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掲載日:2023年1月10日
環境科学国際センター研究課題(土壌・地下水・地盤担当/R4~R6)
硝酸―亜硝酸性窒素による汚染地下水の水質特性と帯水層の解析
(土壌・地下水・地盤担当:石山、柿本、濱元、高沢/R4~R6)
埼玉県内には、硝酸-亜硝酸性窒素による地下水汚染が多数存在します。これらの汚染井戸(継続監視井戸)のなかには、近接する井戸が多数存在するため、水質監視事業の効率化と合理化という観点から、水質特性などに基づいた継続監視井戸の絞り込みが強く求められています。
本研究では、硝酸性及び亜硝酸性窒素の継続監視井戸を対象に、無機類成分の存在比率や当該地域の地質柱状図を基に帯水層解析を実施します。硝酸性及び亜硝酸性窒素の発生源は、農用地における施肥や畜舎における家畜糞尿であることが知られています。施肥は面源汚染であり、現状では農家に対する指導と周辺地下水のモニタリングが主な取り組みになっています。一方、家畜糞尿は事業所由来であるため、発生場所の特定と排出抑制対策の徹底が極めて重要です。本研究では、地下水の水質分析の結果から、両発生源の判別因子についても併せて検討します。
令和4年度第1回研究審査会コメント
研究課題
硝酸―亜硝酸性窒素による汚染地下水の水質特性と帯水層の解析
研究審査会コメント
- 窒素発生源としては、家畜系のものがかなり多いことが予想されるものの、その把握は難しく、本課題での目的は極めて重要です。水域の富栄養化解析には、通常、多くは面源として評価されるものの、実際には、個別の排出源に起因している場合も多く、その評価を確立する上でも重要です。また、こうした栄養塩が地下帯水層に流入すると、その後の把握は極めて難しいです。そうしたことから、帯水層にまで踏み込むことは、科学的にも新規で重要な課題といえます。研究の目標としては極めて妥当です。
畑地、畜舎等といった、発生源の特定は重要です。含まれる化学物質からの推定は重要な作業です。ただ、発生源の量的な評価にまで結びつけるまでには、もう一工夫必要となります。水質予測モデルなどへの利用も考えて、土地利用などとの量的な関係づけも考えられます。
その場合、畑地からの発生など、濃度は低いものの面積が重要になるものは、土地利用分布などとの関連付けが考えられますが、畜舎、特に、豚舎からの排水は窒素濃度が高く、発生源の特定には、畜舎の排水システムを注意深く観察してまわるといった作業が必要になります。しかし、それでも、実際には降雨時には管理は難しいなど、十分な管理ができていない場合は多く、単位排出量の評価においては、家畜の数の分布と関係づけることもありそうです。
埼玉県の場合、都内からの大気に依存する量も多いです。発生源としての評価も必要になります。ただし、全量を問題にする場合には、必ずしも全ての発生源にわたって詳細に評価する必要はなく、畑地、畜舎、住宅地、大気からの発生量など、発生源ごとに概略の評価を行って、重要なものについてのみ考えるといったことも必要です。
本研究の最終的なまとめにおいては、地下帯水層を含む具体的な現象の分析、流域からの流出量として評価モデルへの利用などいくつかの方向が考えられます。分野は多少異なるものの、いずれにおいても、これまで、帯水層といった視点で深く掘り下げたものは少ないです。海外への発信も重要です。
- 水質監視事業の効率化を目的とした実用性の高い研究であると考えます。監視井戸の削減を実現するためには、説得力のある結果が求められると思いますので、陸水学と化学の両アプローチともに研究成果が得られることを期待します。
- 井戸の継続監視を行う労力やコストを低減するために寄与することの可能な研究です。汚染の排出源の特定の可能性もあるということで、成果は当該分野でも注目が大きいと感じました。
- 埼玉県内での行政利用の出口、さらにその先のより広域への展開の点での波及効果、が明確に説明されており、有用性・実用性が高いということについて理解できました。監視井戸の絞り込みについてgood practiceを示していただきたいと思います。
- 対象物質は過去から問題のある事象ですが、帯水層に着目し、地質(ボーリングデータ)等も含めた解析を行うことで、合理的な計測ポイント設定が期待できます。県での活用のみならず、成果は、全国にも活用できる可能性が高いです。汚染源の検討については、トレーサーとして有用なものの抽出など、進めて、将来的な発生源対策につなげていただきたい。