環境科学国際センター > 試験研究の取組 > 刊行物 > 埼玉新聞連載記事「自然との共生 埼玉の現状と課題」その19
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ページ番号:21507
掲載日:2023年2月1日
2008年10月6日掲載
県内河川の水質は改善傾向にあると言われているものの、生き物が豊かで人々が親しみを感じ、触れ合いたいと思える川(=里川)には必ずしもなっていない。何が人を川から遠ざけているのだろうか。身近にある川を見ると、川の中には緑色をした水が流れていて、底が見えない川がある。あるいは底が見えたとしても河床が付着した藻(付着藻類という)に覆われている川もある。このような見た目の悪さが人々を川から遠ざけている原因の一つではないだろうか。
河川水が緑色に見えること、すなわち植物プランクトンが水中に多く存在していることや、川底に付着藻類があることの主な原因は、家庭などから排出される窒素やリンが河川中に豊富に存在していることである。このような植物が河川水中に多く存在していると、日中は光合成によってpHが異常に上昇したり、夜に水中の酸素濃度が低下するなどして、生き物が棲みづらくなる。したがって、家庭排水に含まれる窒素やリンの濃度を低減させることが、里川を取り戻すために重要になる。
荒川(笹目橋)の水質を見てみると(図1)、BOD(生物に分解され易い有機物濃度の指標)は低下しているが、窒素やリンの濃度は横ばいか上昇傾向にあり、かつ植物プランクトンを増殖させるのに十分なレベルであるため、低減させなければならない。では、どのような手法があるだろうか。
そのひとつとして、庭や駐車スペース等に設置されている浄化槽を使って家庭排水中の窒素およびリンを除去する方法がある。これまでに普及している浄化槽は主としてBODを除去するものであり、窒素やリンの除去効果は低かった。一方、排水の循環工程を組み込みこんだ窒素除去型の浄化槽は、微生物の働きを利用し、窒素を排水中から効率的に除去することができる。県内でも窒素除去型の浄化槽の設置および管理等の推進を図っている自治体がある。
さらに近年、窒素に加えてリンも除去することを可能にした窒素・リン除去型の浄化槽も開発されている(図2)。リンは、水中に沈めた鉄板に電気を流して鉄を溶出させ、溶出した鉄とリンが結合して排水中から除去される。このように、生物や化学の最新技術を応用して排水から窒素およびリンを効率的に除去することができる。
また、排水処理では排水と微生物の混合液から、処理水を分離する必要がある。現在使用されている多くの浄化槽では、プラスチック材等によるろ過や沈殿により分離を行っているが、近年、膜によって分離を行う技術が開発された。膜には1ミリメートルの千分の一以下の無数の孔があり、孔径より大きいものは通さず、水だけを通す。膜分離法は、微生物の分離に優れ、排水処理効率が高いため、浄化槽へ適用されつつある。
今後、これらの最新技術が普及することで、豊かで清涼な水が里川を満たし、人が里川で水と触れ合う機会が増えるのではないだろうか。
図1 荒川(笹目橋)におけるBOD、全窒素、全リンの経年変化
埼玉県環境科学国際センター 水環境担当 見島伊織 柿本貴志
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