答申第165号 「平成22年8月23日の知事記者会見において『新都心の再生砕石を点検したが、石綿含有建材が確認出来ず』とする調査資料」の不開示決定等(平成23年3月31日)
答申第165号(諮問第208号・209号・210号)
答申
1 審査会の結論
「平成22年8月23日の知事記者会見において『新都心の再生砕石を点検したが、石綿含有建材が確認出来ず』とする調査資料」(以下「本件対象文書」という。)の開示請求につき、埼玉県知事(以下「実施機関」という。)が次の決定をしたことは妥当である。
(1) 大気環境課保有分について、本件対象文書を作成していないとして不開示(不存在)とした決定
(2) 産業廃棄物指導課保有分について、「さいたま新都心第8-1A街区再生砕石の状況」、「さいたま新都心第8-1A街区内の再生砕石について」及び「写真(平成22年8月21日撮影)」の3文書を本件対象文書として特定して開示とした決定
(3) 都市整備政策課保有分について、「さいたま新都心第8-1A街区再生砕石の状況」、「さいたま新都心第8-1A街区内の再生砕石について」及び「写真(平成22年8月18日撮影)」の3文書を本件対象文書として特定して開示とした決定
2 異議申立て及び審議の経緯
(1) 異議申立人(以下「申立人」という。)は、平成22年8月23日付けで埼玉県情報公開条例(以下「条例」という。)第7条の規定に基づき、実施機関に対し、「平成22年8月23日の知事記者会見において『新都心の再生砕石を点検したが、石綿含有建材が確認出来ず』とする調査資料及び調査した職員名、所属部署の資料」以下「本件開示請求文書」という。)について、大気環境課保有分、産業廃棄物指導課保有分及び都市整備政策課保有分の公文書の開示請求(以下「本件開示請求」という。)を行った。
(2) これに対し実施機関は、以下のとおり開示決定等を行った。
- ア 大気環境課保有分
平成22年9月3日付けで、本件開示請求文書のうち、本件対象文書は保有していないとして不開示(不存在)の決定(以下「本件処分1」という。)を、また、「平成22年8月23日の知事記者会見において『新都心の再生砕石を点検したが、石綿含有建材が確認出来ず』と調査した職員名、所属部署の資料」については、「旅行命令簿」を特定し部分開示決定をし、申立人に通知した。
- イ 産業廃棄物指導課保有分
- (ア) 平成22年9月3日付けで、本件開示請求文書のうち、本件対象文書は保有していないとして不開示(不存在)の決定(以下「当初決定1」という。)を、また、「平成22年8月23日の知事記者会見において『新都心の再生砕石を点検したが、石綿含有建材が確認出来ず』と調査した職員名、所属部署の資料」については、「旅行命令簿」を特定し部分開示決定をし、申立人に通知した。
- (イ) 平成22年9月8日付けで当初決定1を取り消し、「さいたま新都心第8-1A街区再生砕石の状況」、「さいたま新都心第8-1A街区内の再生砕石について」及び「写真(平成22年8月21日撮影)」の3文書を本件対象文書として、開示する変更決定(以下「本件処分2」という。)をし、申立人に通知した。
- ウ 都市整備政策課保有分
- (ア) 平成22年9月3日付けで、本件開示請求文書のうち、本件対象文書は保有していないとして不開示(不存在)の決定(以下「当初決定2」という。)を、また、「平成22年8月23日の知事記者会見において『新都心の再生砕石を点検したが、石綿含有建材が確認出来ず』と調査した職員名、所属部署の資料」については、「旅行命令簿」を特定し部分開示決定をし、申立人に通知した。
- (イ) 平成22年9月8日付けで当初決定2を取り消し、「さいたま新都心第8-1A街区再生砕石の状況」、「さいたま新都心第8-1A街区内の再生砕石について」及び「写真(平成22年8月18日撮影)」の3文書を本件対象文書として開示する変更決定(以下「本件処分3」という。)をし、申立人に通知した。
(3) 申立人は、平成22年9月6日付けで、実施機関に対し、本件処分1を不服とした異議申立て(以下「本件異議申立て1」という。)並びに当初決定1を不服とした異議申立て及び当初決定2を不服とした異議申立てを行った。
(4) 申立人は、平成22年9月21日付けで、実施機関に対し、当初決定1を不服とした異議申立て及び当初決定2を不服とした異議申立てを取り下げた。
(5) 申立人は、平成22年9月21日付けで、実施機関に対し、本件処分2を不服とした異議申立て(以下「本件異議申立て2」という。)及び本件処分3を不服とした異議申立て(以下「本件異議申立て3」という。)を行った。
(6) 当審査会は、本件異議申立て1、本件異議申立て2及び本件異議申立て3について、平成22年10月8日に実施機関から条例第22条の規定に基づく諮問を受けた。
(7) 当審査会は、実施機関から、平成22年11月5日に開示決定等理由説明書の提出を受けた。
(8) 当審査会は、平成22年12月2日に実施機関の職員から意見聴取を行った。
(9) 当審査会は、平成23年1月12日に申立人の口頭意見陳述を聴取した。
(10) 審査会は、これら3つの諮問案件は、同一内容の開示請求に対して所管課を分けて決定を行ったものであり、決定の理由及び異議申立ての趣旨が同様であることから、効率的な審議を行うため、これらを併合して調査審議することとした。
3 申立人の主張の要旨
申立人が主張している内容は、おおむね次のとおりである。
(1) 本件処分1について
- ア 埼玉県知事が何の資料もなく口頭での伝言で記者会見に臨むとは考えられない。
- イ 県職員が電磁情報を作成しメール等で情報交換していると思慮される。
また、現地ではデジタルカメラでの撮影も当然為された。県職員が出張し記録を全く残さないとすれば、文書で機能する役所として怠る行為である。
- ウ 事務上の問題で行政情報が開示漏れの場合は、本件に関係した職員が恣意的に不存在とした悪質な行為であり厳罰に値すると考える。
- エ 埼玉県文書管理規則(以下「文書管理規則」という。)第5条では、「本庁及び地域機関の事案の処理に当たっては、軽易なものを除き処理内容等を記録した文書を作成しなければならない」と規定されているので、文書が存在しないとは考えられない。
- オ 埼玉県知事は当日の記者会見において、「先般、新都心の場所で30分で5個、アスベスト入りの破片を見つけたということだったので、18日にも早速、職員を行かせて見てきましたが、発見されなかった。念のためにということで、今度は21日に、産業廃棄物指導課長自ら、合計4名の職員で30分間、延べ2時間やったんですが、発見できなかった状態です。」と現地調査の内容を詳細に説明している。
記者会見の想定質問は、別途開示請求をして文書の開示を受けているが、当該想定質問には現地調査の詳細内容は記載されていない。
したがって、知事が何も資料がない状態でこのような説明ができるはずがない。
(2) 本件処分2及び本件処分3について
- ア 1. 埼玉県知事が何の資料もなく口頭での伝言で記者会見に臨むとは考えられない、2. 県職員が電磁情報を作成しメール等で情報交換していると思慮される。また、現地ではデジタルカメラでの撮影も当然なされた。県職員が出張し記録を全く残さないとすれば、文書で機能する役所として怠る行為である。
- イ 上記内容の異議申立書を平成22年9月6日付けで実施機関に提出したところ、同年9月8日に公文書不開示決定の変更決定がなされ、私の指摘した写真等が開示された。
- ウ しかしながら、依然として私の指摘以外の文書が存在すると推測される。
- エ 文書管理規則第5条では、「本庁及び地域機関の事案の処理に当たっては、軽易なものを除き処理内容等を記録した文書を作成しなければならない」と規定されているので、文書が存在しないとは考えられない。
- オ 埼玉県知事は当日の記者会見において、「先般、新都心の場所で30分で5個、アスベスト入りの破片を見つけたということだったので、18日にも早速、職員を行かせて見てきましたが、発見されなかった。念のためにということで、今度は21日に、産業廃棄物指導課長自ら、合計4名の職員で30分間、延べ2時間やったんですが、発見できなかった状態です。」と現地調査の内容を詳細に説明している。
記者会見の想定質問は、別途開示請求をして文書の開示を受けているが、当該想定質問には現地調査の詳細内容は記載されていない。
したがって、知事が何も資料がない状態でこのような説明ができるはずがない。
4 実施機関の主張の要旨
実施機関が主張している内容は、おおむね次のとおりである。
(1) 本件処分1について
- ア 平成22年8月18日付けの東京新聞の朝刊に、「再生砕石にアスベスト」という記事が掲載された。
そのため、大気環境課の職員は同月21日(土曜日)に産業廃棄物指導課及び都市整備政策課の職員と同行をし、さいたま新都心第8-1A街区の現地調査(目視調査)を実施した。
- イ 大気環境課職員は、同月23日(月曜日)に口頭で現地調査に係る報告をした。
なお、調査対象地がさいたま市内であったため、廃棄物の処理及び清掃に関する法律(以下「廃掃法」という。)に基づく立入権限等を有していないことから、「立入検査結果報告書」等による文書復命は行わなかった。
- ウ また、大気環境課職員は、上記アの現地調査をした際に、カメラによる撮影を行っておらず、調査した際の復命書も作成していない。
- エ 当課と産業廃棄物指導課及び都市整備政策課との間で申立人が主張するようなメール等のやりとりもない。
- オ これらのことから、不開示決定(文書不存在)は適正であったと考える。
(2) 本件処分2について
- ア 平成22年8月18日付けの東京新聞の朝刊に、「再生砕石にアスベスト」という記事が掲載された。
そのため、産業廃棄物指導課の職員は同月21日(土曜日)に大気環境課及び都市整備政策課の職員と同行をし、さいたま新都心第8-1A街区の現地調査(目視調査)を実施した。
- イ 産業廃棄物指導課の職員は、同月23日(月曜日)に口頭で現地調査に係る報告をした。
なお、調査対象地がさいたま市内であったため、廃掃法に基づく立入権限等を有していないことから、「立入検査結果報告書」等による文書復命は行わなかった。
- ウ 開示した「さいたま新都心第8-1A街区再生砕石の状況」及び「さいたま新都心第8-1A街区内の再生砕石について」は都市整備政策課が作成し、産業廃棄物指導課に資料提供され、受領した文書である。
- エ 「写真」については、同月21日に調査した職員が参考としてデジタルカメラで撮影したものである。
- オ 異議申立書の受理及び文書の開示の際に、申立人から「何の資料もなく口頭での伝言で、知事が記者会見に臨むとは考えられない。」との主張がなされたため、「知事記者会見に当たっては、『アスベストが混入した再生砕石に関する記事』についての想定質問を作成した。この想定質問については、請求されている『新都心の再生砕石を点検したが、石綿含有建材が確認出来ずとする調査資料』には該当しないため、内容が知りたい場合は、想定質問の開示を請求していただきたい。」旨を説明した。
- カ 申立人は、開示された以外の文書が存在するので、漏れなく全ての文書を開示するよう主張している。
しかしながら、9月8日に保有する全ての文書を開示しており、開示した文書以外の文書は保有していない。
(3) 本件処分3について
- ア 平成22年8月18日付けの東京新聞の朝刊に、「再生砕石にアスベスト」という記事が掲載された。
そのため、都市整備政策課の職員は同月18日(水曜日)及び同月21日(土曜日)(大気環境課及び産業廃棄物指導課の職員と同行)に、さいたま新都心第8-1A街区の現地調査(目視調査)を実施した。
- イ 開示した「さいたま新都心第8-1A街区再生砕石の状況」及び「さいたま新都心第8-1A街区内の再生砕石について」は都市整備政策課が産業廃棄物指導課と現地調査の概要を確認するために作成した文書である。
- ウ 「写真」については、同月18日に調査した職員が参考としてデジタルカメラで撮影したものである。
- エ 申立人は、開示された以外の文書が存在するので、漏れなく全ての文書を開示するよう主張している。
しかしながら、9月8日に保有する全ての文書を開示しており、開示した文書以外の文書は保有していない。
5 審査会の判断
(1) 事案の経過について
当審査会は、平成22年8月18日に東京新聞の朝刊に「再生砕石にアスベスト」、「さいたま新都心の公有地でも再生砕石の中にスレート片があった。」等の記事が掲載されてから、同月23日の知事記者会見時において、当該事案に係る記者からの質問に対し埼玉県知事がコメントをするまでの6日間(以下「当該期間」という。)における大気環境課、産業廃棄物指導課及び都市整備政策課の職員(以下「各担当課職員」という。)の現地調査、報告及び文書の作成等の状況について、各担当課職員に対する質問等を行い、調査を行った。
その結果、当該期間における各担当課職員の対応について確認した事実は次のとおりである。
- ア 平成22年8月18日(水曜日)
東京新聞の朝刊に「再生砕石にアスベスト」、「さいたま新都心の公有地でも再生砕石の中にスレート片があった。」等の記事が掲載された。
当該新聞に掲載された、さいたま新都心の公有地はさいたま市内に所在する、さいたま新都心第8-1A街区で、この土地の所有者は、埼玉県(以下「県」という。)、さいたま市及び独立行政法人都市再生機構である。
県は当該土地の所有者であることから、同日、さいたま新都心事業を担当している都市整備政策課の職員1名が現地調査を実施し、現地において写真8枚(以下「開示文書1」という。)を撮影した。
当該職員は、現地から戻り直ちに上司に口頭で報告をした。また、調査結果の概要「さいたま新都心第8-1A街区再生砕石の状況」(以下「開示文書2」という。)を作成し、産業廃棄物指導課へ伝達した。
- イ 平成22年8月20日(金曜日)
8月23日に予定されている知事の記者会見時に記者からの質問があった場合の準備として産業廃棄物指導課及び大気環境課の職員が想定質問「アスベストが混入した再生砕石に関する記事について」(以下「想定質問1」という。)を用いて、知事に対し説明を行った。また、知事から現地調査をするよう指示を受けた。
- ウ 平成22年8月21日(土曜日)
産業廃棄物指導課職員1名、大気環境課職員1名及び都市整備政策課職員2名が現地調査を行った。現地にて産業廃棄物指導課の職員が写真11枚(以下「開示文書3」という。)を撮影した。
なお、廃掃法第19条第1項及び同法第24条の2第1項並びに廃掃法施行令第27条の規定により、県には当該調査対象地における立入検査の権限はない。そのため、産業廃棄物指導課及び大気環境課の職員による調査も、県が土地所有者であることから都市整備政策課の職員と同様の立場で調査を実施したものである。
- エ 平成22年8月23日(月曜日)
各担当課職員は、8月21日に実施した調査内容を上司に口頭で報告をした。また、都市整備政策課の職員は、調査結果の概要「さいたま新都心第8-1A街区内の再生砕石について」(以下「開示文書4」という。)を作成し、産業廃棄物指導課へ伝達をした。
さらに、産業廃棄物指導課の職員は、知事に対し8月21日に実施した調査の内容を口頭で詳細に報告するとともに、想定質問「アスベストが混入した再生砕石に関する記事について」(以下「想定質問2」という。)を用いて、説明を行った。
(2) 文書の作成について
当該期間における文書の作成状況については、前記(1)のとおり、「開示文書1」、「開示文書2」、「開示文書3」及び「開示文書4」並びに「想定質問1」及び「想定質問2」が作成されていた。
なお、「開示文書1」、「開示文書2」、「開示文書3」及び「開示文書4」については、本件処分2及び本件処分3により既に申立人に対し開示済みの文書である。
また、「想定質問1」及び「想定質問2」については、記載内容等から本件対象文書には該当しない文書であり、申立人は別の開示請求において「想定質問2」について、既に開示を受けている。
(3) 前記(2)以外の文書について
実施機関の説明によると、前記(2)以外の文書については、1. 当該期間が6日間と短く、緊急を要する案件であったこと、2. 廃掃法に基づく立入検査ではなかったこと、3. 調査の結果、アスベスト含有建材と思われる破片が発見されなかったことから、文書管理規則第5条に規定されている軽易なものと判断し、文書を作成しなかったとのことであった。
また、知事が記者会見時の記者からの質問に対し、現地調査の内容について、想定質問に記載されていないことをコメントしているが、職員が作成した原稿を読み上げるだけにとどまらず、職員からの現地調査の報告内容等も加味して、生の言葉でコメントすることは自治体の首長の責務として当然あり得ることである。
以上のことから、上記(2)以外の文書は作成しておらず、保有していないとする実施機関の説明は不合理なものとは言えない。
したがって、本件処分1、本件処分2及び本件処分3において、実施機関が行った判断は妥当であると認められる。
なお、当時、アスベストが発見されなかったという認識のもとであった点を考慮するならば、実施機関が文書管理規則第5条に規定されている軽易なものと判断して、文書を作成しなかったという点は、理解できないわけではない。
しかしながら、アスベストという物質の性質に鑑みると、住民の生命、身体に与える影響が大きいことから、仮に発見されなかったとしても文書を作成し、将来の説明責任に備えるという対応が望ましかったものと思われる。
以上のことから、「1 審査会の結論」のとおり判断する。
(答申に関与した委員の氏名)
鈴木 幸子、田村 泰俊、早川 和宏
審議の経過
年月日
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内容
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平成22年10月8日
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諮問を受ける(諮問第208号・209号・210号)
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平成22年11月5日
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実施機関から開示決定等理由説明書を受理
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平成22年12月2日
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実施機関か説明及び審議(第三部会第65回審査会)
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平成23年1月12日
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申立人の口頭意見陳述及び審議(第三部会第66回審査会)
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平成23年2月10日
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審議(第三部会第67回審査会)
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平成23年3月25日
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審議(第三部会第68回審査会)
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平成23年3月31日
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答申
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