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掲載日:2022年11月22日
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埼玉県が育成したシクラメンの香りを体験した方は、きっとその香りに驚くことでしょう。それは、今まで感じたシクラメンとは全く別の香りだからです。
普通のシクラメンは全く香りがしないか、香りが薄いのが一般的です。普通のシクラメンは「シクラメン・パーシカム」という種から花が大きくて綺麗なものをどんどんと選抜していった結果、香りは注目されずにだんだんと失われていったのです。
そして、香りが注目されなかった理由の一つには、その香りの成分にも原因があります。この種のシクラメンの香りはカビ、ホコリ様の香り成分が主体で、一般に臭いと感じる香りなのです。
近年、種苗会社などが育成した「香りシクラメン」も出回っていますが、こちらは、普通のシクラメンの中に僅かに含まれている“シトロネロール”というバラ様の香りの成分が強めのものを選抜したものが一般的となっています。ただし、植物として発生させることができる香りの成分は普通のシクラメンと同じものでしかありません。
一方、埼玉県が育成した芳香シクラメンは全く別の香りがします。これは、普通のシクラメンの種と「シクラメン・プルプラセンス」という野生種を交配して芳香を有する野生種の遺伝的要素を取り入れているからです。
この芳香性野生種には普通のシクラメンには僅かにしか存在しない“シトロネロール”というバラ様の香りの成分が多く含まれ、更に、普通のシクラメンには全く存在しない“シナミルアルコール”というヒアシンス様の芳香成分やスズラン様の芳香成分を発するものです。
この芳香を発する種のシクラメンはヨーロッパのアルプス地方に自生するもので、現在では国際条約により日本に持ち込むことができなくなっているようです。
この芳香性野生種はシクラメンの原種の一つであるため、花は小さくて見栄えは良くないことから、園芸用には向きません。
このため、花が大きくて綺麗な園芸種に野生種の芳香を取り入れることにより、これまで花の“色”と“形”しか消費者の選択肢がなかったシクラメンの花に“香り”という新たなアイテムを加えることにより、新しい選択肢を与えられるようになったらいいと考え、埼玉県農林総合研究センター園芸研究所でこの芳香性野生種の香りを園芸種に取り入れる研究を行いました。
しかし、この2つの種のシクラメンは染色体数が違うため、通常の交配ではタネがとれません。
このことから、染色体倍加技術や胚珠培養などいくつものバイオテクノロジーを用いて種間交雑を行いました。これにより、世界で初めて野生種の芳香を園芸種に取り入れることに成功したのです!
現在、埼玉県が育成した芳香シクラメンは、6品種あります。それぞれの品種ごとに花の色が違うことはもちろんですが、含まれる香りの成分の比率も違います。
香りの違いにはモノサシが無く、更に人によって感じ方が違うことから、同じように感じる方もいますが、中にはこの6品種の香りの違いをかぎ分ける方もいらっしゃいます。
香りについては、映像や写真、文字でいくら伝えても表現しきれないので、まだ6品種の香りを体験していない方には、是非体感していただくことをお勧めします。
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