環境科学国際センター > 試験研究の取組 > 刊行物 > 埼玉新聞連載記事「持続可能な社会目指して」その7
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掲載日:2023年1月11日
外来種という言葉を聞いたことがあるだろうか。英語ではAlien Species(エイリアンスピシーズ)と言う。他の国や地域から持ち込まれた生物のことだ。このエイリアンは実は特別な存在ではない。私たちの周りには多くのエイリアンたちが暮らしている。
米・麦をはじめ、キャベツ、白菜など栽培植物の多くは元はと言えば外来種だ。秋の景色には欠かせないヒガンバナや、春に木陰で涼しげに咲くシャガも古い時代に日本に持ち込まれた帰化植物(植物の外来種)だ。
日本で記録されている植物の約30%が帰化植物だとも言われている。日本の自然の中に溶け込んでしまっているものも少なくない。しかし、近年、新たな外来種問題がクローズアップされてきた。それは、以前とは比較にならないほど多くの外来種の持ち込みと、地域の自然や農業に大きな影響を与える強力な外来種の存在だ。
現在、日本に持ち込まれている外来種の実態を把握することは困難だが、財務省の貿易月表によると(表)、ほ乳類やは虫類の年間輸入量は30万頭を超え、昆虫に至っては7600万匹以上輸入されている。ほ乳類や鳥類は感染症対策の強化などにより減少傾向にあるが、昆虫は激増し2005年から2008年までの3年間に約2.7倍に増加した。
植物はどうだろうか、農水省の植物防疫統計によると、2008年の栽植用植物や球根の検疫検査件数は8億5千万個体を超えている。このように日本は有数の生物輸入大国だ。
このようにして持ち込まれた外来種のすべてが日本に定着できるわけではない。定着できない種の方が多いが、なかには日本の環境に順応し数を増やし生息範囲を広げている種も存在する。その様な種の中で特に生態系や人間に大きな影響を及ぼす種を「侵略的外来種」と呼んでいる。オオクチバスやウシガエルは代表的な侵略的外来種で、在来の魚類や両生類、昆虫などを捕食し局所的な絶滅をもたらすこともある。また、侵略的外来種の影響は在来種の捕食だけではない。人の健康や農作物への被害、在来種の遺伝子の撹乱なども問題となっている。
外来種は埼玉県にも数多く生息している。オオクチバス、ブルーギルをはじめ、ガビチョウやソウシチョウなども容易に探すことができる。また、カミツキガメも各地で捕獲されている。特に注目されているのがアライグマだ。ペットとして北米から持ち込まれたものが野生化し全国に広がり、埼玉県内では比企や秩父地域を中心に急激に生息数を増やし農作物被害なども目立ってきた(図)。県では2007年に「埼玉県アライグマ防除実施計画」を策定し、市町村などと連携しながら対策を実施しているが、増加を食いとどめるまでには至っていない。
外来種は一度定着してしまうと駆逐には多くのコストが掛かり、駆逐は困難なことも多い。また、在来種の絶滅や遺伝的な汚染など元に戻すことができない不可逆的な影響を与えてしまうこともある。外来種対策としては2005年に「外来生物法」が施行され、やっと総合的な対策がスタートした。
既に多くの侵略的外来種が定着してしまっているが、定着してしまった種の本格的な駆逐と、飼っている外来種をみだりに野外に捨てないといった予防策の徹底が必要だ。
表 生きた動物の輸入量
図 アライグマの捕獲地点
埼玉県環境科学国際センター 自然環境担当 嶋田知英
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