承することは大切なことだ。そのため、埼玉県は平成十二年、「埼玉県希少野生動植物の種の保護に関する条例」を制定した。そして、この条例に基づき現在までに、「県内希少野生動植物種」として二十二種(植物十九種、動物三種)を指定(表)、これらの種を重点的に保護する方針を示している。
環境科学国際センターでは、条例指定されたムサシトミヨやミヤマスカシユリなどの希少種の保全研究に取り組んでいる。特に、ミヤマスカシユリは、試験管内での球根鱗片の培養により個体の増殖に成功した。現在増殖した個体数は数百に上り、これらは野外環境に順化しその多くが花を咲かせるまでに至っている。また、人工授粉により種子が採取され、これらの種子を播種することにより、多くの実生を得ることもできた。これらの実生が花を咲かせ、種子を採取できるようになれば、ミヤマスカシユリが安定的に維持・増殖できるバックアップ体制が整うものと期待される。
希少種の保全には、その存在を周知することも必要だ。同センターでは、展示館において、開花期のミヤマスカシユリなどを展示公開している(写真)。この機会を通して、多くの県民の皆さまが希少種を実体験し、その大切さを直に感じ取ってもらえることを切に願っている。
希少種の保全において、最も重要なのは生息地や自生地の保全だ。これには、県や地元の市町村はもとより、現地の環境を熟知している専門家やNPO、地元企業や住民などの協力が必要不可欠だ。このような現地の人々の保全活動と、行政の活動がうまくかみ合って機能したとき、希少種保全を成功に導く第一歩が始まるのではないだろうか。
私たち人間も自然界を構成する生物だ。自然界のバランスを崩さぬよう、希少種を保全し、自然と共存共栄するための努力が必要だ。
県内希少野生動植物種のリスト
環境科学国際センター展示館で公開されたミヤマスカシユリ
撮影2008年6月27日
埼玉県環境科学国際センター 自然環境担当 三輪 誠
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