インタビュー・コラム
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掲載日:2024年12月26日
塚田 敬子(つかだ けいこ)さん
プロフィール
ものづくりで生きていく人たちと、個性豊かな暮らしを求める人たちの想いを大切にするを経営理念として2014年12月に創業。2023年7月からはさいたま市浦和区の商業施設「浦和コルソ」の3階に店舗を構え、手づくりの工芸品・美術品・雑貨等の商品販売を実施。手づくりに本気で取り組む作家さんの想いや”手作りの温かさ”をユーザーへつなぐ会社です。
〇取材対象者〇
代表社員:塚田 敬子(つかだ けいこ)さん
夫と二人三脚で「つくりえ」を創業
私の実家が自営業で、両親は土日も仕事をしていたため、子供のころはどこへも遊びに行けず、それがすごく嫌でした。周りはみんなサラリーマン家庭で、なんで私の家だけ違うのだろう、みたいな思いが強かったため、漠然とですが、将来結婚するのはサラリーマンと思ってました。ところが、結婚した相手は、「自分で店を経営したい」という野心を持っている人でした。
夫と結婚後も、私は美容師の仕事をしていましたが、妊娠を機に仕事を辞めました。そんな矢先(2013年)、夫に「さいたま市ニュービジネス大賞の説明会に行きたいんだけど、どうしても時間が合わないからちょっと聞いてきてくれない?」と言われました。当時の私はちょっとした暇を持て余していたので、「よく分からないけど、行ってきてもいいかな。」と軽い感じで説明会に行きました。自分が起業するとも思っていませんでしたし、ビジネスコンテストにも出ようとは思っていませんでしたが、説明を聞いて「なんか面白そうだな」と思ってしまいました。
今思えば、私は伝統工芸や手作りなどの1点ものに興味があり、趣味でワークショップに参加したりしていたこともあったため、夫に上手く乗せられたんだと思います(笑)。夫は店を経営したいと考えていましたが、表に立つ方ではなく裏方をやりたかったのです。そこで、夫婦で商売を始めるにあたって、私をどうやったら表に立たせられるのか、どうやったら私を巻き込めるか、というのを考えていたのだと思います。
ただ、夫も経営の勉強をしていたり、3年かけて中小企業診断士を取得したりするのを隣で見ていたので、そこまで本気だったら私も本気で考えないといけないなと思うようになりました。
そこから、さいたま市ニュービジネス大賞に応募して、ファイナリストまで残ることができました。残念ながら賞は受賞できませんでしたが、ファイナリストまで残ることができた自信と、ファイナリストにいくまでに経営や起業の知識を取り入れることができたので、挑戦できたのはすごく良かったなと思います。
盆栽町→シェアハウス→COCOオフィス→浦和コルソ ~見えてきた課題~
「つくりえ」の最初の店舗を2015年4月にさいたま市北区の盆栽町にオープンさせましたが、半年後にもらい火があり店舗や商品が全焼…。当時は気持ちのやり場がなかったのですが、私では防ぎようがなかったので今はしょうがないことだった、と思うようにしています。火事の後は、店舗をもう一度持つことも考えましたが、また火事になったらどうしようとも思いましたし、自宅兼店舗も考えましたがそのような資金はなく、模索していた時に、ニュービジネス大賞で知り合った方が、盆栽町の空き家をDIYするという情報を聞きました。その方から「一緒に入らないか」と提案を受け、2017年3月にシェアハウスとして入ることにしました。当時は、シェアハウスを基本的には事務所や商品の置き場、作家とのミニイベント用として使い、デパートや商業施設での催事をメインとして活動していました。
その後、そのシェアハウスが取り壊しになるというので、退去しなければいけなくなりました。当時はまだ創業して5年以内だったので、(公財)埼玉県産業振興公社の女性起業支援ルーム「COCOオフィス」を利用することにしました。COCOは事業所としてオフィスの住所が使えるので2020年8月から現在に至るまで利用しています。
浦和コルソ3階にお店を構えたのは、年に何度か浦和コルソで催事をやっていたのがきっかけです。コルソのスタッフに「3階の店舗が空くのだけれどつくりえさん入りませんか?」と声をかけていただきました。最初は、浦和の一等地で、老舗の商業施設にお店を構えることは恐れ多いことだと考え、断ろうとしていました。しかし、夫に相談したところ「詳しく聞いてきなさい。」と言われたことをきっかけに話がトントントンと進み、はじめの提案があったときから、約4か月後の2023年7月にオープンすることができました。
盆栽町からはじまり、現在は商業施設にお店を構えることができました。場所が変わっても、会社の理念や私の想いは変わらないため提供する商品も今までと同じようなものでいいと考えていましたが、場所が変わると見る人の目が違うことに気づきました。現在は、商業施設に来店される客層を見て、店頭のポップアップや配置などを工夫していくことが課題です。
カナダに行ったからこそ分かった ~日本の手作りの魅力~
実は、今の私に影響を与えたことの中に、カナダで暮らした経験があります。20代半ばの当時の私は、日本が嫌いでした。とにかく日本を離れたかったです。ワーキングホリデーで当時の彼(今の夫)とカナダに行き、日本人が経営している美容院で働きました。ワーキングホリデーの期間が終わるころ、このままカナダに移住したいなと思い、私が美容師の学生になり、彼は婚約者という立ち位置でビザを取得しました。学校を卒業後、美容師として働いた地域がクラフトの盛んなエリアでした。かわいらしい建物が並んでおり、1階がショップで2階が工房になっているような感じです。ボタン専門店だったり、靴専門店だったり、手仕事でいいな、こういう暮らしっていいなと思うようになりました。
ただ日本とは違い、カナダのクラフトはすごく大雑把です。大雑把ですが、その粗さが魅力的でもあります。日本の職人が作るクラフトは緻密に作られており、機械で作ったかのような正確さがありますが、カナダのクラフトはいかにも手作り感満載で温もりが感じられるものが多いです。
私のイメージですが、日本の職人は、突き詰めて突き詰めて技術や技巧を磨き、結果的にできたクラフトは「強さ」はあるけれども、「静けさ」も感じられる繊細なもの。カナダで見てきたクラフトは「陽気」であり「エネルギッシュ」で作った人の人柄が感じられます。カナダのクラフトに触れたことにより、日本の工芸品の繊細さや美しさを見つけることができました。「日本の良さ」を多くのユーザーに知ってほしいので、つくりえが架け橋として、今後も作品を提供していきたいと考えています。
人脈づくりが大切だと実感 ~人とのつがなり~
(公財)さいたま市産業創造財団が主催のさいたま市ニュービジネス大賞の時に担当者に言われたことがあります。「あなたは畑違いのところから来たし、起業するにあたってお金もない、知識もない、人脈もない。だったら今できること、つまり人脈づくりをしなさい。」とアドバイスされました。その時はFacebookで「ハンドメイド」というグループを立ち上げ、当時はそれで人脈を広げていきました。
また、昔はビックサイトやさいたまスーパーアリーナでやっているイベントや催事に行き、作品を見たり、作家さんと話をしたりしていました。当時から今に至るまでお付き合いがある作家さんもいます。私のことをよく理解している作家さんは、つくりえのコンセプトに合いそうな別の作家さんや、私の性格と合いそうな作家さんを紹介してくれることもあります。「人が人を呼ぶ」とはまさにこういうことで、今すごく良いつながり、広がり方ができ充実しています。
創業してから、たくさんの方とつながるようになり、「人脈」はとても大切だなと身に染みて感じています。その時にできることを自分のペースで積み重ねていくことで、道は太くなっていきます。そして、続けていればこそ、周囲が助けてくれますし、人脈もできていきます。これからも、昔からお付き合いがある作家さんを大切にしていきたいですし、若い作家さんも今後はお付き合いをしていきたいなと考えています。駆け出しであっても、ものづくりが好きで、自らのアイディアを形にする「プロ」として、生業にする作家にフォーカスし、少しでも力になれたら幸いです。