ページ番号:18304
掲載日:2024年4月2日
ここから本文です。
答申第5号(諮問第5号)
答申
1 審査会の結論
「措置入院のための移送に関する事前調査及び移送記録票」(以下「記録票」という。)及び「措置入院に関する診断書」(以下「診断書」という。)に記載された保有個人情報(以下「本件対象保有個人情報」という。)につき、埼玉県知事(以下「実施機関」という。)が行った部分開示決定については、記録票のうち事前調査の総合判定の「理由」欄を開示すべきである。
2 異議申立て及び審査の経緯
3 申立人の主張の要旨
開示された内容は、すべて不開示と言ってもいい程の内容となっている。個人名等は開示しなくても宜しいので、もう少し開示とする部分を増やしてもらいたい。
自身の健康状態というようなものを自身が知って誰の権利利益を害するというのか。警察が示すものと、保健所が示すものとを比べると大分食い違いがある。また、それらと診断した医師の言った事を比べると、更に、食い違いは大きいものとなっている。そのため、不開示とされた部分を開示するよう求めるものである。
4 実施機関の主張の要旨
本件における記録票は、精神保健及び精神障害者福祉に関する法律(以下「法」という。)第24条の規定に基づく警察官通報を受けた実施機関が、法第27条第1項の規定に基づき、精神保健指定医(以下「医師」という。)による診察の必要の有無を判断する際に作成したものであり、診断書は法第27条第1項に基づき、診察の際に医師が作成したものである。
記録票において不開示とした部分は、法第24条の規定に基づき行われた警察官通報により通報された者(以下「被通報者」という。)に対し、医師による診察を受けさせるかどうかに関する評価及び判断を伴う部分であり、元々、被通報者本人に知らせないことを前提に記載されたものである。開示することが前提となった場合、法が規定する精神保健診察事務の適切な執行に重大な支障を及ぼすおそれがあるため、条例第17条第7号の規定に基づき不開示としたものである。
診断書において不開示とした部分については、措置入院に関する診察は、医師が患者の求めに応じて行う診察とは異なり、本人の意思にかかわらず行われることから、記載内容は、より客観的かつ詳細な記載が求められるものである。そのため、開示することを前提とした場合、法の規定に基づく精神保健診察事務の適正な執行に重大な支障を及ぼすおそれがあるため、条例第17条第7号の規定に基づき不開示としたものである。
5 審査会の判断の理由
(1)記録票及び診断書について
法によれば、警察官は、「異常な挙動その他の周囲の事情から判断して、精神障害のために自身を傷つけ又は他人に害を及ぼすおそれがあると認められる者を発見したときは、直ちに、その旨を、もよりの保健所長を経て都道府県知事に通報しなければならない。」(法第24条)ものとされ、都道府県知事は、被通報者について「調査の上必要があると認めるときは、その指定する指定医をして診察をさせなければならない。」(法第27条第1項)とされている(この診察をさせるために被通報者を医師の許に連れて行くことは「移送」と呼ばれることがある。)。さらに、この規定による診察の結果、「精神障害者であり、かつ、医療及び保護のために入院させなければその精神障害のために自身を傷つけ又は他人に害を及ぼすおそれがあると認めたとき」は、被通報者を精神病院等に入院させることができる(法第29条第1項)とされている(この強制的に行い得る入院は「措置入院」と呼ばれている。)。そして、事柄の性質上、都道府県知事が通報を受けてから医師の診察を受けさせるまでの過程は、短時間のうちに行われる必要がある。
記録票は、被通報者について、実施機関が医師の診察を受けさせる必要があるか否かを判断するに当たっての詳細な資料及び判断結果を記載したものである。
診断書は、被通報者について診察を行った医師が当該診察結果を記載したものであり、実施機関が措置入院をさせるか否かを判断する際に決定的な役割を果たしている。
また、記録票及び診断書は、措置入院に係る手続きが、本人の意思に反しても医師による診察を受けさせ又は入院させる手続きであり、本人の自由や権利に多大な影響を及ぼすおそれを有することから、作成者が持つ専門性を十分に生かした上で客観的に記載されることが求められているものである。
(2)記録票のうち「職員訂正印」、「職員氏名」及び「記録者の氏名」並びに診断書のうち「精神保健指定医の署名」及び「職員氏名」(以下「職員等氏名」という。)について
職員等氏名については、実施機関は、不開示の根拠として条例第17条第7号に該当する旨を主張しているが、当審査会は条例第17条第3号に該当する可能性があると考えるので、以下検討する。
条例第17条第3号は、「開示請求者以外の個人に関する情報であって、当該情報に含まれる氏名、生年月日その他の記述等により開示請求者以外の特定の個人を識別することができるもの。」を不開示情報として規定している。
記録票及び診断書を見分したところ、職員等氏名は、開示請求者以外の特定の個人を識別することができるものに該当することは明らかである。
次に、このような職員等氏名について、条例第17条第3号ただし書きの開示すべき場合に該当するか否かについて検討する。
まず、ただし書きイについては、一般の公務員氏名の場合の取扱いとは異なり、措置入院に係る手続きに直接携わる者の氏名である職員等氏名に関しては、開示する慣行があるものとは認められない。したがって、ただし書きイに該当しない。
また、ただし書きロについては、現実に、人の生命、健康等に被害が発生し又は将来人の生命、健康等が侵害される蓋然性が高いとする特段の事情を認めることはできない。したがって、ただし書きロに該当しない。
さらに、ただし書きハについては、公務員等の職及び職務の遂行に係る情報を対象としたものであり、職員等氏名は、職及び職務の遂行に係る情報とは必ずしも言えないことから、ただし書きハに該当しない。
以上のことから、職員等氏名は、条例第17条第3号の不開示情報に該当するものと認められる。
(3)記録票のうち、「調査時の状況」、「生活歴及び家族状況」及び事前調査の総合判定の「理由」について
ア記録票のうち「調査時の状況」欄及び「生活歴及び家族状況」欄は、実施機関が、本人及び警察官等から聴取した内容を総合的に勘案し、措置入院に関する診断が必要か否かを判断する際の根拠や参考となる事項を記載するものである。
そのため、例えば、本人にとってマイナスと評価される事項や本人が記載されることを希望しないと想定される事項であっても、判断に際し必要な内容であれば、率直に記載することが求められている。したがって、不開示とした部分を開示した場合、実施機関は、記載内容について、本人に説明することの困難さを懸念し、今後、説明が容易になるよう記載内容を簡略化したり、本人に不利と解される事情の記載を曖昧な記載に変えたり、あるいは本人が記載を希望しない事項を記載しなくなるなど、客観的かつ詳細な記載がなされなくなるおそれが生じる。
また、開示される可能性があるとした場合、関係機関等からの調査協力を得にくくなるなど、実施機関が客観的な判断をするに当たり必要な情報を短時間に収集することが困難になることから、今後、診断が必要か否かについての判断を行うための調査を適正に実施することが著しく困難になることも予想される。
以上のことから、記録票のうち「調査時の状況」欄及び「生活歴及び家族状況」欄は、これを開示することになれば、今後の当該事務又は事業の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあり、条例第17条第7号の不開示情報に該当するものと解される。
イ記録票のうち事前調査の総合判定の「理由」欄は、警察官通報が行われた状況や本人から聴取した事項などに基づき、実施機関が、措置入院に関する診察が必要か否かを判断した理由について記載するものである。
当該欄は、例えば、関係機関等からの調査協力により特に把握できた機微な事項などが記載されている場合には、開示することにより関係機関等との信頼関係や協力関係が損なわれ、その結果、今後の情報収集が困難になるなど事務又は事業の適正な遂行に支障を及ぼすおそれが生じることはありえるが、本件事案における当該欄を見分したところ、実施機関が事実であると認定した客観的な事項や本人から直接聴取したと解される内容などが記載されているにすぎないものであり、必ずしも機微な事項が記載されているわけではない。
したがって、記録票のうち事前調査の総合判定の「理由」欄は、これを開示することにより、関係機関等との信頼関係や協力関係が損なわれ、情報収集が困難になるなど、今後の事務又は事業の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあるものとは認められないので、当該部分については開示すべきである。
(4)診断書のうち「病名」、「生活歴及び現病歴」、「問題行動」、「現在の病状又は状態像」及び「診察時の特記事項」について
診断書のうち「病名」欄、「問題行動」欄、「現在の病状及び状態像」欄及び「診察時の特記事項」欄(以下「病名欄等」という。)は、診察を行った医師が医学的な判断に基づき記載し、また、「生活歴及び現病歴」欄は、診察を行った医師が医学的な判断を行う際に必要となると判断した情報を記載している。
実施機関が不開示としたこれらの項目については、本人に開示されないことを前提に、被診察者の意向にとらわれず、本人にとってマイナスと評価され得る内容も含め客観的に記載することが必要であると認められる。
これらの項目を開示することとした場合、今後、医師は、本人に説明することが容易となるよう、病名欄等については記載内容を省略又は簡略化したり、曖昧な表現に変え、また、生活歴及び現病歴欄については本人が否定する情報の記載を避けるようになるなど必要な記載を十分に行わなくなることが予想される。
そのため、これらの項目の開示は、今後の当該事務又は事業の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあり、条例第17条第7号の不開示情報に該当するものと解される。
以上のことから、「1審査会の結論」のとおり判断する。
(答申に関与した委員の氏名)
常岡孝好、清野幾久子、横山豪
審議の経過
年月日 |
内容 |
---|---|
平成18年4月18日 |
諮問を受ける(諮問第5号) |
平成18年5月9日 |
実施機関より部分開示決定理由説明書を受理 |
平成18年5月31日 |
実施機関からの意見聴取及び審議 |
平成18年6月28日 |
異議申立人による口頭意見陳述及び審議 |
平成18年7月19日 |
審議 |
平成18年8月31日 |
審議 |
平成18年9月27日 |
審議 |
平成18年11月8日 |
審議 |
平成18年12月20日 |
審議 |
平成19年1月17日 |
審議 |
平成19年1月24日 |
審議 |
平成19年1月30日 |
答申 |
お問い合わせ
より良いウェブサイトにするためにみなさまのご意見をお聞かせください