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掲載日:2024年3月26日
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答申第13号(諮問第15号)
答申
1 審査会の結論
「審査請求人(以下「請求人」という。)の子が病院で原因不明の突然死で亡くなり、その後請求人が警察署に相談のため来署し、警察署が作成した相談等の記録」(以下「本件対象保有個人情報」という。)について、埼玉県警察本部長(以下「実施機関」という。)が平成19年10月24日付けで行った部分開示決定で不開示とされた部分のうち、実施機関の職員が本件苦情・相談等業務上行った処理・措置の経過や内容の記録の部分を開示するべきである。
2 審査請求及び審査の経緯
3 請求人の主張の要旨
(1)内容
本件対象保有個人情報の不開示とした部分の開示を求める。
(2)理由
ア 不開示部分のうち、子に関する情報は、父である請求人本人に関する情報と同視すべきである。そのため、子に関する情報は、条例第17条第3号の「開示請求者以外の個人に関する情報」には該当せず、請求人に対し開示しなければならない。仮に、子に関する情報が「開示請求者以外の個人に関する情報」に該当するとしても、請求人は子に関する情報を知るべき立場にあるのであるから、子に関する情報は、同号イの「慣行として開示請求者が知ることができ、又は知ることが予定されている情報」に該当し、請求人に対し開示しなければならない。
イ 不開示部分のうち、病院に関する情報は、子の診療の経過や死亡の経過・原因等に関するものであると思われる。病院は、子の遺族である請求人に対して民法第645条に基づく弁明義務があるため、かかる情報を開示しなければならない。そのため、病院に関する情報は、条例第17条第4号イの「開示することにより、当該法人等又は当該個人の権利、競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがあるもの」及びロ「実施機関の要請を受けて、開示しないとの条件で任意に提出されたものであって、法人等又は個人における通例として開示しないこととされているものその他の当該条件を付することが当該情報の性質、当時の状況等に照らして合理的であると認められるもの」には該当しないので、請求人に対し開示しなければならない。
ウ 子に関する情報、病院に関する情報は、上記ア及びイのとおり開示されるべきものである。このように開示が予定されているものであるから、開示することにより警察に対する苦情・相談等が消極的になるとともに、苦情・相談等に対する警察の具体的対応手法が推測され、業務の適正な遂行に支障を及ぼすおそれはない。そのため、これらの情報は、条例第17条第7号イ「監査、検査、取締り、試験又は租税の賦課若しくは徴収に係る事務に関し、正確な事実の把握を困難にするおそれ又は違法若しくは不当な行為を容易にし、若しくはその発見を困難にするおそれ」ないしはホ「県、国若しくは他の地方公共団体が経営する企業、独立行政法人等又は地方独立行政法人に係る事業に関し、その企業経営上の正当な利益を害するおそれ」に該当しないので、請求人に対し開示しなければならない。
エ 不開示部分のすべての情報は、請求人が、子が死亡するに至った経緯及び死亡後の状況等を知るために重要なものである。そのため、子に関する情報を開示することは、請求人の知る権利を保護するために特に必要である。不開示部分のすべての情報は、条例第19条の「実施機関は、開示請求に係る保有個人情報に不開示情報(第17条第8号に該当する情報を除く。)が含まれている場合であっても、個人の権利利益を保護するため特に必要があると認めるときは、開示請求者に対し、当該保有個人情報を開示することができる。」との規定により、裁量的開示をすべきである。
4 諮問庁の主張の要旨
本件対象保有個人情報は、管理票に記載されている。管理票とは、「埼玉県警察苦情・相談取扱規程」(以下「苦情・相談取扱規程」という。)に基づき、実施機関に対する苦情・相談等の申出内容や苦情・相談等業務を迅速かつ的確に行うために講じられた内容を記録するものである。この管理票のうち、開示しない情報及びその理由は次のとおりである。
(1)開示しない情報
警部補以下の職員の氏名
開示しない理由
実施機関においては、一般に販売されているような職員録は存在しない。また、警察活動に従事している職員の氏名を公開した場合、業務の特殊性により職員個人の私生活に及ぼす影響が大きいことから、人事異動に関する情報は、警部及び警部相当職以上の職員の職名及び氏名に限り公表している。これらのことから、実施機関が慣行として公にしているのは、警部及び警部相当職以上の職員の氏名である。
よって、警部補以下の職員の氏名は、条例第17条第3号に該当する不開示情報である。
(2)開示しない情報
申出内容及び処理経過のうち、請求人以外の個人に関する情報及び法人に関する情報
開示しない理由
当該不開示部分には、本件対象保有個人情報の作成等に関与した実施機関の職員及び病院関係者の氏名や具体的発言内容、病院の対応等の情報が記載されている。これらの情報が開示されることとなった場合、発言者の特定が可能になるなど関係者の権利利益を害することとなるとともに、法人としての病院の権利、競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがあるばかりでなく、実施機関が行う苦情・相談等業務の適正な遂行が困難となるおそれがある。よって、申出内容及び処理経過のうち、請求人以外の個人に関する情報及び法人に関する情報は、条例第17条第3号、第4号イ及び第7号に該当する不開示情報である。
(3)開示しない情報
申出内容及び処理経過のうち、実施機関の職員が主体的に把握した事項
開示しない理由
当該不開示部分には、実施機関の職員の所見等が記載されている。これらが開示されることとなった場合、実施機関の職員が率直な記載を避け、あるいは記載内容が抽象化するなどのおそれがあり、実施機関が行う苦情・相談等業務の適正な遂行が困難となる蓋然性が高い。よって、申出内容及び処理経過のうち、実施機関の職員が主体的に把握した事項は、条例第17条第7号に該当する不開示情報である。なお、これらの開示しない情報は、開示しないことにより保護すべき利益を害してまでも特別に開示すべき必要はない情報であることから、条例第19条の規定に基づく裁量的開示を行わなかったものである。
5 審査会の判断
請求人は、本件対象保有個人情報のうち不開示とされた部分には、子が死亡するに至った経緯及び死亡後の状況等を知るために重要な情報が記載されているはずであると主張している。そこで、当審査会で管理票を見分したところ、不開示とされた部分には、該当する情報は記載されていないことを確認した。一方で、不開示とされた部分には、(1)実施機関の職員の氏名、(2)病院関係者の氏名及びその具体的発言内容、(3)実施機関の職員が本件苦情・相談等業務上行った処理・措置の経過や内容・評価の記録、の3種類に分類できる記載がなされていることを確認した。そこで、当審査会は、実施機関がこれらを不開示としたことの是非を検討した。
(1)実施機関の職員の氏名
諮問庁は、実施機関が慣行として公にしているのは警部及び警部相当職以上の職員の氏名であるため、警部補以下の職員の氏名は、条例第17条第3号に該当する不開示情報であると主張している。公務員の職務遂行に係る情報に含まれる当該公務員の氏名については、開示した場合、その私生活等に影響を及ぼすおそれがあり得ることから、原則として保護に値すると位置づけた上で、条例第17条第3号イ「法令の規定により又は慣行として開示請求者が知ることができ、又は知ることが予定されている情報」に該当する場合には例外的に開示することとされている。このうち、「慣行として開示請求者が知ることができ、又は知ることが予定されている」場合には、実施機関により氏名を公表する慣行がある場合や、実施機関により作成され、又は実施機関が公にする意思をもってあるいは公にされることを前提に提供した情報を基に作成され、現に一般に販売されている職員録に氏名が掲載されている場合が該当する。したがって、請求人が対応した公務員の氏名を知っていたとしても、それだけでは「慣行として開示請求者が知ることができ」た情報とは言えない。当審査会で確認したところ、実施機関は人事異動の際に職員の氏名を公表しているが、その対象は警部及び警部相当職以上の職員であること、実施機関の職員の氏名を記載した職員録は販売されていないこと、の事実が認められた。よって、警部補以下の職員の氏名は条例第17条第3号に該当する不開示情報であるとする諮問庁の主張は是認できる。
(2)病院関係者の氏名及びその具体的発言内容
諮問庁は、これらの情報が開示された場合、発言者の特定が可能になるなど病院関係者の権利利益を害することとなるとともに、法人としての病院の権利、競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがあるばかりでなく、実施機関が行う苦情
相談等業務の適正な遂行が困難となるおそれがあるため、条例第17条第3号、第4号イ及び第7号に該当し不開示としたと主張している。このうち、病院関係者の氏名は、条例第17条第3号に該当する不開示情報であ
ることが認められる。また、その具体的発言内容は、個人の発言であるとともに法人たる病院を代表する発言でもあることから、条例第17条第3号及び第4号イに該当する不開示情報であることが認められる。さらに、発言は対応した実施機関の職員に対して任意になされたものであり、開示した場合、今後実施機関の行う苦情・相談等業務への病院関係者の対応が消極的になったり、あるいは発言が抽象化したりするおそれも認められる。その上、実施機関は、苦情・相談取扱規程により、苦情・相談等業務に当たっては、職務上知り得た秘密を厳守すること、及び関係者の名誉や信用を損なうことのないよう配慮しなければならないこと、の義務を負っている。このことから、実施機関が苦情・相談等業務において得られた情報の取扱いに慎重を期している事実が認められる。よって、病院関係者の氏名及びその具体的発言内容が条例第17条第3号、第4号イ及び第7号に該当する不開示情報であるとする諮問庁の主張は是認できる。
(3)実施機関の職員が本件苦情・相談等業務上行った処理・措置の経過や内容・評価の記録
諮問庁は、これらが開示されることとなった場合、実施機関の職員が率直な記載を避け、あるいは記載内容が抽象化するなどのおそれがあり、実施機関が行う苦情
相談等業務の適正な遂行が困難となる蓋然性が高いと主張している。しかし、このうち、処理・措置の経過や内容の記録は、本件苦情・相談等業務に関する事実や病院に対しての指示であり、これらを開示したとしても、実施機関が行う苦情・相談等業務の適正な遂行が困難となるおそれがあるとは認められない。また、請求人の個人情報でもあることから、これらについては開示すべきである。一方、評価の記録は、実施機関の職員が本件苦情・相談等業務に関する事実に対する判断・評価を記載したものであり、開示した場合、実施機関の行う苦情・相談等業務に支障を来すおそれが認められる。よって、これらが条例第17条第7号に該当する不開示情報であるとする諮問庁の主張は是認できる。なお、請求人は、不開示部分の裁量的開示を求めているため、この点について検討する。
条例第19条の裁量的開示とは、条例第17条第1号から第7号までのいずれかに該当する情報であっても、個人の権利利益を保護するため特に必要があると認めるときは、実施機関の高度の行政的な判断により開示することができるものである。請求人は、自身の知る権利を保護するために特に必要であるから、本件対象保有個人情報のうち不開示とされた部分のすべてを裁量的開示すべきであると主張している。しかし、すでに述べたとおり、当審査会は、管理票の不開示とされた部分には請求人が開示を求める情報は記載されていないことを確認した。また、不開示とされた部分のうち、実施機関の職員が本件苦情・相談等業務上行った処理・措置の経過や内容の記録の部分を除く部分について、これらを不開示とすることにより保護すべき利益を犠牲にしてまで請求人に開示すべき特段の必要性があるとは認められない。したがって、特別に開示すべき必要はないとして実施機関が裁量的開示を行わなかったとする諮問庁の主張は是認できる。
以上のことから、「1審査会の結論」のとおり判断する。
(答申に関与した委員の氏名)
大橋豊彦、栗田和美、西村淑子
審査会の経過
年月日 |
内容 |
---|---|
平成20年1月16日 |
諮問を受ける(諮問第15号) |
平成20年2月20日 |
諮問庁から理由説明書を受理 |
平成20年3月21日 |
諮問庁からの意見聴取及び審議 |
平成20年4月11日 |
審査請求人から反論書を受理 |
平成20年4月15日 |
審査請求人による意見陳述及び審議 |
平成20年5月20日 |
諮問庁からの意見聴取及び審議 |
平成20年7月22日 |
審議 |
平成20年9月16日 |
答申 |
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