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掲載日:2023年5月23日
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平成29年5月29日(月曜日)~31日(水曜日)
(1) 富山県立志貴野高等学校(高岡市)
(2) 金沢市立明成小学校(金沢市)
(3) 金沢21世紀美術館(金沢市)
(4) 富山市立芝園小学校、芝園中学校(富山市)
(インクルーシブ教育について)
富山県では、特別支援教育推進の方策に関する協議を行うため、特別支援教育推進協議会を設置している。また、高校における支援体制の充実を図るためインクルーシブ教育システム構築のモデル校を指定し、障害のある生徒とない生徒が共に学ぶ環境づくりや合理的配慮の在り方について調査研究を行っている。
富山県立志貴野高等学校は、平成25年度、平成26年度にインクルーシブ教育に係る県のモデル校に指定されたほか、文部科学省からもインクルーシブ教育システム構築モデル事業の研究指定を受け、校内で検討委員会を設置し生徒本人及び保護者の合意形成に基づいた合理的配慮の提供などの支援体制の構築に取り組んでいる。
同校を視察することにより、本県のインクルーシブ教育についての参考とする。
※ 障害のある子供には、自立や社会参加に向け、一人一人の障害の状態や教育的ニーズに応じた指導や支援(特別支援教育)に加え、障害のある者と障害のない者が可能な限り共に学ぶ仕組み(インクルーシブ教育システム)を構築することが教育分野の重要課題となっている。
富山県立志貴野高等学校は、定時制単位制高校であり、平成29年度は、247人の生徒が在籍している。教室は少人数対応で、1クラスが20人を超えないように編制している。少人数の学級編制により、小中学校で不登校だった生徒も精神的な負担が軽減され、登校できるようになっている。同校には全階に移動可能なエレベーターや全ての階に車椅子のまま入れるトイレが設置されている。また、教室のホワイトボード付近には、掲示物を一切貼っておらず、発達障害等で視覚による影響を受けやすい生徒に配慮し、授業に集中できるような工夫がされている。
同校のインクルーシブ教育システム構築モデル事業の取組では、対象となる生徒の教育的ニーズに応じて合理的配慮を充実させ、実践事例のデータベース化と、それを全国に提供することを狙いとしていた。特に、生徒本人や保護者との合意形成については、マニュアル化を行い成果を蓄積していきたいと考えていた、とのことである。研究内容は、実態把握と授業のユニバーサルデザイン化の2点である。実態把握としては、生徒本人や保護者が記入するプロフィールカードを活用し、要支援生徒のリストを作成していた。また、健康管理カード、小中学校の健康診断票から疾病要管理生徒一覧を作成した。要支援生徒にはスクールカウンセラーが、疾病要管理生徒には養護教諭が、生徒本人及び保護者と面談し、入学式までに個別相談を実施している。さらに、必要に応じて、医師との連絡やスクールカウンセラーによるカウンセリングを行っている。次に、授業のユニバーサルデザイン化としては、配布する印刷物の配慮(字を大きく、具体的に流れを示す)、シンプルな板書、視覚的な提示(教室後方でも読めるように字を大きく、板書をすぐに消さない)や話し方の工夫(簡潔で具体的な指示)、肯定的な評価などに取り組んだ。また、生徒の視点を重視するため、誰もが分かりやすい授業とするために教員がお互いの授業を参観し合う互見授業を実施している。さらに、学校行事などでプロジェクターを設置して、テキストや写真、式辞、校歌などの視覚情報を掲示する情報保障の取組は、聴覚障害者だけでなく発達障害の生徒にも有効であった。
モデル事業の成果としては、合理的配慮の校内体制が確立したことが挙げられる。基礎的環境整備(手すりの設置等)が充実することで、対象となる生徒の状況に応じた、より一層個別の合理的配慮ができるようになったとのことである。モデル事業は終了したが、ユニバーサルデザイン化の取組は現在も継続している。今後の課題としては、聴覚障害者が入学し、要約筆記者が必要となった場合の対応や障害のある生徒への就労支援をどう行っていくか、といったことが考えられるとのことであった。
概要説明の後、活発な質問が行われた。その中で、「保護者からの要望で一番多い事項は何か」との質問に対し、「聴覚障害者の保護者は授業中の生徒本人への声の掛け方についての要望が、発達障害の保護者からはクールダウンしやすいように、座席の配置を教室後方にしてほしいとの要望があり、個別に対応している」との説明があった。
今回視察先を調査できたことは、本県におけるインクルーシブ教育を推進していく上で大変参考となるものであった。
(基礎学力向上への取組について)
石川県は、平成28年度全国学力・学習状況調査の平均正答率が小学校で全国1位、中学校で全国3位となっており、各学校における特色ある学力向上の取組が注目されている。
金沢市立明成小学校では、理科を通したPISA型読解力の育成を研究テーマに掲げ、知的好奇心を持って問題を見いださせるために、子供に驚きや感動を与える教材の開発に力を注ぎ、「明成塾」と呼ばれる校内研修を行い、問題意識や研究成果を共有し、教師一丸となって取り組んでいる。
同校では、PISA型読解力を自ら学習課題を見いだし、予想し、確かめ、解決するという自力解決力そのものであると考えている。そこで、理科で培われる論理的思考力を向上させることで、学力の向上に結び付けることを狙いとしている。
同小学校の学力向上の取組を視察することで本県施策の参考とする。
金沢市は平成27年に策定した「金沢市学校教育振興基本計画」に基づき、知・徳・体の調和や金沢への愛着と誇りが持てる教育を推進するため、金沢型学校教育モデルとして、「金沢型学習スタイル」の実践を掲げている。金沢市立明成小学校は、「金沢型学習スタイル」を実践する「理科・生活科重点指定校」となっている。同校は、日本体育大学の角屋重樹教授の助言を受け、平成19年から理科を通じたPISA型読解力の育成に力を入れ、論理的思考力の向上を図ってきた。「理科・生活科重点指定校」となってからは、その取組を更に発展させ、角屋教授が提唱する思考、判断、表現の「すべ」により問題を解決していく力を身に付けさせるため、教員は指導の工夫を、児童は問題解決のための手段を「わざ」として獲得・活用することを目指して実践を積み重ねている。
同校は、基礎学力向上のための授業スタイルとして、視点1「価値ある問題を発見するための単元構成や授業展開の工夫」、視点2「問題解決のための一人ひとりへの手立て」、視点3「問題解決のためのかかわり合いの手立て」の3つの視点を設けている。このうち視点2と視点3が教員にとっての「わざ」である。
これらの視点を教員間で共通理解、実践するため、同校では、毎週木曜日に「明成塾」と称して教員の校内研修を実施し、教員の「わざ」の獲得を図っている。その内容は、ビデオに撮った授業の検証、模擬授業、教材づくりなどである。また、理科実技研修や教室環境ツアーを行いベテラン教員から若手教師へ技術を伝えていく場を設けている。さらに、今年度から黒板をデジタルカメラで撮影し互いに見せ合う取組を始めるなど、校内研修がマンネリ化しないようにしているという。
児童に対しては、基礎学力の定着のため、朝と昼に15分間の学習タイムを設けている。また、家庭学習として、同校では10分×学年+10分以上の学習時間を確保することを推進している。年度初めに児童ごとに「家庭学習・読書カード」を作り、これを使って、年に数回ある保護者向けのスクールフォーラムで児童に家庭学習の習慣が身に付くように呼び掛けを行っている。授業では、児童が「わざ」を身に付けるためにキーワードを多用した授業展開を行っている。キーワードには、「なぜ~」、「どうすれば~」などの問題意識を高めるものや、「このやり方で正しいのか」などの思考を深めるものがあり、理科の授業などで実践しているという。また、各教室には「わざボード」を設置し、児童と教員が共有するという見える化の取組も行っているとのことであった。
これらの取組の結果、平成28年度の全国学力学習状況調査で、同校は、ほとんどの科目で全国平均を上回っている。学力調査の結果、目的や条件に合わせて書く力が弱いことに課題があることが分かったので、朝・昼の学習タイムに作文を取り入れるなどの取組を実施している、とのことであった。
概要説明の後、活発な質問が行われた。その中で、「思考を深めていくと学習指導要領を超えた学習になってしまうのではないか。また、学区を超えて入学を希望する事例はあるか」との質問に対し、「あくまでも学習指導要領の範囲内で児童にいかに面白く学べるかを考えて教材等を工夫している。学区外からは約50名の児童が通学しているが、これは通級指導教室が4つあることも理由である」との説明があった。
今回視察先を調査できたことは、本県における基礎学力向上への取組を推進していく上で大変参考となるものであった。
(文化施設の活性化について)
金沢21世紀美術館は、地方都市の公立美術館でありながらも、平成16年の開館から1年で157万人を動員し、「地方都市では驚異的な美術館」として全国的に注目された。平成23年には来館者数が累計で1,000万人を突破し、現在でも美術館の成功事例として全国から注目されている。
同美術館では、参加交流型の美術館をコンセプトの一つに掲げ、新たな「まちの広場」としての役割を担っている。また、子供から大人まで様々な対象に向けた教育普及プログラムを展開することで活性化を図っている。
同美術館の取組を調査することで、本県の文化芸術活動の活性化に係る施策の参考とする。
金沢21世紀美術館は、平成16年に開館した市立美術館であり、全国有数の来館者数であることから注目を集めている美術館である。当初は、金沢で受け継がれてきた伝統工芸に目を向けるべきであるし、近くに石川県立美術館もあるのになぜ美術館を造るのかといった批判的な声もあったが、当時の市長の強い意志により金沢市として現代美術館を設置した。県立美術館が本格的な美術館であるのに対し、市が設置する美術館は敷居が低くて訪問しやすいものとすることを目指した。金沢21世紀美術館の名称は、一つには21世紀にできる美術館であること、また、多様な人々と一緒に成長していく芸術交流機能を備えた美術館ということから決定された。別途、愛称も募集され円形の建物であることから「まるびぃ」と決定した。
同美術館は、有料ゾーンと無料ゾーンに分かれており、無料ゾーンは年末年始を除いて午前9時から午後10時まで開館している。長い時間、開館することにより人々の往来も増え、「まちの広場」としての役割も担っている。
同美術館の開館当時は、美術館の冬の時代と呼ばれており、どの自治体も予算や人が付かないときだった。そのような中で、どうすれば年間30万人の目標入館者数をクリアできるかが検討された。そこで、開館当時は市内の小中学生約4万人全員を、バスをチャーターして無料で招待し、子供たちに配布したチケットに「もう1回券」を添付した。子供が家庭に帰り、今度は週末などに両親や祖父母を連れて、美術館にまた来てほしい、という狙いで行ったという。また、家族で美術館に来るときは、子供が家族を案内し説明もしてもらうようにお願いした。そうすることで現代美術を理解してもらい、また、入館者数の確保もできると考えた。このような地道な取組の結果、開館1年目の入館者は150万人を超えることとなった。さらに、北陸新幹線の開業を契機として、金沢観光の定番として定着することとなり、来場者数は一気に増えていった。なお、子供を無料で招待する取組は、小学4年生を全員招待する形で現在も続いている。
通常、美術館は、教育施設という位置付けになることが多いが、金沢市では当初から市長部局の企画部門が同美術館を所管している。この狙いは、同美術館を、まちの活性化や観光など横断的に活用することを考えていたことによる。このため、同美術館は、サポートショップとして周辺の約300店舗と連携して街歩きを推奨し、まちの活性化につなげている。同美術館のチケット半券を提示すると各店舗で割引サービスを受けることができる。反対に、各店舗にあるパンフレットを持って来館すると同美術館の入館料が割引になるサービスも行っている。ほかにも、子供から大人まで様々な対象に向けた教育普及プログラムを展開するなど、交流の促進や活性化に貢献している。
概要説明の後、活発な質問が行われた。その中で、「県立美術館とどのように連携しているか」との質問に対し、「県立美術館に加え、金沢城公園など周辺の文化施設と連携し、点ではなく、面で集客できるように取り組んでいる。また、県とも連携してワンデイ、スリーデイ、年間パスポートなども発行している」との説明があった。
今回視察先を調査できたことは、本県における文化施設の活性化の取組を推進していく上で大変参考となるものであった。
金沢21世紀美術館にて
(小中一貫的連携教育について)
富山市立芝園小学校、芝園中学校は、一体型校舎で「小中一貫的連携教育」を行っている。同校では、両校教員による合同研修や中学校教員の小学校での出前授業等を行っており、教職員が互いの指導観や指導法を共有することで、互いの指導方法の良さを学び、9年間を見通した一貫性のある指導が進められるなど、児童生徒の成長に応じた効果的な対応ができるようになっている。
また、小・中学校の児童生徒が生活空間を共有し、合同で活動に取り組んだりすることで、児童生徒はもとより、教員と児童生徒の間にも自然な交流が生まれ、小学校から中学校への滑らかな接続につながっている。
同校の小中連携教育に係る取組を調査し、本県施策の参考とする。
芝園小学校、芝園中学校は、富山市内の4つの小学校の統合及び芝園中学校の建替えに伴い、芝園中学校の敷地内に小中一体型の新校舎を建設する形で開校し、今年10年目を迎える。小学校棟と中学校棟は、共通棟を挟んで2階、3階、4階がつながっている。児童生徒数は合わせて1,037人である。小学校の児童数は634人で、各学年は全て3クラス編制である。また、校区外からの入学者が85人おり、他校と比較して非常に多いことが特徴である。特別支援学級が、知的障害、自閉症・情緒障害、病弱・身体虚弱、肢体不自由、難聴、院内の6クラスと多く、他者を受け入れる土壌がある。中学校の生徒数は403人で、各学年4クラス編制となっている。
同小学校では、学校独自の目標として読書の習慣化と質の向上を掲げており、学校司書の推薦図書を含めて、年間、低学年で50冊、中学年で40冊、高学年で30冊を読んだ児童の割合の目標を85%としている。ボランティアによる読み聞かせなども行い、昨年度の割合は89.1%となり、読書活動優秀実践校として文部科学大臣表彰を受けている。同中学校では、初代校長の「本校をして県下随一の模範中学校たらしめん」との言葉を実践し、生徒の個人差に応じた指導に重点を置き、学力の形成を図っている。これらの取組を含め様々な活動により、小・中学校ともに一体型校舎となった時点と比較して児童・生徒数が増加している。特に同小学校には見学者が多く、県外からも多くの児童が入学しており、転居する際に選ばれる学校となっている。また、富山市は中学校で学校選択制を取っているが、同中学校は毎年抽選となっているとのことである。
同小・中学校における小中一貫的連携教育は、一般的な小中一貫教育とは異なり、教育課程を9年間で一貫したものとしているわけではない。校長もそれぞれにおり、教育課程も別々である。小中一貫的連携教育は、小学校と中学校が一体型校舎であり、違和感なく小・中学生が触れ合う機会があるという環境の特徴を生かした様々な連携を可能な範囲で進めていこうというものである。小・中学校間で検討し、毎年度工夫し、実行しているとのことである。
具体的な取組としては、年間の様々な学校行事等で小・中学生が交流しており、小中学生が共に校門前で挨拶を行う「さわやか挨拶運動」、中学生が小学生に本の読み聞かせを行う「図書館まつり」、小中合同地域清掃の「ビューティフルプロジェクト」、ライオンズクラブの協力を得て小中合同緑化活動などを行っている。また、中学校の合唱コンクールの練習の様子を小学生が見学したり、避難訓練を合同で行っている。さらに、2月には小学6年生と中学1年生が懇談し、中学校での生活について話をする機会を設けたり、ノート交流として中学校のノートを拡大コピーし、小学校に掲示するなどしている。3月には出前授業として中学校の教員が小学校に出向いて授業を行い、中1ギャップをなくすための取組をしている。年間の様々な学校行事等での交流のほかにも、校舎がつながっているため頻繁に触れ合う機会があるとのことである。このほかにも、教員の研修として、8月に小中合同研修会を開催している。
概要説明の後、校舎の見学を行う中で、小中学生の交流方法、充実した施設などについて、活発な質問が行われた。
今回視察先を調査できたことは、本県における小中連携教育の取組を推進していく上で大変参考となるものであった。
富山市立芝園小学校、芝園中学校にて
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