インタビュー・コラム
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掲載日:2024年12月26日
農業女子交流会
2024年2月19日(月曜日)農業女子交流会
埼玉県では、働きたい女性・働く女性が抱える育児や健康などの課題の解決及び様々な業種への理解を深めるセミナーや交流会を実施しています。
2024年2月19日(月曜日)に「農業女子交流会」を開催しました。農業大学校で学び、自ら農業を始めて会社を設立した先輩女性が登壇し、農業に入ったきっかけや農業の良いところ・やりがいなどについてお話していただきました。
登壇者プロフィール
・鈴木 志生梨 氏(MASUZU株式会社 代表取締役)
千葉県習志野市出身、現在37歳、二児の母。専門学校卒業後、医薬品関係の会社に営業職として7年勤務。結婚を機に退職し、夫の地元である飯能市に移住。夫はサラリーマン。飯能市にて2.2haの畑で8種類のさつまいも栽培・加工・販売をしている。
※べにはるか、しろほろり、シルクスイート、ハロウィンスウィート、ふくむらさき など
○経歴○
2007-2011年 日邦薬品工業(株)勤務
2011-2014年 旭化成ファーマ(株)勤務
結婚を機に退職し、飯能市へ
2014-2015年 農業大学校入学
2015年 就農、MASUZU株式会社設立
第一子出産(現在8歳)
2017年 「芋はん」開始
2019年 「芋はん直売所」開店
2023年 「芋はん加工所」設置
第二子出産(現在1歳)
農業の世界に入ったきっかけ
結婚をして夫の実家がある飯能市に移住したことを機に、これから本当にやりたい仕事はなにか、ということを改めて見つめ直しました。いろいろと悩んでいたときに、夫の勧めと、鈴木家がたまたま兼業農家で4~5反程(約1500坪)の畑を所有していたことや、使ってない中古のトラクターとマルチャーという機械があったことがきっかけで、「農業をやってみるのも楽しいかな」という好奇心から、2014年に埼玉県農業大学校に入学しました。新婚生活とともに学校生活が始まった感じです。
農業大学校は、1年の短期コースで、露地野菜全般を学びました。その時はまだ経営方針や栽培品目は定まっていませんでしたが、「私は本気で農業をやるんだ!!」という決意があったため、卒業の2015年に就農と同時に、MASUZU株式会社を設立しました。
はじめは、多品目栽培をしていましたがサツマイモに品目を絞り、宣伝のためにサツマイモ専門店「芋はん」(カフェ)を2017年にオープンしました。芋はんは飯能駅前の商店街で商工会議所が運営する「日替わりシェフのお店」というテナントを借りて、義母と2人で始めました。商店街で週2日、畑の合間に営業をしていた芋はんカフェは2019年に終了しましたが、畑で焼き芋などテイクアウト商品の販売ができればいいなということで、「芋はん直売所」をその年にオープンしました。そして2023年には、念願だった加工場を設置しました。
<農業女子交流会の様子>
技術の習得(聞いて・見て・やってみる)
現在は就農して9年になります。鈴木家は農地を所有していましたが、近所の家庭菜園をやる人に貸しているだけで、代々農業はしておらず、私に農業のことを教えられる人が身近にいませんでした。そのため私は、栽培技術を習得し、人脈を広げるために農業大学校に入りました。農業大学校では栽培方法だけではなく、トラクターや管理機など農機具の扱い方やビニールハウスの建て方を学んだり、いろいろな資格を取得したりすることができました。「1年しかない学生のうちに!」という思いで、大型のトラクターを運転するための大型特殊自動車と、穴を掘ったり整地したりするユンボ、フォークリフト、飲食店でのアルバイト経験があり、筆記試験を受ければ調理師免許が取得できるということで調理師免許の4つを取得しました。これらの資格は、すぐに役立つと思って取得したものではなく、今のうちに取得できるものは何でも取っておこうという精神で取得したものです。現在は全部役に立っているので取得しておいてよかったと感じています。
卒業後は、近隣の指導農家に通い、苗づくりや保存方法、洗浄方法など実践的な作業を教えていただきました。
飯能市には、地元の農家さんが在籍している「飯能農業青年会議所」という組織や20~30代の若手の農家さんが集まっている「むさし4Hクラブ」という会があり、それらに入会しました。そこでは、イベント出店や視察研修、勉強会などを定期的にやっており、参加して情報を集めたりしていました。また、管轄の農林振興センターにはセミナーや実習などの案内をいただいたり、視察を受け入れてくれる農家さんを探してもらったり、加工品開発の相談、土壌診断(土にどういう虫がいるのかという調査)をお願いしたり、たくさんお世話になりました。
家族旅行は、サツマイモで有名な産地の九州・徳島・茨城などを選んで、実際にどのようにやってるのか見に行ったり、農産物直売所を回って観察したりして家族を巻き込みました。飯能市は、産地で部会と呼ばれる組織や共同の選果場がない地域ですので、栽培方法を教えてくれる先輩や仲間がいないのはもちろん、品質の基準や販路などもないので、とにかくあちこち見たり聞いたりして、何事も自分でやってみて、販路を開拓していきました。
農地はどうやって探しましたか?
農地のない新規就農者の場合、大抵の人が「担い手塾」を利用します。担い手塾に入ると毎年まとまった補助金がもらえるだけではなく、優先的に農地のあっせんもしてもらえます。定期的に栽培や経営について相談することもできますし、行政の方との距離も縮まるため何かと相談しやすいかなと思います。
私の場合は、義父が農地を所有しており(親戚にも農業を営む人はいなかったが)兼業農家であったため、「親元就農」にみなされてしまったため担い手塾には入れず、農地の確保や補助金が受けられない状況で就農がスタートしました。鈴木家が所有する畑から始めようと思ったのですが、複数の家庭菜園の方に貸していたため、すぐに返してもらえる状況ではありませんでした。なので、自分で耕作できる農地をかき集めて、少しずつ栽培を始め、市役所の農業委員会や農業振興課で農地の相談をしましたが、どちらかというと自分で空いていそうな農地を探して、そこの地権者は誰なのかなどを農業委員会で教えてもらったり、自分で連絡して交渉したりしました。特に、農林水産省が提供している「eMAFF農地ナビ」を活用して調べていました。
現在の仕事内容について
鈴木家が所有していた農地のほか、自分で農地を借りるなどして畑も増え、現在は2.2ha(約6050坪)の畑で8品種のサツマイモを栽培しています。最初は貸したいという人がいなくても、何年かやっていると、年齢的に耕作ができなくなったタイミングで貸したいという話が来たりして畑が増えていきました。また、とにかく雑草だけは生やさないということを意識して、それだけは努力しました。
就農直後は、そら豆・かぼちゃ・ナスなど農業大学校で学んだ15~20品目ぐらいの露地野菜を年間栽培して、近くのJAの直売所やスーパーに出荷していたのですが、妊娠・出産を経験して、作業の効率化と機械導入で省力化を図らなければいけないと思い、2018年に多品目栽培をきっぱりやめ、思い切ってサツマイモだけにしました。
サツマイモを選んだのは、貯蔵した方がよりおいしいことから(1)日持ちする点、(2)加工に向いている点、自分と同じ子育て世代の女性が好む野菜ということで(3)共感が得られやすい点、(4)私自身が子供のときからサツマイモが好き、というこの4つの理由からです。
従業員は、私と同じぐらいの世代の女性がパートで6人います。農業の経験が全くない人たちばかりですが、通年働いています。
畑にある「芋はん直売所」は秋にさつまいもを収穫して、だいたい10月から初夏までの約半年間、週3日営業しています。石焼いもやサツマイモはもちろん、加工品なども販売しています。
スケジュール(年間・1日)
ビニールハウスでサツマイモの苗から作っており、そこをスタートとすると年間スケジュールは、2月下旬から育苗が始まり、5月~6月に苗を取って畑に植えつけるという作業のピークが来ます。7月8月はひたすら草取りと、半分はお休みという感じですね。9月から収穫が始まり、11月の中旬までには掘り取り、それと並行して10月から販売がスタートし、翌年、サツマイモがなくなるまでの期間はひたすら洗浄して、袋詰めして、出荷して、加工して販売というのをひたすら繰り返す感じです。
1日のスケジュールは、日によって違うのですが、6時ごろ起床し、子供を学校と保育園に送り出して、8時頃畑に行き、営業の準備をするか、そうではない日はスーパーや直売所に出荷に行きます。下の子の保育園のお迎えが16時なのですが、とにかくそれまでが勝負なので、16時までに袋詰めや加工・販売などその日にやらなければいけない業務をこなしています。帰ってきたら家事や寝かしつけをして(寝落ちしちゃう日もある)、忙しい日は子供が寝た21時以降に再び仕事をして寝るという感じです。良くも悪くも、去年作った加工所が自宅の隣ですので、いつまででも働けてしまうというのが現状です。
苦労したこと
- 「知ってもらう」こと
野菜を作りました⇒販売します⇒スーパー・直売所に並べます、となっても、生産者としての私の名前が知られているわけではありません。値段が同じだったらたくさん置いてある方が買われたり、味がおいしいとわかってる生産者のものが買われたりするので、全然手に取ってもらえないというのが最初の現状でした。そこで、名前で覚えてもらうのは難しいと思い、「ロゴ」を作りました。とにかくロゴを商品に貼ったり、チラシを作って配ってみたり、袋詰めの中に入れてみたりしました。また、食べてもらわないことには味もわからないということで始めたのが、商店街の芋はんカフェです。そこでは日替わりランチとして芋づくしプレートを作ってみたり、ワッフルでスイーツを作ってみたりして、とにかく食べてもらいました。このロゴを見たら、美味しかったなと思い出して買ってもらうという、サイクルを作るのが最初はとても苦労しました。
- 「畑があちこち離れている」こと
代々農業をやられてるところは家の前に畑が広がっていたり、まとまって農地があったりするのですが、私は新規就農者ということで近くても転々として細切れだったり、遠いところだと2キロぐらい離れていたりするところもあります。作業のたびに機械を運んだり、従業員を移動させたりしないといけないのがすごく大変です。
- 「子育てとの両立」
上が8歳、下が1歳なのですが、朝早く畑に行ったり、夜遅くまで働いたりというのができないですし、子供が風邪をひいたときは、私が元気でも休まないといけないということで、時間の制限があります。さらに夏がとても厳しくて、だいたい9時から16時、17時までの暑い時間帯しか働けないというのが、もう大変ですね。
- 「オールマイティにいろいろこなすこと」
前職で営業はやっていましたがただの会社員だったので、新しくチラシやPOPを作ったり、給与計算をしたり、シフトを作成したり、自分以外のスケジュール管理をしなければいけないことや、法人なので決算のために領収書などの仕分けをしなければいけないとか…。知らないことだらけで、とにかく日々試練でもどかしさはありますが、全部勉強になっています。
農業のいいところ・やりがい
- 「通勤時間が短いこと」
私が最初に就職した会社は都内だったのですが、千葉から片道2時間ぐらいかけて毎日満員電車に揺られて通勤しており、すごく大変でした。今はそのころと比べると、ストレスフリーです。また、畑が家から近いということもあり、子ども1人で来れますし、畑に行けば親がいるという安心感も与えられてるなと思っています。
- 「職場や取引先に子供を連れていけること」
スーパーや直売所に納品するときには子どもをおぶって連れて行っています。働いてもらってるパートさんも、幼稚園から中学生ぐらいまでのお子さんがいたり、お孫さんがいたりする方達なので、仕事に支障がなければ子供を連れて出勤してもいいよ、ということにしています。子育てと仕事は切り離せないものなので、「今日この人が急なお休みなら私が出るわ」みたいな感じで、みんなで協力しながら臨機応変に対応できるのは、農業の良さかなと思います。
- 「四季を感じられること」
畑の雑草だけ見てても四季を感じますし、うちの場合ですと、春は苗作りと植えつけをして、夏は暑さと虫と雑草との戦いをして、秋は収穫、冬は焼き芋や干し芋などの加工作業と販売が忙しくなります。季節によって仕事が違うというのも、季節を感じられていいなあと思います。
- 「自分が作ったものを直接販売できること」
自分が愛情を込めて作ったものを消費者の方に直接販売し、食べるところまで見届けられるというのは、農業のすごい魅力的なところですし、そこに一番やりがいを感じています。
- 「地域のコミュニティーが広がること」
農家同士の繋がりはもちろんですが、飲食店や地域の幼稚園・保育園など、異業種の方との繋がりが増えました。自然と地元の知り合いが増えて、今は地元民の夫より私の方が、知り合いが多いんじゃないかな、という感じです。
- 「災害に強いこと」
あちこちで地震などの災害が多いと思いますが、私の畑には、サツマイモを洗浄するための水道水がタンクで3トンぐらいありますし、薪や窯もありますし、常に芋を焼くためのガスボンベも置いてあるので火の心配もありません。トイレも仮設トイレが置いてあり、貯蔵庫にはお米はありませんが、炭水化物であるサツマイモがあるので最低限生きていくためのものは備えているかなということで、農家はそういう災害に強いかなと思っています。
就農を考えている方にメッセージをお願いします!
- 「何事もチャレンジしてみること」
イメージと現実は違ったりするので、好き嫌いの判断や、技術、知識というのは、やりながら習得する、でいいかなと思います。私は高校受験も大学受験も就活も、それぞれ挫折ばかりの記憶しかないのですが、今になってみれば無駄になったことは1つもなかったかなと思っています。
- 「勉強したことや聞いたことがすべてではない」
もちろん基本は押さえないといけないのですが、農業に関しては使う機械や畑の大きさ、環境などそれぞれ違いますので、自分に合ったやり方でやるのが正解かなと思います。
- 「自分で考えて行動すること」
分からないとかできないと言うのは簡単ですが、「どうしたらできるか」というのをとにかく自分で考えるのが大切だと思います。
- 「スケジュールを立てること」
子育てをして感じたのですが、絶対に計画通りにはいかないです。それを踏まえてスケジュールを立てておくと、優先順位もわかりますし、急な変更があっても腹を立てずに、柔軟に対応ができるのでいいかなと思います。特に農業は自然や病気、虫など、本当に思い通りにならないな、というのを日々実感してます。
- 「熱意を持って真剣に取り組むこと」
除草作業1つとっても奥が深く、雑草の種類を調べてみたり、どのタイミングで刈ったら効率がいいかなということで真剣に取り組んでます。生産や販売など、今まで良かったからと言って、そのあとも同じようにやったり、適当にこなすのではなく、経験年数に関わらず、何歳になってもどれだけ熱意を持って真剣に取り組めるか、というのが大事かなと思います。
- 「自分に合った働き方ができるのが農業」
働き方として、お金を稼げれば仕事内容は何でもいいという人もいますし、とにかく楽しく働きたいんだっていう方もいますし、家族の都合で休みやすい職場がいいな、など人それぞれあると思います。私の場合は、農業が好きで始めたわけではないのですが、会社員の頃みたいに、明日仕事行きたくないなあ、と思うことがなくなりました。むしろ、「私がやらなきゃ」とか、「早く行きたい」という感じで変な使命感が湧いています(笑)。「子育てしながら大変ね」と周りからよく言われるのですが、むしろ子育てする世代こそ農業という仕事が、一番おすすめだと私は思います。皆さんにも、自分に合ったスタイルでできる農業があると思いますので、いろいろチャレンジしてほしいですし、何か始めるきっかけになればいいなと思っています。
※農業に興味のある方は参考にしてください。
農業を始めたい方への支援(埼玉県農業支援課)