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掲載日:2023年5月23日

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福祉保健医療委員会視察報告

期日

平成28年8月2日(火)~4日(木)

調査先

(1) おきなわクリニカルシミュレーションセンター(沖縄県西原町)
(2) 沖縄県立中部病院(うるま市)
(3) 沖縄県庁[青少年・子ども家庭課](那覇市)
(4) 沖縄県立総合精神保健福祉センター(沖縄県南風原町)

調査の概要

(1)おきなわクリニカルシミュレーションセンター

(医療従事者の育成及び確保に関する取組について)

【調査目的】

医師不足による医療崩壊が社会問題となる中で、比較的医師確保に成功しているといわれる沖縄県でも、医師不足の問題は徐々に顕在化してきている。このような医療の問題解決への取組として、国からの支援により、沖縄県、沖縄県医師会、琉球大学が立ち上げたプロジェクトの一つが、おきなわクリニカルシミュレーションセンターである。同センターは、沖縄県下の全ての医療系学生及び医療従事者を対象としたシミュレーション教育のプログラム開発・実践・研究を行い、シミュレーション教育の普及を目指すものである。
同センターの取組を調査し、本県の医療従事者の育成及び確保のための施策の参考とする。

【調査内容】

沖縄県の人口10万人(単位人口)当たりの医師数は、長らく医師が少なかったため全国平均を下回っていた。その後、昭和54年に琉球大学医学部が設置されて医師養成機関が県内にできたため増え、平成18年に初めて全国平均を上回った。
沖縄県における研修医の獲得数は、京都府、東京都に次いで、全国3位であり、全医師数における研修医比率では、全国1位となっている。研修医が集まる理由であるが、沖縄県立中部病院を中心として培ってきたブランド力が非常に大きい。しかし、単位人口当たりの医師数は、全国平均より少し上の22位である。初期研修では多くの研修医が来るが、初期研修後の20歳代の医師数の割合は全国最下位であり、医師の定着という点で、初期研修終了後に医師が他都道府県への流出をどう抑えていくかという課題がある。
おきなわクリニカルシミュレーションセンターは平成24年3月に開設した。この事業は、琉球大学単独の事業ではなく、沖縄県の事業でもあり、同県から開設のため資金が寄附されている。沖縄県は人口が増えており、出生率も高く、生産年齢人口の割合も高い。比較的医師確保ができていた沖縄県であるが、人口が増加していることもあり、これまでと同じ人数の医師の確保では不足していく可能性があった。そこで、沖縄県医師会からの医師確保の要請により、沖縄県は平成22年に同センターの設置を地域医療再生計画に記載するとともに、琉球大学に20億円を寄附し、同センターを設置するプロジェクトがスタートした。
同センターが力を入れているシミュレーション教育とは、実際の現場を模して、シミュレーター(マネキン)などを使った模擬環境で実際に行ってみて、その場で振り返る教育のことである。OJTと比べ、すぐにフィードバックを返すことができることや、安全性の点で優れているため、ここ十数年で医学教育の現場で急速に普及が進んでいる。同センターの利用者は、年間に約16,000人である。オープン当初は約12,000人だったため、徐々に増えてきている。今年度、大阪で開催された日本医学教育学会主催の医学生による技能競技大会では、同センターで練習を積んだ琉球大学のチームが優勝した。昨年度は2位で、学生の段階でも徐々に技術の習得が進んでいることは、同センターの成果の表れである。同センターがあるからこそ優秀な医師が多く育っているという評判になり、全国から医学生が集まることで、医師確保につながっていく。また、継続的にスキルを習得できる場があることは、医師が県内に定着する動機付けにもなっているとのことであった。


おきなわクリニカルシミュレーションセンターにて

概要説明の後、シミュレーターを使ったトレーニング、シミュレーターの種類・機能、シミュレーション教育の普及状況、OJTを充実させるのではなくシミュレーション教育を導入した理由、施設使用に係る費用の扱いなどについて委員から活発な質問が行われた。その後、同センター内の視察をした。
以上のような同センターの取組を視察できたことは、本県における医療従事者の育成及び確保に関する取組を実施していく上で、大変参考となるものであった。

(2)沖縄県立中部病院

(地域医療体制について)

【調査目的】

沖縄県立中部病院は、沖縄県うるま市に位置する県立の病院である。沖縄県の基幹災害医療センターであるほか、救命救急センター、DMATチームを持つ。また、総合周産期母子医療センターなどの指定を受けるなど、県下では最も規模の大きい病院の一つである。同病院は、昭和42年から医師の臨床研修を行っており、古くからの臨床研修指定病院に数えられる。研修はハワイ大学医学部と提携し、毎年海外から指導医がやってくる。また先輩医師(指導医)が後輩医師を教え、後輩医師がそのまた後輩医師を教える、いわゆる「屋根瓦方式」の指導を行っており、全国的にも臨床研修希望者の多い病院として知られる。
同病院の取組を調査し、本県の地域医療体制の整備のための施策の参考とする。

【調査内容】

沖縄県立中部病院は、第2次大戦終了後、灰じんの中から立ち上がり発足した琉球政府立コザ病院を前身とし、現在のうるま市に移転して沖縄中部病院と改称された。昭和47年の日本復帰とともに沖縄県立中部病院と再び改称され、現在に至っている。
同病院の理念は、「私たちは、すべての県民がいつでも、どこでも、安心して、満足できる医療を提供します」というもので、ベッドの満床を理由に患者を断らないということでも知られている。昭和50年に救命救急センターの指定を受けて、昭和54年に救命救急医療体制の強化のため、日本でも先駆けとなる検査技師、放射線技師及び薬剤師の三交代制勤務を実施した。以来平成16年までは、沖縄県内唯一の救命救急センターとして、そして、現在も24時間365日、夜間でも昼間と同じ医療を提供している。
許可病床数は一般546床、感染4床の合計550床である。診療科はほぼ全ての診療科をカバーしている。医師は204人でそのうち正規職員が117人、研修医が87人(初期56人、後期31人)である。ほかに、看護師や診療協力部門などで多くの職員が医療に当たっている。平成27年の延べ入院患者数は190,450人、平均在院日数は12.6日である。外来の延べ患者数が225,532人、救急の受け患者数38,641人でそのうち救急搬送が7,507人である。手術数は4,296件でそのうちの約30%が緊急手術である。また、沖縄県には39の有人離島があり、そのいずれにも医師を配置しなければならないが、それらの離島へ医師を送っているのが同病院でもある。
これを支えているのが、多くの研修医と同病院の研修体制である。現在の同病院の研修体制については歴史的な経緯がある。終戦後の沖縄の医療事情は劣悪であった。そのため、琉球政府は医師確保対策として日本国内の大学に「留学」させる特別な奨学制度を作成した。しかし、当時の沖縄には卒後臨床教育を受けるための施設や臨床研修プログラムがなかったことから、医師不足解消の成果を上げることはできなかった。このような状況を打開するために、同病院では昭和42年にハワイ大学と提携した臨床研修プログラムがスタートした。また、先輩医師が後輩医師を教え、後輩医師がそのまた後輩医師を教える、いわゆる「屋根瓦方式」の指導を行っている。この方式による臨床重視の研修プログラムは年月を経るにつれてしだいに全国から注目を浴びるようになり、昭和48年からは後期研修を2年追加し、更に専門性の高い研修を行っている。
昭和58年からは、後期研修修了者に1年の離島勤務が義務化され、以来修了生が離島医療の大きな戦力となっている。平成8年には研修修了後離島で自立した診療のできる医師づくりのために、プライマリケアコースを新設した。また、指導医と研修医のモチベーションを高めるために米国での臨床研修も導入した。
平成16年に新臨床研修制度が開始されたが、研修制度を積み上げてきた実績により、同病院は全国的にブランド力のある臨床研修病院となっている。
概要説明の後、平均的な病院における研修医の割合、同病院のような研修医を生かした病院づくりの可能性、県の一般会計からの繰入れ状況、高齢者の増加に向けての課題などについて委員から活発な質問が行われた。その後、院内を視察した。
以上のような同病院における地域医療の取組を視察できたことは、本県にとって大変参考となるものであった。


沖縄県立中部病院にて

(3)沖縄県庁

(少子化対策について)

【調査目的】

平成27年版少子化対策白書によると、全国の合計特殊出生率は1.43である。全都道府県の中で合計特殊出生率が最も高いのは1.94の沖縄県である。沖縄県は昭和50年以来全国1位を維持している。しかしながら、同県においても少子化傾向が進行しており、平成元年以降、人口を維持する水準(合計特殊出生率2.07)を下回る状況が続いている。平成24年度に行われた人口推計では、平成37年前後にピークを迎えた後、減少に転じることが見込まれている。こうしたことから、同県は平成26年3月に「沖縄県人口増加計画」を策定し、様々な少子化対策の取組を進めている。
同県の取組を調査し、本県の少子化対策の推進のための施策の参考とする。

【調査内容】

沖縄県における少子化対策は、①合計特殊出生率が全国一高い、②島しょ県である、という2つの特徴を踏まえる必要がある。合計特殊出生率が高い理由は、よく分かってはいないが、10歳代の婚姻率が高い(沖縄県6.6%、全国3.4%)ことや、10歳代の出産の割合も高い(沖縄県2.6%、全国1.3%)ことが関係していると考えられる。子供を3人以上出産する人の割合が高い(第3子:沖縄県19.2%、全国13.3%、第4子:沖縄県11.0%、全国3.6%)ことも関係している。しかし、女性の平均初婚年齢は、29歳と全国で15番目に若いということで、それほど若くして結婚しているわけではない。島しょ部(多良間村)で行われた学術調査では、多産の要因として、①夫若しくは近所の人の協力があり職・住が近接している、②食材を近所などからもらえるなどの生活費の安さ、③安心・安全な環境、④住民の価値観(子供を多く持つことが幸せである)を指摘しており、地域に共助の精神が残っていることが伺える。
また、沖縄本島以外の39の有人離島に県人口の9%が住んでいる。少子化対策にとって、この離島人口の維持、増加も大きな課題である。地域ごとに抱えている課題が異なるため、少子化対策は難しい。離島によっては高校さえないところもある。
同県では、子育て環境について、貧困問題と待機児童という大きな2つの問題を抱えている。子供の貧困率の実態調査では、29.9%と全国平均の約1.8倍となっている。母子世帯も全国平均の2倍と多い。また、待機児童については、待機率は6.3%と全国1位となっている。これらに対して、子供の貧困のための独自の基金として一般財源から30億円の基金を設置したほか、待機児童の解消についても別途一般財源から30億円を積み立てた基金を設置し、市町村と連携して取り組んでいる。
同県でも未婚化・晩婚化の進行により、全国的な傾向と同様に合計特殊出生率は下がってきている。具体的な少子化対策としては、県民機運の醸成を図るため、少子化対策の必要性を周知するテレビ番組を平成26年度から平成27年度にかけて継続的に放映した。平成28年度には、①出会いを支援する側の体制づくり、②一般県民への出会いの応援の機運醸成、③その受け皿となるポータルサイトの開設、という3つを組み合わせた立体的プロモーションを展開している。
また、同県単独だけではなく、九州・山口地域の各県知事で構成される九州地域戦略会議の下に置かれた4プロジェクトチームの1つである「出産等の希望が叶う社会づくりプロジェクトチーム」に参画している。昨年1月に第1回目の会議を開いて今年度実際の事業をスタートさせ、広域婚活支援、九州・山口出会い応援プロジェクト(婚活イベント情報の相互リンク、メールマガジンによる情報発信)、結婚・子育てポジティブキャンペーンプロジェクト(共通のコンテンツ作成による広報)を行っている。
概要説明の後、多子世帯に対する直接的な手当支給の有無、婚活イベントでの効果検証の方法、10歳代の婚姻率が高い理由などについて委員から活発な質問が行われた。
以上の取組を調査できたことは、本県の少子化対策に係る施策の充実を図る上で大変参考となるものであった。

(4)沖縄県立総合精神保健福祉センター

(精神保健の取組について)

【調査目的】

沖縄県立総合精神保健福祉センターは、精神保健及び精神障害者福祉に関する法律及び沖縄県条例に基づき、精神保健の向上及び精神障害者の福祉の増進を図るための機関として設置されている。同センターでは、時代の要請に応えるべく、「1うつ病・自殺予防対策事業」、「2 ひきこもり対策事業」、「3 精神障害者地域移行促進特別対策事業」を3大重点事業として取り組んでいる。特に「うつ病対策」では、平成17年8月から、全国で初めて慢性のうつ病に特化した「うつ病デイケア」をスタートさせ、認知行動療法を取り入れた治療を行っている。
同センターの取組を調査し、本県の精神保健の推進ための施策の参考とする。

【調査内容】

沖縄県立総合精神保健福祉センターは、昭和44年1月に(財)沖縄精神衛生協会により「沖縄精神衛生相談所、メンタル・クリニック」として開設され、同協会から県へ無償移管された施設が元となり、その後、現在地に移転・名称を変更し、現在に至っている。
同センターは、平成17年8月に全国で初めて「うつ病デイケア」をスタートさせたことで全国的に知られている。うつ病デイケアは、慢性のうつ病と診断され、長期にわたって生活障害を伴う方に対して、職場や家庭復帰等の自立と社会参加及び生活の質の向上を図ることを目的として作業療法と認知行動療法を組み合わせた診療を行うものである。3か月を1クールとし、年3回、定員は20人までとして実施してきた。これまでに合計32期の治療を行い、延べ受診者数は新規が316人、継続が348人で合計664人である。デイケアの活動内容は、午前に作業療法(陶芸、革細工、料理などの創作活動又はスポーツ)で体を動かし、午後に講習とグループミーティング(ホームワークの発表等)といった認知行動療法を行う。同センターにおける認知行動療法の基本的な考え方は、次の3つである。①人は今までの経験から学び取った「パターン」で考え、行動し、感じている。②考え(認知)、行動、気分の3つはお互いに影響しあっている。③考えや行動がどのように気分に影響しているかを知り、考えや行動を修正することで、気分を回復することができる。
受診後の状況調査では、就労について受診終了時に就労中11%、休職中43%、無職43%、主婦・夫3%だったものが、その後、就労中58%、求職中7%、休職中4%、無職15%、主婦・夫8%、就労訓練中8%と復職への大幅な改善が見られ、慢性うつ病の回復に精神科作業療法と集団認知行動療法を組み合わせたうつ病デイケアの有効性を示すものであった。また、うつ病デイケアについては、医師、臨床心理士、保健師、精神保健福祉士といった医療関係者の見学を多く受け入れてきた。同センターにおけるうつ病デイケアは、主として担当していた前所長が平成28年3月で退職したこともあり、平成28年6月で終了したが、現在は、県内の3つの民間医療機関で展開されているとのことだった。
同センターでは、ほかにもDPAT(災害派遣精神医療チーム)体制整備事業、相談事業、各種研修会の開催、普及啓発・技術援助など多くの事業を行っているが、新たに平成28年10月にセンター内に「ひきこもり専門支援センター」を開設予定で準備を進めているとのことであった。
概要説明の後、認知行動療法を行っている場合の投薬治療、現在うつ病デイケアを行っている施設、うつ病デイケアの医療保険の適用などについて委員から活発な質問が行われた。その後、同センター内の視察をした。
以上のような同センターの取組を視察できたことは、本県の精神保健に係る施策の充実を図る上で、大変参考となるものであった。

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