感染症発生動向調査における病原体サーベイランス

感染症発生動向調査及び病原体サーベイランスについて

感染症発生動向調査では、「埼玉県感染症発生動向調査事業実施要綱」に基づき、埼玉県衛生研究所は患者検体を管轄保健所を通じて医師の協力のもと、収集・分析し、得られた詳細な病原体情報を関係機関等に「病原体サーベイランス」として公表しています。感染症法の改正（平成28年4月1日施行）により、感染症における患者等からの検体の採取（要請、処置）、医療機関に対する保有検体の提出要請、検査の実施、検査基準の策定等に関する知事の権限が規定され、病原体サーベイランスの体制が強化されました。

病原体サーベイランス

病原体サーベイランスにおける医療機関等からの検体の提出の基準や目安は、感染症の類型や種類により、感染症法、各種厚生労働省通知、感染症法に基づく特定感染症予防指針、上記の要綱の他、埼玉県病原体サーベイランス実施要領などで示されています。特に、新型インフルエンザ等感染症、麻しん、風しんなど感染の拡大防止が必要な疾患に関しては、陽性者の濃厚接触者への検査も必要に応じて感染症発生動向調査の一環で実施しています。

埼玉県衛生研究所における検査実施状況

表は感染症発生動向調査の病原体サーベイランスに基づき当所で実施した2016年～2021年の期間のウイルス検査数です。2016年以降、ウイルス検査を目的に当所に搬入、検査された検体数は年々増加し、特に新型コロナウイルス感染症の影響を受けた2020年は26,690検体とそれ以前の年の10倍以上となりました。また、感染症の流行状況により診断名別の検体の割合も年ごとに大きく異なっていました。

傾向をまとめると

1. 2016年と比較した2017年の合計検体数の増加は、主にインフルエンザ検体の増加によるものであった。インフルエンザ検体は2017年から2019年の期間、700検体前後と安定していた。
2. 2017年と比較した2018年の合計検体数の増加は、風しんと麻しん検体の増加が大きな要因だった。2019年は、麻しん検体はさらに増加し、2019年の合計検体数を押し上げた。
3. 2020年と2021年は、新型コロナウイルス感染症の検体が大部分を占めている。ここには有症状の検体の他、接触者等の検体も含まれている。
4. 新型コロナウイルス感染症以外の検体の総数は、2020年は433検体、2021年では163検体と2019年以前と比較し大幅に減少した。

麻しん、風しんや新型コロナウイルス感染症等の流行が、その他の感染症における検査依頼数にも大きく影響をしていると推察されます。このことは年毎のウイルス検出状況を比較考察する上でも注意を要する点と考えます。当所における各感染症の近年のウイルス検出状況については、トピックスに随時掲載いたします。

なお、年や月毎のウイルス検出状況については、病原体検出情報や所報をご参照ください。 

感染症発生動向調査の診断名別検査検体数（埼玉県衛生研究所2016年1月～2021年12月）

感染症法上の類型	検体採取時の診断名*	2016年	2017年	2018年	2019年	2020年	2021年
二類感染症	中東呼吸器症候群	0	0	1	0	0	0
四類感染症	E型肝炎	0	10	15	15	14	11
	A型肝炎	4	5	17	7	2	0
	重症熱性血小板減少症候群	0	5	3	4	2	3
	ジカウイルス感染症	6	3	0	0	1	0
	チクングニア熱	2	0	0	2	0	0
	デング熱	5	10	3	16	2	0
五類感染症 全数把握対象 （麻しん、風しんは全症例 遺伝子検査対象）	急性弛緩性麻痺	0	0	13	6	0	6
	急性脳炎（四類以外のもの）	35	58	50	59	13	32
	風しん	13	14	422	371	23	6
	先天性風しん症候群	0	0	1	6	0	0
	麻しん	92	73	318	696	38	11
五類感染症 定点把握対象 （あらかじめ指定された 医療機関で診断された 症例から検体採取）	インフルエンザ	387	707	681	727	271	3
	RSウイルス感染症	80	75	73	63	8	21
	咽頭結膜熱	85	68	78	26	10	6
	感染性胃腸炎	62	64	48	26	3	9
	手足口病	63	80	67	54	9	18
	ヘルパンギーナ	64	36	32	7	6	20
	無菌性髄膜炎	52	59	66	69	29	8
	流行性角結膜炎	1	13	16	8	1	6
	その他の感染症**	10	12	14	2	1	3
新型インフルエンザ等感染症	新型コロナウイルス感染症***	0	0	0	0	26,257	25,142
合計検体数		961	1,292	1,918	2,164	26,690	25,305

 

 * 疑いを含む

 **水痘、伝染性紅斑、突発性発疹、流行性耳下腺炎等年間検体数が例年10検体未満のものの合計

 ***2020年2月以降の集計