環境科学国際センター > 試験研究の取組 > 刊行物 > 埼玉新聞連載記事「埼玉の環境は今」その26
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ページ番号:21530
掲載日:2023年1月13日
土壌中の有害物質が基準の何倍あった、という新聞報道を目にすることが多い。一度、土壌を汚染してしまうと元に戻すことは難しい。また、そのまま放置すると、汚染物質が地下水へ移行したり人の健康を害したりするおそれが生じる。そのために、対策を講じる必要がある。汚染土壌を掘削し保管したり、化学的な分解や洗浄により汚染物質を除去する技術があるが、多くのエネルギーや費用が必要となるほか、土壌としての機能を破壊するなど問題がある。
そこで、近年、植物を用いた汚染土壌の浄化技術(ファイトレメディエーション)が注目されている。植物は、土壌に根をはり、そこから水や栄養分を取り込んで生長する。また、植物の根は、土壌に酸素などを与え、微生物と共存している。このような環境で、植物の根により汚染物質を吸収、吸着、固定することができる。植物はこれらのほか、土壌の被覆、土壌流出の防止、水分の蒸散や二酸化炭素の固定などさまざまな機能を持っている。植物の持つ能力を利用して有害物質を取り除くファイトレメディエーション技術は環境に優しい土壌汚染修復技術である(図)。八十年代から世界で盛んに研究され、ヤナギ、ヒマワリ、イネ、モエジマシダ、マリーゴールド等四百種類以上の植物が研究・利用されている。
この技術の特徴は、太陽エネルギーを利用し、土壌としての機能を破壊せずに、汚染物質を持続的に低減できることである。用いる植物によっては、エタノール等バイオ燃料への利用に役立つ可能性がある。しかし、この技術の欠点には、浄化速度が遅い、長期間を要す、気候に影響されやすいなどがある。技術としてはまだ初期の段階にあり、広い範囲への実用化には安定かつ効率的なシステムの確立が必要である。
環境科学国際センターでは、身近な食用キノコから選抜した有用菌類(白色腐朽菌)を、ライグラス、ライ麦等の植物の根に接種し、有用植物―菌類複合修復システムを検討した。白色腐朽菌は、ダイオキシン等を分解すると言われている。白色腐朽菌を植物の根に接種することにより、植物と菌類を共存させ、植物の生長や土壌中微生物の繁殖を著しく促進させることができた(写真)。また、土壌中の微生物が増えたことなどにより、汚染土壌中のダイオキシンを10から40%低減させ、そのうち、ペレニアルライグラスとエノキタケの組合せが低減に最も効果があった。今後、ダイオキシンだけでなくさまざまな汚染物質を対象に、安全で効率的なファイトレメディエーション技術の確立と実用化を推進していきたい。
植物による汚染土壌修復技術の概念図
有用植物―菌類複合修復システムの構築試験
化学物質担当 王 効挙、杉崎 三男
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