環境科学国際センター > ココが知りたい埼玉の環境 > 「ヒートアイランド」ってどんな現象?
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掲載日:2023年1月16日
この記事は平成22年10月に執筆したものです。
埼玉県ではヒートアイランド現象が起きていると聞きました。
これって一体どんな現象ですか?
温暖化対策担当 嶋田 知英
ヒートアイランド現象とは都市の気温が周辺の郊外に比べて高くなる現象です。地表面の人工化や人口排熱の増加などが原因となり引き起こされる熱環境問題として注目されています。熱中症などの健康被害や、集中豪雨の増加、生態系への影響などが問題となっています。都市化が進む埼玉県では、近年、特に東部や南部を中心にヒートアイランド現象が顕在化しています。
ヒートアイランド現象の歴史は意外に古く、19世紀にはロンドンやパリなどヨーロッパの都市で既にヒートアイランド現象が報告されていました。ヒートアイランド現象は地球温暖化が問題となる前から注目されていた現象でした。
もともとヒートアイランド現象は、大気が安定し熱が地表面近くにとどまる夜間の方が顕著です。しかし、最近は熱中症など、人の健康に直結する、夏の高温の要因としてあらためてヒートアイランド現象に注目が集まっています。
ヒートアイランド現象は熱中症などの健康影響だけではなく、冷房使用の増加による二酸化炭素排出量の増加や、大気循環や集中豪雨など局地現象の変化、本来越冬できない生物が越冬可能になるなど生態系への影響も懸念されています。
図1 関東地方のヒートアイランド現象
ヒートアイランド現象はなぜ起きるのでしょうか?
一般に都市の気温は、地表面付近の熱の出と入り(収支)によって決まります。都市に人々が集まり様々な生活をするようになると、この熱の収支に大きな変化が起こります。特に変化を起こさせる要因は、「地表面の人工化」と「人口排熱の増加」の二つです。
「地表面の人工化」とは、アスファルトなどによる舗装や、建築物の増加などにより、それまで緑地や裸地だったところが人工物で覆われてゆくことです。それまでは緑地や裸地から気温を上昇させない水蒸気として逃がしていた熱が減少し、気温上昇を引き起こしてしまいます。また、コンクリートなど熱吸収量の多い建造物の増加や、太陽熱反射率の低下なども高温化の原因となっています。
「人口排熱の増加」もヒートアイランド現象を引き起こす原因としては重要です。多くの人々が都市で生活するには膨大なエネルギーが必要です。都市生活には欠くことができない空調や照明、自動車、工場の製造機械などいずれもエネルギーをたくさん消費するだけではなく、大量の排熱を発生させます。この排熱が気温上昇の原因となっています。
図2 ヒートアイランド現象発生の仕組み
埼玉県内で最も長期間気温観測を行っているのは熊谷気象台です。熊谷気象台の年平均気温の変化を図3に示しました。これを見ると過去100年間で約2℃強気温が上昇していることがわかります。この様な気温上昇の原因としては、地球規模の温暖化の影響も考えられますが、IPCCの第4次報告書による過去100年の世界の気温上昇は0.74℃ですし、気象庁が示している日本の過去100年の気温上昇は約1℃です。熊谷の気温上昇を地球温暖化だけで説明することはできません。その差はヒートアイランド現象による気温上昇だと考えるのが妥当です。
埼玉県では2006年から埼玉県のヒートアイランド現象の実態を把握するため、小学校約50校の百葉箱に温度自動観測装置を設置し調査を始めました。図4はこの調査で得られたデータから作成した熊谷が日本の最高気温を更新した時の埼玉県の温度分布です。熊谷の気温も高いのですが、県の南東部にも高温のエリア、すなわちヒートアイランドが形成されていることがわかります。そのほかの時期にも、県東部が周辺に比べ高温となる現象は日常的に生じており、埼玉県の東半分は大きなヒートアイランドに覆われているという見方も出来ます。
図3 熊谷気象台の年平均気温の推移(11年移動平均:気象庁)
図4 熊谷市が日本の最高気温を更新した2007年8月16日(午後2時)の気温分布
埼玉県は700万人を超える人々が暮らす全国有数の都市化が進んだ地域です。特に東京都区部と隣接する南東部は東京と一体となって都市化してきました。この様な場所では、健康にも影響を与えるような深刻なヒートアイランド現象が顕在化しつつあります。特に埼玉県は海から離れているため海から陸に吹く海陸風によって冷やされることを期待することも出来ません。このまま都市化が進むとある程度海陸風が吹き込む東京より困難な事態になる可能性もあります
ヒートアイランド現象の原因が、人間の基本的な活動である以上その対策は地球温暖化対策と同様に困難なものです。
緑地や農地の保全、風の道の利用、ライフスタイルの改善など様々な方法が提案されていますが、具体的な対策については、別の機会に紹介いたします。
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