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掲載日:2024年3月26日

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個人情報保護審査会答申/答申第21号(諮問第26号)

答申第21号(諮問第26号)

答申

1 審査会の結論

異議申立人(以下「申立人」という。)が行った申立人に係る生活保護台帳の2件の訂正請求に対して実施機関が行ったいずれも訂正をしない旨の決定(以下、それぞれ「本件処分1」、「本件処分2」という。)については、妥当である。
申立人が行った申立人に係る生活保護台帳の利用停止(提供の停止)請求に対して実施機関が行った利用停止(提供の停止)をしない旨の決定(以下「本件処分3」という。)については妥当ではなく、提供の停止をすべきである。

2 異議申立て等の経緯

(1)原処分の経緯

申立人は、平成20年10月28日付け及び平成20年10月29日付けで、埼玉県個人情報保護条例(以下「条例」という。)第29条第1項の規定に基づき、実施機関に対して、申立人に係る生活保護台帳の訂正請求を行った。
これについて、実施機関は、平成20年11月26日付けで、条例第32条第2項の規定に基づき、本件処分1及び本件処分2を行った。
また、申立人は、平成20年10月30日付けで、条例第36条第1項の規定に基づき、実施機関に対して、申立人に係る生活保護台帳の利用停止(提供の停止)請求を行った。
これについて、実施機関は、平成20年11月26日付けで、条例第39条第2項の規定に基づき、本件処分3を行った。

(2)異議申立ての経緯

申立人は、行政不服審査法に基づき、平成20年11月27日付けで、実施機関に対し、本件処分1、本件処分2及び本件処分3の取消しを求める旨の異議申立て(以下「本件異議申立て」という。)を行った。

(3)審議の経緯

  • ア 当審査会は、本件異議申立てについて、平成20年12月26日、実施機関から条例第41条の規定に基づく諮問を受けた。
  • イ 当審査会は、本件異議申立てについて、平成21年1月30日、実施機関から理由説明書の提出を受けた。
    なお、申立人から理由説明書に対する反論書等の提出は受けていない。
  • ウ 当審査会は、平成21年2月18日、実施機関から意見聴取を行った。
  • エ 当審査会は、平成21年4月24日、申立人から意見陳述を受けた。
  • オ 当審査会は、平成21年6月17日、実施機関から意見書の提出を受けた。
  • カ 当審査会は、平成21年8月20日、実施機関から意見聴取を行った。

3 申立人の主張の要旨

請求どおりの訂正、提供の停止を求める。
他の一連の人権侵犯事案と連動して起きている、今まさに申立人を悩ませている不当な案件であるから、早急に訂正、提供の停止を求めるものである。

4 実施機関の主張の要旨

(1)本件処分1及び本件処分2について

生活保護台帳は、生活保護法(以下「法」という。)の目的である最低限度の生活保障と自立の助長を行うために、要保護者の生活保護相談記録、申請書類、資産調査結果、扶養義務調査結果、被保護者との面接・相談結果記録、家庭訪問結果記録、調査結果に基づく保護措置、処遇方針、その他関係書類を編綴した保有個人情報である。
したがって、実施機関の担当職員(ケースワーカー)は、平成17年当時、申立人の最低限度の生活保障と自立の助長を行うために、申立人から聴取した内容に基づき記録を作成し、それを基に保護措置を記録し、申立人に係る生活保護台帳に編綴したものである。
条例第31条によれば、実施機関は、訂正請求があった場合において、当該訂正請求に理由があると認めるときは、当該請求に係る保有個人情報の利用目的の達成に必要な範囲で訂正が義務づけられている。
しかし、今般、申立人が訂正を求める主張内容については、事実かどうかを客観的に判断することは困難である。
実施機関が請求内容に理由があるかどうかの調査を行うことは、保有個人情報の利用目的の達成に必要でないことが明らかであり、調査を実施する根拠もない。
また、申立人に対する法の適用は平成17年12月1日をもって廃止しているため、申立人に係る生活保護台帳の利用目的は達成されている。
以上のことから、当該訂正請求は条例第31条にいう「訂正請求に理由がある」とは認められず、実施機関には訂正義務がないと判断したため、訂正しない旨の決定を行った。
ただし、生活保護台帳の利用目的のうち、最低限度の生活保障と自立の助長は生活保護廃止とともに達成されるものの、廃止以降は、例えば、(1)当該被保護者が再び困窮した場合の法第27条の2に規定する相談及び助言、(2)当該被保護者に対する法第63条に規定する費用返還や法第78条に規定する費用徴収等の措置、(3)当該被保護者からの不服申立てや訴訟への対応、などが利用目的となる。したがって、これらの利用目的がなくなった時が、利用目的を達成した状態である。

(2)本件処分3について

申立人に係る生活保護台帳は上記(1)のとおり利用目的を達成したものである。
また、実施機関は、他の地方公共団体の求めに応じて、申立人に係る生活保護台帳に編綴されていた、申立人が実施機関に生活保護の申請を行ってから廃止に至るまでの経緯が記録された生活指導記録表、法第28条第1項の規定に基づく実施機関の検診命令を受けて申立人が受診した医療機関が交付した診断書、申立人の扶養義務者関係図及び申立人の扶養義務者の住所等が記載された文書の各写し(以下「写し」という。)を本人の同意なく提供した。その理由は次のとおりである。
被保護者が、現に生活保護を実施している機関の所管区域外に転出し、かつ、転出先でも引き続き保護が必要であると認められる場合は、従前の保護実施機関は、埼玉県生活保護法施行細則等の規定に基づき、被保護者の生活保護台帳等の関係書類を添えて新たな保護実施機関に対して通知することになっている。これは、被保護者が転出先で再び困窮状態に陥ることのないよう、被保護者の不利益を防止するためにとられている措置である。
申立人は、他の地方公共団体に転出する前に保護を必要とする状態を脱して辞退届を提出したため、実施機関は平成17年12月1日付けで申立人に対する生活保護を廃止した。
ところが、平成19年10月に、申立人から生活保護の相談を受けた他の地方公共団体が実施機関に対して写しの送付を求めたものである。
確かに、申立人の場合はいったん生活保護が廃止され、その後およそ2年を経過して再び困窮状態に陥ったものである。
しかし、実施機関は、申立人から申請前の生活歴など必要事項を聴取することに相当の時間を要していた。また、申立人は特殊な疾患を持ち、自立が困難な状況にあった。
このため、写しを他の地方公共団体に提供することにより、他の地方公共団体は申立人に対する生活保護の迅速かつ適正な決定を行うことができたものと思われ、提供は申立人の利益になったと判断される。
したがって、条例第11条が許容する限度を超えて利用目的以外の目的で提供した違反の事実があるとは認められず、利用停止(提供の停止)請求に理由があると認められないため、利用停止(提供の停止)をしない旨の決定を行った。

5 審査会の判断

(1)本件処分1及び本件処分2について

  • ア 次の各事実が認められる。
    申立人が実施機関に対して訂正を求めた箇所は、生活保護台帳のうち全69箇所に上るが、その内容は、本人の経歴や病状、本人や家族の経済状況の各細部についてであった。
    実施機関は、訂正請求の内容が事実であるかどうかの調査を行わなかった。
  • イ そこで、検討するに、条例第31条は、実施機関は訂正請求があった場合において、当該訂正請求に理由があると認めるとき、すなわち、実施機関による調査等の結果、請求どおり保有個人情報が事実でないことが判明したときは、当該訂正請求に係る保有個人情報の利用目的の達成に必要な範囲内で、当該保有個人情報の訂正をしなければならないと規定しており、実施機関による保有個人情報の訂正は、保有個人情報の利用目的の達成に必要な範囲内で行うものである。そのため、訂正請求の内容が事実であるかどうかを判断するために行う調査も、訂正をすることが利用目的の達成に必要でないことが明らかな場合は、行う必要がない。

本件においては、申立人に対する生活保護が廃止となっている以上、申立人に係る生活保護台帳の利用目的は、法第27条の2に規定する相談及び助言、法第63条に規定する費用返還や法第78条に規定する費用徴収等の措置、不服申立てや訴訟への対応等であると認められる。
しかし、申立人に係る生活保護台帳を申立人が求めているとおり訂正をすることは、相談及び助言、費用返還や費用徴収、不服申立てや訴訟に必要となるとは考えられず、上記利用目的の達成に必要であるとは認められない。なお、本人の病状、本人や家族の経済状況の主要部分についての情報は、今後の訴訟等で必要となる可能性はあるが、申立人が訂正を求めている内容は細部にすぎず、そうした主要部分ではない。
よって、実施機関が、請求内容が事実であるかどうかの調査を行わずに本件処分1及び本件処分2を行ったことは、妥当である。
ただし、本件処分1及び本件処分2を行った時点では申立人に係る生活保護台帳の利用目的は達成されていなかったのであるから、実施機関が保有個人情報の訂正をしない旨の決定通知書の「訂正をしない理由」欄に記載した「開示した保護台帳は、生活保護法に基づく措置を行うための書類であり既に利用目的(生活保護法に基づく決定)を達成しており、保有個人情報の利用目的に照らして、訂正の必要がないため。」は失当である。

(2)本件処分3について

他の地方公共団体が写しを利用することが、条例第11条第2項第3号のいう「法令の定める事務又は業務の遂行に必要な限度で提供に係る個人情報を利用し、かつ、当該個人情報を利用することにつき相当の理由があるとき」に当たるかどうかが問題となる。
この点、実施機関は、申立人にかかる特別な事情からすれば、写しを他の地方公共団体に提供することにより、他の地方公共団体は申立人に対する生活保護の迅速かつ適正な決定を行うことができたものと思われ、提供は申立人の利益になったと判断されると主張している。
しかし、実施機関から当審査会に対して、そのように判断することの根拠は示されておらず、当審査会としては、そのような判断を理由あるものと考えることはできない。
また、申立人に係る生活保護台帳の利用目的に鑑みて、提供の停止をすることにより、申立人に係る生活保護事務の遂行に著しい支障を及ぼすおそれは認められない。
したがって、他の地方公共団体が写しを利用することに相当の理由があると実施機関が判断したことは適当ではない。
よって、申立人に係る生活保護台帳を提供することは条例第36条第1項第2号の規定に該当するから、実施機関は条例第38条の規定に基づき、申立人に係る生活保護帳の提供の停止をしなければならない。

以上のことから、「1審査会の結論」のとおり判断する。

(答申に関与した委員の氏名)

奥真美、徳本広孝、横山豪

審議の経過

年月日

内容

平成20年12月26日

諮問を受ける(諮問第26号)

平成21年1月30日

実施機関から理由説明書を受理

平成21年1月21日

審議

平成21年2月18日

実施機関からの意見聴取及び審議

平成21年3月17日

審議

平成21年4月24日

申立人による意見陳述及び審議

平成21年5月22日

審議

平成21年6月17日

実施機関から意見書を受理

平成21年6月25日

審議

平成21年7月27日

審議

平成21年8月20日

実施機関からの意見聴取及び審議

平成21年9月15日

審議

平成21年9月28日

答申(答申第21号)

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