環境科学国際センター > 試験研究の取組 > 刊行物 > 埼玉新聞連載記事「埼玉の環境は今」その22
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掲載日:2023年1月16日
時々新聞等で目にする硫酸ピッチとは何であろう?硫酸ピッチについて理解する前に基礎知識として石油について知っておこう。石油には色々な種類があり、なじみの深いものとしてはガソリンスタンドで市販されているガソリン、軽油、灯油がある。その他にも、化学製品の原料になるナフサ、ボイラーや発電所等で燃料として使用されている重油等がある。さらに、重油は軽油との混合比の違いによって、A重油、B重油、C重油に分けられている。これら石油の中で自家用車などに使用されるガソリンの価格にはガソリン税(国税)が、また、バス、トラックに使用される軽油の価格には軽油引取税(地方税)が上乗せされている。硫酸ピッチは、軽油を不正に製造する際に排出される産業廃棄物であるが、このようなことから、結果として軽油引取税を脱税することになる。
バス・トラック等のディーゼルエンジンで走る車は軽油を燃料として使うように設計されているが、軽油に近いA重油や灯油でも動く。このため、軽油引取税のかからないA重油や灯油には不正使用を防止するための識別剤(クマリン)が添加されている。不正軽油は軽油に灯油やA重油を加えて水増したり、A重油と灯油を混合して作るため、クマリンが邪魔になる。そこで、クマリンを取り除くために硫酸を加えて処理を行う。その時に発生する汚泥が硫酸ピッチだ。
硫酸ピッチは重油に含まれていたタール分等を含むため、黒色のどろどろした物質であり、強酸性を示し、かつ、亜硫酸ガスや油臭を発生する。亜硫酸ガスは人体に有毒なガスだ(表)。そのため、硫酸ピッチが不法に投棄された場合、発生したガスが大気汚染を引き起こすだけでなく、強酸性であるため周辺環境をも汚染する。また、周辺に民家がある場合、そこに住む人々の健康に悪影響を及ぼす恐れもある。
硫酸ピッチは多くの場合、ドラム缶に入れ不法投棄・不適正放置される。それくらいの大きさであれば中身の調査は難しくないが、平成18年度の行政代執行では、私たちの想像をはるかに超える巨大なタンクに入れられていた(図)。このケースの場合は、内部の状態を把握しにくいため、作業員の安全性の確保を第一として調査が進められた。環境科学国際センターは、外部の打診法(側面をたたいた時の音で判断)やタンク上部マンホールからの内部調査、及び内部から採取した硫酸ピッチ等を用いた室内実験を行うことによって、撤去作業に関わる技術支援を行った。
タンク内の空間には即死濃度に相当する亜硫酸ガス(4%=四万ppm)が充満していた。タンク内部は油層、固層、液層の三層からなり、亜硫酸ガスは上部にある油層から数万ppmが発生すること、固層からでも数千ppmが発生すること等を明らかにし、撤去作業を安全に進めるための化学的知見並びに処理技術の提供を行なった。
近年、硫酸ピッチの不法投棄や不適正保管などの事件は減少傾向にあるが、これらの事件は脱税事件にとどまらず、大きな環境汚染問題でもある。硫酸ピッチ等の不法投棄による環境被害を最小限にくい止めるためには、今後も周辺住民からの情報提供が必要不可欠である。
廃棄物管理担当 川嵜 幹生
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