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掲載日:2023年5月23日
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平成30年6月4日(月曜日)~6日(水曜日)
(1) 萩・明倫学舎(萩市)
(2) 山口県教育委員会(山口市立湯田中学校)(山口市)
(3) 福岡県立宗像中学校・宗像高等学校(宗像市)
(4) 九州国立博物館(太宰府市)
(文化財の保存及び利活用に係る取組について)
萩・明倫学舎は、長州藩の藩校である明倫館の跡地に、昭和10年に建築された日本最大の木造校舎である明倫小学校を改修・整備して、平成29年3月に開館した観光学習施設である。(明倫小学校跡地利活用事業)
萩・明倫学舎の敷地内には、明倫館の剣術場・槍術場である有備館(国指定史跡)など国や市の有形文化財が配置されている。
また、平成27年に世界文化遺産に登録された「明治日本の産業革命遺産」のうち萩の5資産について紹介する「世界遺産ビジターセンター」や、萩市内の観光の起点となる「萩まちじゅう博物館・観光インフォメーションセンター」を併設しており、観光の一大拠点としても位置付けられている。
萩市の文化財を利活用し、学習施設や観光施設として再整備する取組を視察することで、本県施策の参考とする。
平成30年は明治維新から150年目の節目の年であり、萩市では「明治維新胎動の地」として、「萩・明治維新150年祭」と銘打ち、明治からの歴史を振り返り維新の精神を風化させることなく未来につなげていく様々な記念事業を行っている。
これまでの経緯として、高度経済成長期で全国的に開発等が進んでいる中で、昭和47年に萩市は歴史的景観保存条例を制定した。そして平成21年に萩市歴史風致維持向上計画が全国で初めて国に認定され、平成27年に「明治日本の産業革命遺産」として萩の産業遺産群が世界文化遺産に登録された。
同市の文化財を活用した取組として、まず「萩まちじゅう博物館構想」がある。同市では萩まちじゅう博物館条例を制定し、市民主導で文化遺産を守りながらまちづくりにつなげる取組を進めている。NPO萩まちじゅう博物館には約200名の会員がおり、まちのガイド、施設の清掃、レストラン・ショップの経営などを行っている。これらの取組は日本ユネスコ協会連盟のプロジェクト未来遺産に登録されている。また、NPO萩観光ガイド協会は、同市内の至る所に存在する遺産や文化財について、地域のNPO会員がガイドとなり、案内や解説等を行っている。平成25年度から実施している「萩まちじゅう博物館文化遺産活用事業」では、地域の文化資産に関する情報を「おたから情報」としてデータベース化し、「おたから総会」で認定された情報について、交流イベントで紹介するほか、地域おたから紹介マップに掲載するなどしている。文化遺産をより市民レベルで守っていくため、市と民間が更に連携を強化し、地域の産業や人材育成につなげることが課題となっているとのことであった。
もう一つの文化財活用の取組は、今回の視察先の「萩・明倫学舎」である。藩校明倫館跡地の旧明倫小学校の校舎を改修・活用し、平成29年3月に開館した。歴史を感じる木造校舎の雰囲気はそのままに、館内には観光インフォメーションセンターやジオパークビジターセンター、世界遺産ビジターセンター、幕末ミュージアムなどが整備され、同市の観光の起点となる施設となっている。市とNPOにより協働運営しており、NPOは館内のガイドのほか、館内にあるレストランを運営している。年間約33万人が来館しており、同市内の更なる賑わいが期待される。
今回の視察先の調査により、早い時期から文化財保護に市民とともに取り組むことで、世界遺産登録などの効果もあいまって、観光や産業に好影響を与えることや、市民やNPOと協働して文化財の保護や活用の取組を進めることができる事例を確認することができ、本県における文化財の保存や利活用を進める上で大変参考となるものであった。
萩・明倫学舎にて
(地域連携教育に係る取組について)
山口県は、学校や保護者、地域住民が共に知恵を出し合い、学校運営に意見を反映させることで、地域全体で協働しながら子供たちの豊かな成長を支える「コミュニティ・スクール」を核として、中学校区ごとの地域ネットワークを形成している。
社会総掛かりで子供の学び、育ちを見守り、支援する取組を推進しており、全国知事会の先進政策となっている。
伝統的に地域全体で子供たちを育てるという教育に熱心な風土・県民性を持つ同県は、県内全ての小中学校に「コミュニティ・スクール」を導入し(導入率100%)、地域のネットワークを形成している。
さらに、学校において地域の大人向けの公開講座を開催するなど大人の学びの場とすることで、学校に地域の大人が集い、大人同士の絆が深まる場ともなり、地域の活性化にもつながっている。
山口市立湯田中学校の現場において、同県の学校を核(ハブ)とした地域連携教育や地域活性化の取組を視察することで、本県施策の参考とする。
子供を取り巻く社会環境は、少子高齢化や核家族化、地域住民とのつながりの希薄化等から変化しており、子供の育ちに関する様々な課題が指摘されている。その中で、平成29年3月に公示された新学習指導要領の前文で、「よりよい学校教育を通してよりよい社会を創る」という理念を実現するために、「社会に開かれた教育課程の実現が重要」であるとしている。これを踏まえて、山口県は、「社会総がかりによる『地域教育力日本一』の取組の推進」を重点施策の一つとして取り組んでいる。
同県内のコミュニティ・スクールの状況としては、公立小中学校には平成28年4月に全学校へ導入済み、県立特別支援学校12校には平成30年4月に全学校へ導入見込みであり、県立高校についても、平成32年4月に全学校へ導入見込みであるとのことであった。同県では地域連携教育の推進に向けて、コミュニティ・スクールの3つの機能である、「学校運営」、地域住民や保護者による補修学習やふるさと学習、学校の環境整備などの「学校支援」、学校のコミュニティ・ルームに地域の大人が集まって講座を開講したり、子育て中の親子の交流広場として開放し中学生も交流するなどの「地域貢献」の充実を目指して取り組んでいる。これらの成果として、学校や児童、生徒に対するアンケート調査の結果から、地域住民の来校者数は小学校、中学校ともに年々増加し、小中学校の総数として年間延べ85万人を超えていることが挙げられる。自分には良いところがあると回答する生徒の割合も、全国平均より2~4ポイント高い数値となっており、全国的に見て、自己肯定感の高い児童・生徒が育成されている状況を示している。また、地域行事への参加者数についても全国平均を上回り、小中学校の7割以上の児童・生徒が大人になったら自分の地域のために何かをしたいと回答しており、郷土を愛する心や地域の担い手としての意識が醸成されている状況を示している。地域住民からは、「地域の子供のために頑張りたいという気持ちが、日々の生活の張りとなっている」という声や、「子供のためと思って活動していることが、実は自分のためになっていると感じる」という声も上がっているという。
視察を行った山口市立湯田中学校では、コミュニティ・ルームである「湯田中学校ひろば」を、NPO法人が運営する子育て支援交流広場として開放し、中学生とも交流する時間を設けている。また、学校と地域の連携として、中学生が、地域の方や小学生とともに通学路や学校前であいさつ運動を行っているほか、地域の宝である湯田温泉の足湯広場を清掃するなどの取組を実施している。校長自身も校長室だよりを頻繁に作成し、学校の正門脇の掲示板に大きく印刷し掲示するとともに、市の施設や郵便局へ配架や掲示し、湯田中学校の情報を地域へ広く提供している。
視察当日も、湯田中学校ひろばにおいて、子育て支援交流広場を開放しており、多くの親子連れが集い、同じ部屋で実施していたメイクアップ講座にも多くの母親が参加していた。
本県は、地域住民とのつながりの希薄化が課題であり、郷土を愛する心を持つ県民が少ないと言われる。今回、視察先を調査できたことは、学校の力と地域の力とを双方に生かす取組を始めた本県にとって、大変参考となるものであった。
山口市立湯田中学校にて
(中高連携教育に係る取組について(併設型中高一貫教育校))
福岡県教育委員会では、グローバル化や情報化の進展などの社会の変化、進路希望等の多様化、生徒数減少による学校の小規模化などに適切に対応できる魅力ある学校づくりを進めている。
その中で、中等教育の多様化を推進し、生徒一人一人の個性を重視した教育を実現するため、平成11年度から中高一貫教育を制度化し、併設型中高一貫教育校4校、中等教育学校1校を設置している。
宗像中学校・宗像高等学校では、地域の歴史や産業等の学習や留学生との交流活動など豊かな人間性を育成する教育を実施している。この中高連携教育の取組を視察することで、本県施策の参考とする。
宗像中学校、宗像高等学校は、既設の宗像高等学校の敷地内に宗像中学校を新設した併設型の中高一貫教育校である。宗像高校は大正8年4月に創立し、今年で創立100周年を迎える福岡県内でも歴史ある高校である一方、宗像中学校は平成27年4月に開校し、今年度、初めて卒業生が宗像高校に進学したところである。
同県内には5校の中高一貫教育校があり、うち4校は宗像中学、高校と同じ併設型、残る1校は中等教育学校として整備されている。宗像高校は、中学校からの内進生が2クラス80名、外部から試験を受け入学する生徒(外進生)が6クラス240名で構成されている。1年次は、内進生と外進生は別々のクラスとし、2年次からは、両者分けずにクラスを構成する予定である。
中高一貫教育のメリットとして、中学、高校それぞれの教師間の連携・協働が挙げられる。中学、高校の職員室が同じ部屋にあり、日常的に密に情報交換を図ることができる。国語や数学の授業では、他の教師の力を借り、少人数指導やチームティーチングを実施しているという。
また、6年間を通した教育活動として、中学、高校の6年間を2年ずつ、前期・中期・後期と分けている。前期では、習熟度別授業や少人数授業、ICTを活用した授業、交流・体験活動を行い、基本的な生活習慣と学習スタイルを身に付ける教育を行い、中期では、学問探究、進路選択の基礎を作るため、企業訪問や大学訪問などキャリア教育の充実を図り、後期では、生徒一人一人に寄り添った進路指導、面接、小論文への指導など高い志の実現への挑戦を支援し、自らの将来設計を立てさせるとのことであった。
宗像高校では、「夢に向かって」と題した記録ノートを作成しており、生徒自らの家庭での学習時間、睡眠時間、一日の感想、担任の先生への相談などを記載し、担任は毎日全生徒分を回収してコメントを寄せることで、学習習慣づくりに高い成果を上げている。生徒にとっては自分の生活を振り返ることができ、先生にとっては生徒一人一人の様子をきめ細かく把握することができるため、双方にメリットがある取組となっている。
概要説明を受けた後、委員から活発な質問が行われた。その中で、「地元の市立中学校がある中で、新しく県立中学校を新設することは生徒の取り合いにもなり、地元の宗像市からは歓迎されないのではないか」との質問に対し、「地元の宗像市は当初から非常に協力的で、県立の中高一貫校ができることには賛成してもらえていた。そのため、市内の中学校長で組織する校長会にも、オブザーバーとして参加している。宗像市との関係は良好である」との回答があった。
今回、視察先を調査できたことは、伊奈学園中学校、伊奈学園総合高等学校で中高一貫教育を実施している本県にとって、大変参考となるものであった。
(特色ある博物館運営について)
九州国立博物館は、東京、京都、奈良に次いで108年ぶりに平成17年10月16日に新設された国内4番目の国立博物館で、3博物館が美術系博物館であるのに対し、同館は歴史系博物館として設置されている。(独)国立文化財機構と福岡県立アジア文化交流センターが連携協力し、博物館運営をしている。
同館では、免震層に設けられた収蔵庫をはじめ、文化財保存修復施設を窓越しに見学することができる「バックヤードツアー」、アジア諸地域との交流により築かれた日本の文化に触れることができる「文化交流展示」など、特色ある取組や展示を行っている。
これらの取組等により、開館11年目(平成29年)に入場者数が1,500万人を超え、年平均130万人超が来館している。
同館の特色ある博物館運営について視察することで、本県施策の参考とする。
福岡県太宰府市にある九州国立博物館は、太宰府天満宮の隣に位置し、自然豊かな森の中に、玄界灘をイメージしたという緩やかな曲線を描いた屋根が特徴的な建物である。江戸東京博物館の設計や、愛知万博(日本国際博覧会)の総合プロデューサーを務めた、同県久留米市出身の菊竹清訓氏により設計された同館の建物は、全面ガラス張りで、その表面には空の水色や森の緑色が映り込み、森の中の建物という違和感を無くしている。
同館の敷地17万平方メートルのうち、14万平方メートルは太宰府天満宮から昭和45年当時に寄附されたもので、残りの土地は県が追加購入したものである。
同館の建設に当たっては、関係者において定めた、国:県:市民 5:4:1という割合にて費用負担している。ここでの市民とは地元の経済界が財団を作り、博物館設置に協力する地元企業や個人から寄附を集め、最終的には国に寄附をするという形をとったものである。建物管理の部分でも同様で、維持管理費の4割相当については同県が負担している。
同館の運営方法としては、(独)国立文化財機構と、福岡県立アジア文化交流センターの2者が連携協力して共同運営している。そのため、国は文化財管理や展示、博物館科学事業を主として行い、県は広報や交流事業、教育普及事業を主として行う形で役割分担をしている。
常設展では、九州の地が大陸との交流の窓口であったことから、日本がアジア、ヨーロッパとの文化交流の中で形作られた歴史を「文化交流展」として展示している。通常、博物館の常設展では展示品の変更があまりなく、いつ来ても同じ展示がされていることが多いが、同館では毎週月曜日の休館日に展示替えを行い、いつ来ても新しい発見ができるというコンセプトの下で展示に工夫を施している。
同館の建物については環境面に配慮し、免震構造を取り入れている。これは、展示品の文化財を守ることはもちろん、文化財の保存修復施設も安全性を確保する必要があるためである。
同館では、ボランティア活動も盛んであり、展示品の解説や教育普及、館内案内等のため約300名が登録されている。他の博物館では行われていない取組であり、市民により支えられている博物館であることを示している。
概要説明の後、活発な質問が行われた。その中で、「今、日本には多くの外国人観光客が訪れており、九州国立博物館にも多く来館していると思うが、どのような対応を行っているか」との質問に対し、「インバウンド観光客は、特に中国人が多く、その多くが太宰府天満宮を訪問している。その流れで九州国立博物館を訪れる方も多いので、多言語化対応を実施している。無料で貸し出している音声ガイドを多言語化対応しているほか、展示品の説明書きでも4か国語対応で解説している」との回答があった。
展示スペースを視察した後、文化財の保存修復施設を裏側から見学する「バックヤードツアー」を視察した。バックヤード部分の建物は、棟ごとの扉がセキュリティロックされており、見学する窓もはめ込まれたもので、土足で立ち入ることを禁止するエリアもいくつかあった。このように保存している収蔵品や修復中の文化財がある施設内に、害虫生物が入り込まないよう管理しており、文化財を次の世代へ引き継いでいくという博物館の役割を実際に感じることができた。
今回の視察先を調査できたことは、本県における特色ある博物館運営を推進していく上で大変参考となるものであった。
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