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掲載日:2024年4月2日
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答申第10号(諮問第10号)
答申
1 審査会の結論
埼玉県教育委員会(以下「実施機関」という。)が、本件異議申立ての対象である下記の保有個人情報(以下「本件対象保有個人情報」という。)について、平成19年1月12日付けで行った不開示決定のうち、
(1)については、保有個人情報としては不存在として不開示の決定を行うことが妥当である。
(2)及び(3)については、開示すべきである。
(5)については、保有個人情報の特定に誤りがあるため妥当ではなく、改めて特定をした上で、開示等の決定をすべきである。
実施機関が行ったその余の決定については妥当である。
記
平成19年度埼玉県公立小中学校等教員採用選考試験(以下「選考試験」という。)のうち、
第一次試験:(1)本人の選考ゾーン
第二次試験:(2)実技試験(音楽1と音楽2、体育1と体育2)の素点、評定
(3)論文試験の素点
(4)面接試験(個人面接、場面指導、集団面接)の評定
(5)面接時の所見
(6)答案用紙の写し(論文試験)
(7)本人の領域
2 異議申立て及び審査の経緯
3 申立人の主張の要旨
「開示しない理由」の本件対象保有個人情報(1)と(7)の「試験の適正な遂行に支障を及ぼすため」、本件対象保有個人情報(2)(3)(4)(6)の「第一次試験とは趣旨を異にするものであり、試験員の公正な評価を保障するため」及び本件対象保有個人情報(5)の「作成していないため不存在のため」とする理由は納得できない。開示を求める。
(1)当該個人情報が公開されることによって、どのような支障をきたすのか、具体的、個別的かつ明白な説明でなければ不開示の根拠とはならない。
(2)第一次試験の素点(得点)、面接時の評定(得点)ならびに答案用紙の写し(筆答試験1及び2)が公開されているにもかかわらず何故、第二次試験ならびにその他が公開されないのか全く整合性がない。また、「選考の基本方針」に基づき、第一次選考方針も第二次選考方針も作成され、採用選考試験は行われているのであって、個人情報開示についても整合性のある同様な対応がなされるべきである。
(3)全国的に個人情報公開・開示がすすんでいる。本県においても、全国的に開示している状況に鑑み他県の動向と足並みをそろえるべきである。
(4)第一次試験の結果のみでは、どうして不採用なのか分からない。納得のいく情報を求め、実際の自分の答案用紙がどのように採点されたのかを知りたい。
本件処分は、選考結果に関する個人情報を正確に知りたいという受験者の開示請求権にそむくものであり、また、その個人情報によって、自己研鑽を積み、本県の学校教育に寄与できる教員になりたいと思っている受験者の願いに背くものである。
(5)面接時の所見の「作成していないため不存在のため」という理由はおかしい。
実施機関が文書公開で明らかにした、「第二次試験の結果を転記する得点一覧表(用紙)」(以下「一覧表」という。)によれば、「管理主事面接」という所見欄が存在する。また、第三者を名あて人とする平成18年6月13日付け「保有個人情報の開示をしない旨の決定について」の通知(本人了承済み)の中で、実施機関は「面接時の所見は、平成18年度埼玉県公立小中学校等教員採用選考試験要項の「成績の開示」に記載された開示予定期間・時間が過ぎたので廃棄したため」と記載している以上、存在しているからこそ廃棄したのであり、説明すべきである。
4 実施機関の主張の要旨
選考試験では、受験者の教員としての人間性や指導性を評価する人物重視の選考を行っており、多様な類型の試験等により職務遂行能力を総合的に判断している。
したがって、例えば第二次試験の実技試験の結果や選考方針の本人の領域のように、点数化、記号化したものといえども、それ自体、評価・判断情報であり、それを開示した場合、試験員が判断する際の観点を受験者が知りうることになるなど、受験者の真の人間性や指導性を評価する人物重視の選考に多大な影響を及ぼすとともに、公正かつ公平な選考を困難にするおそれがあるため、不開示としたものである。
(1)本件対象保有個人情報(1)について
第一次試験における選考において、第一次選考方針にあるA、B、Cゾーンを作成しているが、このゾーンは、選考作業のために作成するものであり、受験者本人に知らせるためのものではない。受験者が自分のゾーンを知り得た場合、受験者の間で無用の混乱を招くことになりうることから、選考試験の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがある。
(2)本件対象保有個人情報(2)(4)について
第二次試験で実施する実技試験や面接試験は、教員としての指導力を有しているか、必要な学識や応用力を有しているか、また、適格性を備えているか等を総合的に評価するものである。したがって、点数化された数字といえども、それ自体は試験員が評価・判断した情報である。この素点、評定が開示された場合、採点の適正さ等を問題視し、批判するような動きがあった場合、試験員が心理的な影響を受け、採点に萎縮的な気持ちが生じることも予想し得る。また、いずれの試験の試験員も、学校勤務の管理職職員など比較的限定された範囲の者から選任されており、受験者の多くが臨時的任用教員として学校に勤務していることを考慮した場合、試験員を特定できる可能性は高い。開示した場合、試験員と受験者の間で信頼関係上のトラブルが発生したり、受験者から試験員に質問や苦情が寄せられることが予想され、試験員の公正な評価を保障するため不開示とした。
(3)本件対象保有個人情報(3)(6)について
論文試験は、点数を開示することによって、採点の適正さ等を問題視し、批判するような動きがあった場合、試験員が心理的な影響を受け、採点に萎縮的な気持ちが生じることも予想し得る。また、論文試験の答案用紙には、素点(得点)以外にも、基準ごとの部分点や採点員のコメント等が書かれており、まさに、試験員が評価・判断した情報であり、試験員の公正な評価を保障するため不開示とした。
(4)本件対象保有個人情報(5)について
選考試験においては、一覧表に面接時の所見という項目は作成していないため、不存在である。
(5)本件対象保有個人情報(7)について
領域については、選考のための独自な設定であり、選考方法の改善により学科試験に偏ることなく、人物重視の選考方法となるよう工夫した結果である。本人の領域を開示した場合、論文試験と実技試験及び面接試験の結果を概ね予想することが可能となり、事務事業の適正な執行を著しく困難にするおそれがあるため、不開示とした。
5 審査会の判断
当審査会において、本件対象保有個人情報に係る不開示決定について申立人及び実施機関の主張を検討した結果、次のように判断する。
(1)本決定の妥当性について
ア 本件対象保有個人情報(1)について
本件対象保有個人情報(1)は、本人の選考ゾーンである。
実施機関は、「第一次試験における選考において、第一次選考方針にあるA、B、Cゾーンを作成しているが、このゾーンは、選考作業のために作成するものであり、受験者本人に知らせるためのものではない。受験者が自分のゾーンを知り得た場合、受験者の間で無用の混乱を招くことになりうることから、選考試験の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがある」旨主張する。
当審査会において、本件対象保有個人情報(1)についての文書を実施機関に求めたところ、第一次試験のうち筆答試験(専門、一般教養・教職科目)、面接試験の総合得点をもとに、受験者を成績順に並べ替えた表を作成した後、第一次試験合格予定者数を勘案しながら、AゾーンとBゾーン、BゾーンとCゾーンの境界を示す線引きが行われた文書の提示を受けた。
しかしながら、これを見分したところ、第一次試験の結果により選考対象者(受験者)をA、B、Cの各ゾーンに分類しただけのものであり、受験者が個別にどのゾーンに属するかを記載した文書ではないことを確認した。
このことから、本件対象保有個人情報(1)については、保有個人情報としては不存在として、不開示の決定を行うことが妥当である。
イ 本件対象保有個人情報(2)について
本件対象保有個人情報(2)は、音楽と体育の二教科4種類の合計の点数である。
実施機関は、「試験員は、学校勤務の管理職職員など比較的限定された範囲の者から選任されており、受験者の多くが臨時的任用教員として学校に勤務していることを考慮した場合、試験員を特定できる可能性は高く、受験者から試験員に質問や苦情が寄せられることなどが予想され、試験員の公正な評価を保障するため不開示とした」旨主張する。
採点者が特定された場合は、試験員の公正な評価が保障されず、開示すると試験事務の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあることは否定できない。しかし、本件対象保有個人情報(2)は、各実技試験の合計点であり、開示しても採点者の特定はできず、各々の採点者が何点つけたかは判明しない。
したがって、試験員の公正な評価が保障されないというおそれはなく、条例第17条第7号に規定する当該事務の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあるとする実施機関の主張には合理的な理由がなく、妥当ではない。
ウ 本件対象保有個人情報(3)について
本件対象保有個人情報(3)は、論文試験の素点である。
論文試験の素点(得点)の開示については、申立人から、第三者を名あて人とする「平成18年6月13日付け「保有個人情報の開示をする旨の決定について」の通知」において、開示をする旨の決定がなされている旨の申立てがあったので、当審査会において、実施機関に当該事実を確認したところ、開示をする旨の決定をしている事実が認められた。
したがって、開示をしたとしても、実施機関の「点数を開示することによって、採点の適正さ等を問題視し、批判するような動きがあった場合、そのことにより試験員が心理的な影響を受け、採点に萎縮的な気持ちが生じることも予想し得るものであるため、試験員の公正な評価を保障するため不開示とした」という理由は成り立たず、条例第17条第7号には該当しないと思われ、実施機関の判断は妥当ではない。
エ 本件対象保有個人情報(4)について
本件対象保有個人情報(4)は、面接試験における受験者の適格性の程度の段階を記号で示したものである。
実施機関に面接試験について事情を聴取したところ、「埼玉県において、第二次試験の面接試験は、第一次試験と異なり、個人面接、場面指導、集団面接の三種類の面接があり、第一次試験の面接試験(課題討論)より一層掘り下げて、試験員が受験者の教員としての適格性等をみるものとなっている。本件対象保有個人情報(4)を開示した場合、試験員が学校勤務の管理職職員など比較的限定された範囲の者から選任され、試験員の特定は比較的容易であると思われる中で、試験員の率直な意見が評定に反映されにくくなり、評定に係る記載が形骸化、空洞化するおそれがある」という説明であった。
当審査会としては、評定の信頼性、妥当性が確保されるためには、試験員が受験者との面接において感じたことに基づき自由かつ率直に評定を行えることが求められるので、実施機関の主張には理由があると考える。
したがって、開示した場合、試験員の公正な評価が保障されず、実施機関が行う選考試験の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあるといえるため、条例第17条第7号に該当することが認められ、実施機関の判断は妥当である。
オ 本件対象保有個人情報(5)について
本件対象保有個人情報(5)は面接時の所見である。
面接試験は、実施機関によれば、「受験者の教員としての適格性を判断するために行われる」ものであり、教職への使命感、情熱及び児童生徒に対する深い愛情と理解のもと、互いに信頼関係を築き、職務を遂行できる能力を有しているかなど、児童生徒の教育に携わるに相応しいかどうかを判断する側面を具備していると思われる。
よって、本件対象保有個人情報(5)は、受験者の教員としての適格性を判断するため、試験員が面接時において受けた受験者に対する率直な印象など、必要と思われる事項を記載する性格のものであると考えられる。
実施機関は、「平成19年度採用選考試験においては、一覧表に面接時の所見という項目は作成していないため、不存在である」旨を主張する。
当審査会において、申立人から陳述を受け、実施機関から事情を聴取し、また、一覧表を見分したところ、一覧表には面接時の所見に相当する欄はないことが認められた。
しかしながら、面接時の所見について、申立人が主張する、第三者を名あて人とする「平成18年6月13日付け「保有個人情報の開示をしない旨の決定について」の通知」において、面接時の所見は作成されるものであることが推察された。
当審査会が実施機関から事情を聴取した結果、面接試験において作成される「面接評定票」が本件対象保有個人情報(5)に該当することが認められた。
したがって、本件対象保有個人情報(5)を不存在を理由として不開示とすることは妥当ではないと思われる。実施機関は、改めて保有個人情報の特定をした上で、開示・不開示の決定をすべきである。
カ 本件対象保有個人情報(6)について
本件対象保有個人情報(6)は、答案用紙の写し(論文試験)である。
実施機関は、「本件対象保有個人情報(6)には、素点(得点)以外にも、基準ごとの部分点や採点員のコメント等が書かれており、まさに、試験員が評価・判断した情報であるため、試験員の公正な評価を保障するため不開示とした」旨主張する。
当審査会において、実施機関から提出された答案用紙の写しを見分したところ、答案用紙には、問題文の欄、受験者が解答を記入する欄、受験番号を記載する欄が存在するが、素点(得点)欄はなく、また、部分点やコメント等を記載する欄は特別に設けられていないことが確認され、余白の部分等に、部分点や採点員のコメント等が書かれていることが確認された。
実施機関の行う選考試験は、教科指導における基礎的な技能もさることながら、与えられた課題に対する理解や対応など、受験者の教員としての適格性を総合的に勘案するものであると思われる。答案用紙の写しを開示した場合、採点において採点員が重視した内容が個別に判明するなどした結果、採点基準が推定されることとなり、受験技術に基づく偏った学習をする者が高得点を獲得するおそれが生じかねない。そのようなことになると、教員としての適格性を備えているかを判定する実施機関の選考試験の趣旨が損なわれてしまう。
したがって、答案用紙の写しを開示した場合、教員採用選考試験事務の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあるので、条例第17条第7号の規定により不開示としたことは妥当である。
キ 本件対象保有個人情報(7)について
本件対象保有個人情報(7)は、本人の領域である。
領域は、実施機関が選考のためにした独自な設定であり、選考方法の改善により学科試験に偏ることなく、人物重視の選考方法となるように工夫したものであって、論文試験と実技試験の得点を縦軸とし、面接試験結果を横軸とした二次元の中を分けたものである。
実施機関は、「本件対象保有個人情報(7)を開示した場合、論文試験と実技試験及び面接試験の結果を概ね予想することが可能となるため、開示することにより当該事務事業の適正な執行を著しく困難にするおそれがあるため不開示とした」旨主張する。
当審査会で、領域について実施機関に確認したところ、領域は、最終的な合否の選考のために、選考対象者(受験者)を論文・実技試験の得点と面接試験による評定をそれぞれ4段階に分割し、その相関により受験者を分割してランク付けをする16段階の領域であるとのことであった。
この領域について、本件対象保有個人情報(7)を受験者に個別に開示した場合、選考試験における手法等が明らかになる可能性は否定できない。
したがって、開示することにより実施機関が行う選考試験の事務の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあるといえるため、条例第17条第7号に該当することが認められ、実施機関の判断は妥当である。
(2)結論
よって、「1審査会の結論」のとおり判断する。
(答申に関与した委員の氏名)
徳本広孝、西村淑子、横山 豪
審査会の経過
年月日 |
内容 |
---|---|
平成19年4月27日 |
諮問を受ける(諮問第10号) |
平成19年6月13日 |
実施機関から理由説明書を受理 |
平成19年6月27日 |
実施機関からの意見聴取及び審議 |
平成19年7月6日 |
異議申立人から反論書を受理 |
平成19年7月18日 |
審議 |
平成19年8月29日 |
異議申立人及び補佐人による意見陳述及び審議 |
平成19年10月17日 |
審議 |
平成19年11月28日 |
審議 |
平成19年12月19日 |
審議 |
平成20年1月16日 |
実施機関からの意見聴取及び審議 |
平成20年2月20日 |
審議 |
平成20年3月10日 |
審議 |
平成20年4月28日 |
審議 |
平成20年5月20日 |
答申 |
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