埼玉県障害者アートオンライン美術館 > 寄稿文一覧 > 真下敏明
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掲載日:2024年2月1日
真下建設株式会社 代表取締役社長
2007年より同職
その他2004年こだま青年会議所理事長
2016年よりNPO法人川・まち・人プロデューサーズ代表理事
地元の河川浄化活動と子供たちへ環境教育の推進(川ガキの育成)
2023年より(一社)埼玉県建設業協会副会長
・趣味 ゴルフ
・好きな食べ物 麵類全般
現在、当社は埼玉県が推進する障害者アート作品の利活用事業に賛同し、障害者アート支援活動を継続しております。そのことが縁となり『埼玉県障害者アートオンライン美術館』へ寄稿する運びとなりました。
芸術文化に精通されている方や障害者アートに深く関わっている方が書かれた寄稿文が多い中、異色ではありますが、建設業から見た障害者アートについて記してみたいと思います。
障害者アートと出会ったのは、令和4年の夏に埼玉県障害者福祉推進課の皆様が、私どもが所属する埼玉県建設業協会にお越しになり、障害者アート推進の取り組みについてのご紹介をしていただいたことがきっかけです。
そこで私は、障害者アートの魅力発信や裾野拡大のために様々な取組が行われていることを知ったのです。
クローズアップされる作家の皆さんが協同者、支援者の方々と一つの輪となって、いきいきとご活躍される姿に感動したことを覚えています。
ただ一方で、疑問も湧きました。何故、元々幅広い多様性を持ち、自由な表現を許されるアートに『障害者』という名詞を付けなければならなかったのだろうと。
多様性と言いながらも、そこに区別をつけているのではないだろうか。
今は様々な理由があっての名前だと思いますが、ただ近い将来にはその名詞が取り除かれた『アート』になっていればいいなと思います。
障害者アートとの接点がほとんどない建設業でしたが、障害者福祉推進課の皆様には知る機会をいただいたことに感謝しております。
次に、現在の建設業について触れます。
私は埼玉県本庄市で総合建設業を営んでおります。おかげさまをもちまして昭和8年の創業から令和5年で90年目を迎えました。
その間、埼玉県北部地域を中心に社会インフラの整備や維持、災害への対応で地域を支えてきた会社です。
真下建設株式会社 本社
現在、建設業では団塊世代の大量離職が控えており、担い手不足による産業自体の持続可能性が危ぶまれております。
当社にとっても、今後いかに人材を確保するかが事業の継続を左右することになります。
かつて、建設業といえば3K(きつい、汚い、危険)産業と呼ばれていた歴史があります。もしかしたら、未だにその厳しいイメージをお持ちの方は多数いらっしゃると思います。
そのようなイメージを払拭するため、建設業全体で新3K(給与が良い、休暇が取れる、希望が持てる)を掲げ、年齢、性別、国籍を問わず多様な人材が安心して働ける業界を目指し改革を行っています。
当社で障害者アートに関わることは、様々な先入観を取り除き、多様な人材が働ける建設業になるために全社員で学ぶ良い機会になっています。
令和4年11月より、2名の作家さんから1点ずつ作品をお借りして、会社の応接室に展示しています。その後、半年ごとに作品を入れ替えさせていただいて、令和5年11月1日より3期目の展示となりました。
3期目ともなると、作品の入れ替えが近づくと社員から『新しい作品が届くのですか?楽しみです。』といった声も届くようになりました。
また、作品は応接室に展示しておりますので、来客があれば、作家・作品について紹介をしております。地域の方々で希望のある方には作品を観てもらえるように、当社のホームページでの案内も行っていますし、障害者福祉推進課のホームページでも紹介をしていただいております。
一度、この取り組みについては、大野知事の定例記者会見の場でご紹介いただきました。大変光栄なことであると同時に、建設業における障害者アート支援を継続していく力を頂きました。
第3期 社内展示風景
令和4年11月から始めて丸1年が経過し、展示した作品も4名の作家の6作品となりました。この取り組みの実施には、障害者福祉推進課ご担当者様のご協力をいただきながら、実弟の常務取締役に動いてもらっています。また、作品をお借りする際には、常務自身が作家さんのお住まい等に足を運び、お借りする作品の選定のお打ち合わせや作品の搬入・搬出を行うようにしています。
常務からは、作家さんや作家さんの親御さん、支援者の方々から、絵を描くに至ったこと、現在の創作活動状況、作家さんと支援者の方々との繋がり等々、様々なお話を聞くことで障害者アートを取り巻く環境や作品への理解を深めることができるので、とても有意義な時間であると聞いています。
相田大希氏 『白い猫』
第12回埼玉県障害者アート企画展『LOOK ART ME!!』の図録の1番目に掲載されていた作品でした。人のようにも見える不思議な白い猫の絵画です。図録を開いて1番最初に目に飛び込んでくるこの作品にとても惹かれました。
相田大希さんのその他の作品も観させていただきました。どの作品もたくさんの色がパッチワークのようにちりばめられていて、温かくて、穏やかな心持にさせてくれるものばかりです。
福島尚氏 『EF重連 上越線』 福島尚氏 『川越の動脈』
福島尚氏 『フレートエクスプレス(心象画)』
既に鉄道画家として確立されていた福島尚さんです。テレビで一度拝見した事があり、お名前は存じ上げていました。
しかし、前述の図録にて福島さんの写真と見紛う数多くの絵画を知ったときに、実際の作品も是非観てみたいと感じ作品をお借りすることに決めました。
福島さんの作品を間近で見ると、巧緻を極めた作品だと思います。私は特に、レール等の鉄の質感が極めてリアルだと本当に感心しながら作品を眺めています。
小幡海知生氏 『みちお水族館』
小幡海知生さんの作品は、テーマとなる対象物を画用紙にカラフルにギッシリと描くことが特徴だと思います。
小幡さんも、前述の図録の中でのお気に入りの作家さんの1人で、是非実物を見てみたいと思いましたので、お借りすることを決めました。
作品をお借りする際には、小幡さんのご自宅で沢山の作品を見せていただきました。
魚、人、手のひら達が画用紙の上にギッシリと描かれており、見る者を元気に愉快にさせてくれる作品ばかりでした。
小幡海知生さんは、とても丁寧でお優しい方で、お母様からも海知生さんのお話をたくさん聞かせていただきました。
私は、この明るく、自由な作品たちは小幡さんの個性を認め、守り、育む環境があればこそ生まれたのだと感じています。
山中正則氏 『回遊』
初めて山中正則さんの作品に出合ったのも前述の図録です。
『ハンダゴテで描く浮世絵の世界』という作品で、歌川国芳の「木曽街道六十九次之内 守山 達磨大師」をハンダゴテで板に模写したユニークな作品です。
次に出合ったのは「埼玉県障害者アートオンライン美術館」で紹介されていた、池を泳ぐたくさんの錦鯉を描いた「遠泳」という作品です。
山中正則氏「ハンダゴテで描く浮世絵の世界」(左)「遠泳」(右)
私が山中さんの作品に興味を持った理由は、これら2つの作風が全く異なるものでしたので、他にはどのような作品があるのだろうという好奇心が湧いたためです。
作品をお借りするために、山中さんがいらっしゃる施設に行きましたが、そこで沢山の作品を観させていただきました。
人、動物、植物等。
山中さんは、絵を描く事が日課だとおっしゃっていました。
絵を描く対象物も、日々目に入るものをさらさらと描くそうです。
『回遊』は『遠泳』と同様に錦鯉の絵画ですが、背景が『遠泳』では水色だったものが、金色に塗られています。華々しく、会社に幸福をもたらしてくれそうな作品でしたのでお借りすることにいたしました。
真下建設株式会社では、中期経営計画で「多様性・感動と挑戦・調和」というスローガンを掲げております。今、世の中では「多様性」という言葉がたくさん使われておりますが、性別、年齢や国籍等の問題で調和が取れていないと感じています。
そこに対するお互いの理解・寛容性というものを社員それぞれが理解し、協力してもらいたいと思っています。私たちの頭の中には一般常識と自分で思い込んでいる中で、ハンディキャップを持つ方に対する偏見や外国人に対する差別が心の奥底にあると感じます。
それを少しでも気づいて見直していくには、直接または間接的にでも相互に触れあうことが大切だと思います。
普段は気づかずに差別的な用語を使ってしまったり、偏見の目で見てしまうことがありますが、ハッとそこに気づき、見直していく習慣をつけていきたいと思い、この取り組みを始めました。
建設業では人口の約4%の500万人ほどの人々が働いています。とても裾野が広い産業であると同時に世の中に影響を及ぼせる母体だと思っています。
当社は、建設業の中でも末端に位置する会社ですが、今後も建設業を理解と寛容性のある産業に変化させるような行動をとり続けていきたいと思います。