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掲載日:2023年5月9日

平成31年2月定例会 「熊谷市上之地内における農地転用許可等調査特別委員長報告」

委員長   長峰   宏芳

熊谷市上之地内における農地転用許可等調査特別委員会における審査経過の概要について、御報告申し上げます。
本委員会は、昨年の9月定例会において付託された案件について、去る3月12日をもって調査を終了いたしました。
本日は、事案の概要、明らかとなった問題点、指摘事項等について、お手元の報告書の巻頭に折り込んでいる概要資料「熊谷市上之地内における農地転用許可等に係る事案の概要等」に沿う形で、順次説明いたします。
まず、本委員会の設置目的等について申し上げます。
調査の対象とした案件は、平成29年4月に、第1種農地の転用を、例外的に認められた株式会社新井機械製作所(以下「新井機械」と申し上げます。)が、事業計画どおりに事業を行わずに、平成30年3月に株式会社ヤオコーに土地建物を転売した件です。経緯や手続きに不透明な部分が多いことから、昨年9月定例会において、真相の解明のため、地方自治法第100条に基づく調査特別委員会を設置することと決定されました。
次に、委員会の開催状況等について申し上げます。
本委員会は、計8回にわたり開催しました。この間、委員会の権能を活用し、延べ15名の証人に出頭と証言を求めるとともに、執行部への質問を行うなどの調査を行いました。また、資料についても、証人、執行部及び関係機関から合わせて163点の記録等の提出を受けました。
さらに、昨年11月には熊谷市上之の土地を、今年1月には本件土地の公共移転元となった山形県米沢市の土地を現地確認し、精力的に調査を進めたところであります。
概要の左上の図を御覧ください。事案の概要についてであります。
農地転用手続には熊谷市所管の開発許可や農用地利用計画の変更手続、いわゆる農振除外についても密接に関係していることから、本委員会は、これらを一体として調査しました。
まず、熊谷市が開発許可の要件とした公共移転についてです。
深谷市の食品機械メーカーである新井機械が、山形県米沢市に所有していた土地建物について、敷地の一部が東北中央自動車道建設工事のために収用対象となり、平成23年10月、国土交通省東北地方整備局山形河川国道事務所に収用されました。この際、収用された土地は、実測約226平方メートルであり、建物は移転・除却の対象ではありませんでした。
平成26年、新井機械は、高速道路の開通を見込み、現地でのスーパーマーケット事業を検討しましたが、工事により国道への出入口がほぼ塞がれることを理由に断念しました。そして、知人から紹介された田並胤明氏に依頼し、埼玉県内でスーパーマーケットを開店すべく、収用事業に伴う「公共移転」として調整を始めました。
田並氏は、事前相談として、平成26年8月から平成27年7月にかけて、熊谷市上之地内の本件土地を候補地とする調整を、埼玉県大里農林振興センター(以下「大里農林」と申し上げます。)及び熊谷市と断続的に行いました。
昭和44年の農林省・建設省の覚書により、開発許可と農地転用許可は相互に連絡・調整して行うこととなっているため、熊谷市と大里農林の双方が十分な調整を行う必要がありました。
本件土地は市街化調整区域内にあるため、開発行為は制限されていましたが、公共移転であれば例外的に開発許可の見込みがありました。
しかし、今回、開発許可の根拠とされた「土地収用等証明書」に記載されていた土地の面積は、実際に収用された約226平方メートルではなく、対象となった敷地全体の約6,540平方メートルでありました。また、移転除却対象となっていない「建物店舗等」が記載されていました。
一方、本件土地は、開発許可に併せて農地転用許可も必要でしたが、規制の厳しい第1種農地であるため、原則として転用はできませんでした。
本事案においては、「地域の農業の振興に資する施設」として、従業員の3割以上を農業従事者とする施設を設置する場合は、農地転用の許可が可能となるという例外規定に基づいて、転用を許可する方向で協議が進められました。
この事前相談においては、本来認められない第三者への所有権移転に向けたフローチャートを用いた打合せが行われるなど、所有権移転を前提とするかのようなやり取りがありました。
さらに、本件農地は農振農用地区域に位置しており、第1種農地より農地転用の規制が厳しいものでした。このため、農地転用許可を行う場合は、前提として農振除外の手続が行われる必要がありました。この手続に当たっては、農地転用と開発の許可見込みが必要となります。
次に、申請及び許可についてです。
事前相談を経て、平成27年7月、新井機械の代理人である田並氏から本件土地の農振除外に関する農用地利用計画の変更申出が熊谷市に提出されました。大里農林は、平成28年5月に農振除外の本協議に同意しました。この際、前述のとおり所有権移転を行うスキームを示したフローチャートが添付された上で決裁が行われました。
平成29年2月、新井機械から大里農林に農地転用許可申請が提出されました。
同年4月10日、第1種農地の不許可の例外として、従業員の3割以上を農業従事者とすることや、提出した事業計画どおりに事業を行うことを条件に、大里農林所長の決裁により、農地転用が許可されました。
同日、公共移転に伴う開発行為も許可されました。この許可に際して、熊谷市の決裁文書に付された許可条件には第三者への地位承継はできない旨の記載がありましたが、申請者である新井機械宛てに交付された許可条件には第三者への地位承継はできない旨の記載がありませんでした。
次に、許可後についてです。
新井機械は、土地の造成や店舗の建設などの開発行為を完了させたものの、平成30年3月16日、農地転用許可の対象である事業を実施する前に、許可条件に違反して本件土地建物を株式会社ヤオコーへ転売しました。
3月中に大里農林職員はこの事実を把握していましたが、所長への報告が遅れ、約3か月後の6月に農林部から知事や副知事へ経緯の説明がされました。
大里農林は、事実を認知した3月から約5か月が経過した8月27日に、新井機械に対し行政指導を行い、是正の措置を指示し、9月10日に新井機械はヤオコーから本件土地建物を買い戻しました。
現在も大里農林による新井機械に対する指導が続いています。
次に、委員会審査の結果、明らかとなった問題点について、資料の右上に記載しております。
まず、「事前相談」でありますが、
○ 所有権移転前提の許可について、平成26年度は懐疑的な方針でしたが、平成27年度は許可に向けた方針へ変更した点
○ その過程で、県及び市が、第三者への所有権移転を認めるかのような発言を複数回にわたって行っている点
○ 申請者や代理人が所有権移転できないことを知らなかった点
○ 県が市に対し、第三者への所有権移転が認められないことなどを指摘しているにもかかわらず、開発許可や所有権移転が実現している点、であります。
次に、「農振除外の同意」でありますが、
○所有権移転を前提としたフローチャートが、農振除外の本協議に同意する際の決裁文書に添付されていた点、であります。
次に、「開発許可」でありますが、
○ 熊谷市が、本来根拠とすべき市条例ではなく、政令の規定を基に第1種農地の開発を認めた点
○ 山形県からの移転について、実際の収用面積は約226平方メートルに過ぎないにもかかわらず、敷地全体について証明した収用等証明書を根拠に許可したこと。また、建物が移転・除却の対象でないことを確認していない点
○ 申請者及び代理人等は収用等証明書に記載されている面積が、実際に収用された面積と異なることを知りながら、行政側に明示しなかった点
○ 最後に重要な事実ですが、収用等証明書については、申請者側からの依頼に合わせて作成されているにもかかわらず、この文書に基づいて開発が認められた点、であります。
次に、「農地転用許可」でありますが、
○ 約226平方メートルの収用面積に対して、第1種農地が約1万6,000平方メートル転用された点
○ 所有権移転できないことが、申請者等に伝わっていない点
○ 3割雇用を条件とする農地転用許可は県内初の事例であるにもかかわらず、指導等が不十分であり、実現が困難となっている点。また、部長等への報告がなされていなかった点、であります。
次に、以上の問題点を踏まえた指摘事項等について中段以下に記載しております。
まず、「1農地転用手続が不適切」でありますが、1点目に、関係機関との連絡・調整が不十分である点です。農地転用と密接な関係にある開発許可に関する疑義について、県は熊谷市等と慎重に連絡・調整・確認すべきでした。
2点目に、申請者等に対する指導・確認不足です。第三者へ所有権移転できないことを申請者等に明確に伝達しなかっただけでなく、事前相談において、これを認めるかのような発言をしたことは不適切でありました。
3点目に、農地転用の許可条件等の履行確保が不十分である点です。県内初の3割雇用を条件とした事案ですので、丁寧に事前相談、審査、許可後の指導を行うべきでありました。
次に、「2県組織のガバナンスが不十分」という点ですが、決裁文書に、許可後の第三者への所有権移転を前提としたフローチャートが添付されていました。事前相談及び文書事務が不適切であり、ガバナンスに問題があります。
次に、「3県農林行政への信用失墜」という点ですが、第1種農地を保全する観点から、県が、申請者が実際に収用された面積等や市条例上の開発可能性について慎重に確認すべきであったにもかかわらず、これを怠ったことなどは、県農林行政への信用の失墜につながるものでありました。
最後に、「4許可後における市との連絡・調整が不十分」という点ですが、県は、国の省庁間の覚書に基づき、許可後においても問題があるときは適切に連絡・調整を行うべきでした。特に、本委員会の調査で、本案件の根幹となる収用等証明書が公共移転の根拠とならないと判明した以上、県は関係機関と協議を行うべきです。
これらの点を踏まえ、本委員会では、調査の結論を次のとおりといたしました。
本件農地転用許可処分は、農地法上認められない所有権移転を前提とした事前相談を受けていたことや、都市計画法等の開発要件の確認不足といった問題がありました。中でも、本件許可処分と密接に関連する市の開発条例の運用に疑義があるだけでなく、開発許可の根幹となる東北地方整備局山形河川国道事務所の収用等証明書に実際の収用面積が記載されていなかったことや、移転・除却の対象ではなかった店舗等が記載されていたなどの問題がありました。県は、本委員会で農地法上は適切だったと繰り返し答弁しましたが、本案件の根幹となる公共移転の根拠がなかった事実に照らし合わせれば、本件農地転用許可処分は、本来許可されるものではなかったと考えられます。
ついては、県民全体の利益を守り、失墜した本県農林行政への信頼を回復するために、県は、再度、適正な手続により、本件事案を見直し、精査し、その結果に基づき、適切な処分を行うとともに、議会に報告すべきことを指摘します。
なお、熊谷市においても同様の精査をすべきことを申し添えます。
また、2月12日の委員会において、「熊谷市上之地内における農地転用許可等に関する決議」を、本委員会において多数をもって可決しましたことを報告いたします。
以上が、本委員会の調査結果の概要でありますが、地方自治法第100条の規定に基づく調査権限を十分に活用して、委員各位が多忙な時期にもかかわらず極めて熱心に審査を行ったため、大きな成果を挙げることができたものであります。
この報告のとおり御決定くださいますようお願い申し上げまして、本委員会の報告を終わります。

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