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掲載日:2024年4月4日
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答申第18号(諮問第19号)
答申
1 審査会の結論
埼玉県警察本部長(以下「実施機関」という。)が、平成19年度第2回警察官採用試験における「身体検査書(2)」及び「身体検査メモ」(以下「本件対象保有個人情報」という。)について、平成19年12月7日付けで行った部分開示決定で不開示とした部分のうち、審査請求で開示を求めなかった部分を除き、すべて開示すべきである。
2 審査請求及び審査の経緯
3 請求人の主張の要旨
(1)身体検査書(2)について
「開示しない理由」の「診断医師による受験者の総合所見が記載されており、開示することにより、診断医師が総合所見を率直に記載することが困難となり、適正な採用試験業務の遂行に支障を及ぼす」とする理由による一部開示決定を取り消し、「診断医師の氏名及び印影」以外の「身体検査書(2)」の全ての事項の開示を求める。
ア 身体検査書の総合所見は、受験者が警察官として職務執行が可能かどうかを医学的見地から判断したものであり、総合所見にどのように書かれていても、誤診でない限りは客観的事実として医学的に証明されているのだから、診断医師に対しては文句の付けようもない。記載内容を知るからといって、責任を問われる可能性が増すわけではなく、受験者への開示を理由に自己の判断を事実に反して変更することは有り得ない。
イ 万が一、診断医師の総合所見が誤診に基づくものであった場合、総合所見の妥当性を事後的にチェックすることができなくなり、採用試験の適正な実施を保障できないことになる。
ウ 受験者の身体に異常が存在しないのであれば、総合所見には職務遂行が可能である旨が記載されるはずであり、それを受験者が知ることによって「適正な採用試験業務の遂行に支障を及ぼす」可能性は皆無である。
エ 条例は、本人に対して自己に関する情報を開示することを原則とし、「不開示情報」に該当する場合にのみ例外的に開示しないことができるとしている。前述のような極めて低い危険性を「不開示」の根拠として認めることは「不開示情報」の範囲を著しく広げるものであって、「個人情報の適正な取扱いに関し必要な事項を定めることにより、行政の適正かつ円滑な運営を図りつつ、個人の権利利益を保護する」という条例の趣旨に照らして妥当ではない。
オ 栃木県などは、受験者が各自医師に受診して診断書を提出する方式を採っており、提出する診断書に記載されている内容も自ら確認できる。このような場合、医師が受験者との関係に配慮して虚偽の記載をするとは考えられず、このような方式をとるからといって、採用試験業務の適正な実施が妨げられるとは到底考えられない。このことから、医師の総合所見が「不開示情報」として秘匿されなければならないものではない。
(2)身体検査メモについて
「開示しない理由」の「開示することにより、受験者の健康状態等の正確な把握が困難となる」とする理由による一部開示決定を取り消し、「身体検査メモ」の「検査員の印影」以外の全ての事項の開示を求める。
ア 身体検査で確認される事項は、例えば、関節がきちんと曲がるか、真っ直ぐ伸ばせるかといったことのはずである。関節がきちんと曲がらない者が、きちんと曲がるように装うことができるだろうか。検査員がきちんとチェックしていないようなことがあれば、誤魔化すことも可能かもしれないが、問題は検査員がきちんとチェックしていないことで、受験者が身体検査の確認事項を知っているか否かによるものではない。
イ 身体検査においては、客観的合理的基準に従って検査がなされているはずであり、結果等の合理的説明は容易である。仮に、受験者が説明を求めるとしても、客観的事実の通りに正しく判定しているなら、受験者は文句の付けようもない。検査員にしても、結果が開示されるとなれば、きちんと説明できるような客観的合理的評価をしようと試みるはずであり、事実に反して否定的な評価についての記載を差し控えるとは考えにくく、むしろ、開示されない場合にこそ、事後的に評価の妥当性を確認できない点で、誤った評価がなされる危険性を高めるものと考えられる。
ウ 「判定結果」についても、確認結果以外の事項も考慮してなされるものであるとしても、客観的になされるべきことは言うまでもない。開示されようとなかろうと、合理的かつ客観的な判定を記すはずである。むしろ、開示されるからこそ、より客観的かつ合理的に判定しなければならないと考えるはずであり、そう考えて判定することが適正な採用試験業務の遂行に支障を及ぼすとは考えられない。
エ 公正に行われるべき公務員の採用試験において、合否決定過程には透明性が確保されなければならない。評価の基準や実際の評価が開示されなければ、その評価が真に適正に行われているか否か確認できない。
4 諮問庁の主張の要旨
(1)身体検査書(2)について
不開示とした総合所見は、受験者に対する各検査の結果及び各検査の過程において診断医師が把握した事項等、診断医師による受験者に対する総合所見が記録される部分である。不開示部分を開示した場合、診断医師が受験者との間に後日生じるかもしれないトラブルの発生を予想し、受験者に否定的な評価についてありのままに記載することを差し控えたり、画一的な記載に終始し、採用試験に必要な本人の正確な情報の記録がされなくなることが想定されることから条例第17条第7号に該当する。
(2)身体検査メモについて
ア 身体検査の確認事項、確認結果及び部位・程度等の情報
身体検査の確認事項等を開示した場合、支障のある者が、あたかも支障のないように装うなど、警察官として職務遂行上必要となる身体・体力等の有無について正確に判断することが困難となり、適正な警察官採用試験業務の遂行に支障を及ぼすおそれがあることから、条例第17条第7号に該当する。
また、確認結果及び部位・程度を開示した場合、身体検査の確認事項が推測されるおそれがあり、支障のある者が、あたかも支障のないように装うなど、警察官として職務遂行上必要となる身体・体力等の有無について、正確に判断することが困難となり、適正な警察官採用試験業務の遂行に支障を及ぼすおそれがあることから条例第17条第7号に該当する。
上記以外の部分を開示した場合、検査員の所見等について、説明を求められるような事態の発生を意識し、また、受験者との間に後日生じるかもしれない信頼関係上のトラブルの発生に配慮し、画一的な評価、記載に終始し、採用試験に必要な本人の正確な情報の記録がされなくなることが想定されることから条例第17条第7号に該当する。
イ 判定結果
身体検査の検査課程において把握した確認事項以外の事項も考慮して行った判定結果であることから、検査員の評価と受験者の認識の食い違いについて、検査員が試験後、受験者に評価の内容等を説明しなければならない場合の困難さを予想し、また、受験者との間に後日生じるかもしれない信頼関係上のトラブルの発生に配慮して、身体検査の確認事項に係る確認結果及び身体検査の検査過程において把握した確認事項以外の事項について、受験者の否定的な評価を判定結果に反映することを躊躇するなど適正な警察官採用試験業務の遂行に支障を及ぼすおそれがあることから条例第17条第7号に該当する。
5 審査会の判断
当審査会において、本件対象保有個人情報に係る部分開示決定について請求人及び諮問庁の主張を検討した結果、次のように判断する。
(1)本決定の妥当性について
ア 「身体検査書(2)」について
諮問庁は、総合所見を開示した場合、診断医師と受験者との間に後日生じるかもしれないトラブルの発生を予想し、受験者に否定的な評価について、ありのままに記載することを差し控えたり、画一的な評価、記載に終始し、採用試験に必要な本人の正確な情報の記録がされなくなることが想定されると主張している。しかしながら、総合所見は、医師の診断により、身体に異常があるか否かの事実が客観的に記載される部分であり、診断医師が医学的に認定した事実を本人に対して開示することが、今後の採用試験業務の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあるものとは認められない。よって、診断医師と受験者との間に後日生じるかもしれないトラブルの発生を予想し、受験者に否定的な評価についてありのままに記載することを差し控えたり、画一的な評価、記載に終始し、採用試験に必要な本人の正確な情報の記録がされなくなるとして不開示とした理由は認められず、条例第17条第7号に該当するとした諮問庁の主張は、妥当ではない。
イ 身体検査メモについて
「身体検査の確認事項、確認結果及び部位・程度等の情報」と「判定結果」について、諮問庁は、「身体検査の確認事項、確認結果及び部位・程度等の情報」については、確認事項、確認結果及び部位・程度等の情報を開示した場合、支障のある者が、あたかも支障がないように装うおそれがあると主張している。また、上記以外の部分を開示した場合、検査員が、受験者から所見等についての説明を求められることを想定して、信頼関係上のトラブルの発生に配慮し、否定的な評価をありのままに記載することを差し控え、画一的な評価、記載に終始し、正確な情報の記録がされなくなるおそれがあると主張している。開示することにより、支障のある者が、あたかも支障がないように装うという理由については、請求人が主張するところの、関節がきちんと曲がらない者が、きちんと曲がるように装うことができるかということを考えれば、理由として妥当ではないと思われる。また、検査員が、所見等についての説明を求められることを想定し、信頼関係上のトラブルの発生に配慮して、否定的な評価を記載することを差し控え、正確な情報の記録がされなくなるおそれがあり、適正な採用試験業務の遂行に支障を及ぼすおそれがあるとして不開示とした理由は認められず、条例第17条第7号に該当するとした諮問庁の主張は、妥当ではない。
「判定結果」についても、検査員の評価と受験者の認識の食い違いについて、検査員が受験者に評価の内容等を説明しなければならない困難さを予想し、また、受験者との間に後日生じるかもしれない信頼関係上のトラブルの発生に配慮して、否定的な評価を判定結果に反映することを躊躇するなど、適正な採用試験業務の遂行に支障を及ぼすおそれがあるとして不開示とした理由は認められず、条例第17条第7号に該当するとした諮問庁の主張は、妥当ではない。
(2)結論
以上のことから、「1審査会の結論」のとおり判断する。
(答申に関与した委員の氏名)
大橋豊彦、栗田和美、西村淑子
審査会の経過
年月日 |
内容 |
---|---|
平成20年3月26日 |
諮問を受ける(諮問第19号) |
平成20年4月23日 |
諮問庁から理由説明書を受理 |
平成20年5月20日 |
審議 |
平成20年6月6日 |
審査請求人から反論書を受理 |
平成20年6月24日 |
諮問庁からの意見聴取及び審議 |
平成20年9月16日 |
審議 |
平成20年10月14日 |
審議 |
平成20年11月18日 |
審議 |
平成20年12月2日 |
諮問庁からの意見聴取及び審議 |
平成21年2月17日 |
審議 |
平成21年3月19日 |
審議 |
平成21年3月27日 |
答申 |
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