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掲載日:2022年2月17日
「老犬と愛」
ヤマダジュンヤ / YAMADA Junya
医療法人社団双里会多機能型事業所わっくす所属
血のように見える滴りのせいか、一見グロテスクな印象を受ける作品である。だが、細部をよく見ていけば、その感覚は哀しみ、諦め、辛さなどからできていることが分かり、さらに見つめていけば、所々に小さなおかしみも見えてくる。
タイトルのとおり、老いた愛犬への思いなのか。
涙のような水色の液体の滴り。
右上の、白い画面を裂くような形の中にぎっしりと描かれた歯のような模様。それらが醸し出す老いた愛犬と別れの予感のかげに、愉しげに踊る影、座ったり歩いたりぶら下がったりしている人の影、髭づらのおやじが思い思いに存在している。
細かい描き込みを見ていくうちに鑑賞者と作品との距離が次第に近づいていくのだが、ときどき読み解けないモチーフや意外な図柄に行き当たることで、作品と近づいたり離れたりするような不思議な感覚に陥る。
「いつかは細胞に直接訴えかけるような作品を作りたい」とヤマダさんは言う。彼の作品はこれからも鑑賞者のより微細な感覚を呼び起こしていくだろう。
東京家政大学家政学部造形表現学科3年 伊藤 奈美