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掲載日:2023年5月23日
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平成28年2月4日(木)~5日(金)
(1) (独)国立病院機構久里浜医療センター(横須賀市)
(2) 障害児保育園ヘレン(杉並区)
(3) 国立研究開発法人国立成育医療研究センター(世田谷区)
(ネット依存の治療について)
(独)国立病院機構久里浜医療センターは、平成23年7月に国内で初めてネット依存治療研究部門(TIAR: Treatment ofInternet Addiction and Research)を開設し、認知行動療法を中心とした治療を開始した医療機関である。
ネット依存が疑われる患者は国内に270万人以上と言われているが、同センターは、長年の依存症治療で培った専門性をネット依存の治療に活用して患者の治療や家族のカウンセリングに取り組んでいる。通院患者を対象に、オンライン上ではなくリアルの世界で自分の在るべき姿を見つける認知行動療法を行うほか、6週間から8週間程度かけて運動・睡眠・栄養・対人関係等の指導を組み合わせて行う入院治療も実施している。
同センターにおけるネット依存治療の取組を調査することで、本県におけるネット依存治療の充実や患者・家族の支援に係る施策の参考とする。
久里浜医療センターは、昭和38年に日本で初めてアルコール依存症専門病棟を設立し、「久里浜方式」と呼ばれる患者の自主性を尊重した治療を行っている。平成元年には、WHO(世界保健機関)から日本で唯一のアルコール関連問題の施設として指定されている。アルコール依存症のほかに、うつ病や統合失調症などの精神疾患を対象とした入院設備もあり、現在では4つの病棟で治療を行っている。病棟は東京ドームの3倍という広大な敷地の中にあり、自然に恵まれた最適な環境の中で治療を受けることができる。
同センターは、長年の依存症治療で培った専門性を生かし、国内で初めてネット依存治療研究部門(TIAR)を開設し、認知行動療法を中心とした治療を開始した。ネット依存外来の診察日は週2日であり、新規患者だけで毎月10数人が受診している。受診者の7割から8割は親に連れられてくる中高校生であり、オンラインゲームに1日の大半を使ってしまい、学校に通うことができなくなっている子供が多い。心配した親が、子供を引きずり出すようにして連れて来院することが典型例であるという。治療の柱は動機付け面接と認知行動療法であり、今の状態に問題があることを本人に認識してもらうことに主眼を置いている。治療開始当初は、自らがネット依存であると認識している子供はまれであり、親に無理やり連れてこられた抵抗感から、医師とのコミュニケーションもままならないことが多いというが、本格的な治療に入る前に3~5回程度の体や心の検査を行い、低栄養や腰痛、睡眠障害などの問題が生じていることを意識付けることで、前向きな治療につなげているとのことであった。治療開始後は、1日間をネットなしで過ごす日帰り治療や入院治療を組み合わせて実施しているが、効果的な療法は、数人のグループでお互いの状況を客観的に確認したりネット依存の問題点を話し合う集団認知行動療法や、リアルの世界で自分の在るべき姿を見つけるように促す新アイデンティティプログラムであるという。
また、ネット依存の治療が必要になる前に地域や学校で取組を進めるために、医学的見地と教育的見地を包括した対策として、学校での教育教材の製作や教育プログラムの開発にも携わっているとのことであった。
概要説明の後、委員から活発な質疑が行われた。その中で、「ほかの依存と同様にネット依存には再発の可能性はあるのか」との質疑に対して、「臨床例が少なく、今後の研究課題である。ほかの依存症との共通点が多く再発のリスクがあるため、WHOとの共同研究を進めている」との回答があった。また、「ネット依存治療に取り組む医療機関を増やすためにどのような課題があるのか」との質疑に対して、「ネット依存は国際的には病気と認められておらず、診断や治療のガイドラインが整備されていないことが課題である。なお、国際的な基準作りにも積極的に関与している」との回答があった。
同センターの取組を視察できたことは、本県におけるネット依存治療や患者・家族の支援に係る施策の充実に大変参考となるものであった。
(独)国立病院機構久里浜医療センターにて
(障害児保育について)
障害児保育園ヘレンは、病児保育をテーマとし、テレビドラマ化された「37.5℃の涙」(椎名チカ著)のモデルとなった特定非営利活動法人フローレンスが運営する、障害児が長時間利用可能な日本初の施設(児童発達支援事業所)である。
障害のある子供が長時間利用できる施設がほとんどない中で、長時間の保育を可能としており、障害児を持つ親が働くことを選択できる社会の実現に貢献している。医療的ケアを必要とする子供の保育にも対応できるようにするため、多職種のスタッフがチームを組んで対応する体制を整備している。また、障害を持つ子供の自立と発達を促す療育プログラムを取り入れ、子供自身が成長する喜びや自信を実感できるよう支援している。
同園における障害児保育の取組を調査することで、本県における子育て支援の充実に係る施策の参考とする。
障害児保育園ヘレンを運営する特定非営利活動法人フローレンスは、「誰もが子育てと仕事を両立できる社会」の実現を目指し、病児保育や障害児保育などを中心に保育サービスを提供している。同法人では、平成17年に日本初の取組であった自宅訪問型病児保育を開始した。サービス開始後も、病児保育中の自宅に医師が無料で往診し、処方箋を発行するなどのパイオニア的な取組を進めている。これらの取組が評価され、これまでに、経済産業省「ソーシャルビジネス55選」などの選定、内閣府「女性のチャレンジ支援賞」、日本経済新聞社「日経ソーシャルイニシアチブ大賞」などを受賞し、各所で高い評価を得ている。また、平成22年から待機児童問題解決のために小規模保育事業を開始し、空き住戸を保育園の園舎として使った「おうち保育園」を14園開設しており、待機児童問題に低コストで対応できるビジネスモデルが、政府の待機児童政策にも採用されているという。
同法人が障害児保育園を開設した理由は、障害児の親の大多数が就労を希望しているにもかかわらず、ほとんどが就業できていないという社会問題を解決するためであったという。同法人によれば、健常児の母親の常勤雇用率が34%であるのに対し、障害児の母親の常勤雇用率は約7分の1、5%にとどまるという。障害を持つ子どもや医療的ケアが必要な子供の育児に当たっては経済的な負担が大きいため、親が仕事に就きやすい環境を整えることが欠かせない。一方で、子供を預けられないため、就労を希望しながらも働けない親が多い。障害がある子供を長時間預かり、さらに医療的ケアに対応できるようにするため、同法人は全国初の障害児専門の保育園としてヘレンを開設した。
同園の大きな特徴は、保育時間が8時から18時30分までであり、長時間利用ができることである。既存の施設では、これまで障害のある子が長時間利用できる施設がなかったが、長時間利用することで親が働くことを選択できるようにしている。また、医療的ケアを必要とする子供の保育にも対応できるようにするため、看護師、作業療法士、研修を受けた保育スタッフがチームを組んで対応する体制を整備している。保育プログラムでは、地域の保育園や小学校との交流、学生ボランティアとの異年齢交流などを取り入れた「ムーブメント療育」と言われる手法を取り入れ、子供自身が成長する喜びや自信を実感できるよう支援している。
概要説明の後、委員から活発な質疑が行われた。その中で、「利用料金はどの程度か」との質疑に対して、「杉並区の助成制度などを活用すれば、負担額は一般的な保育所と同程度の月額3万円から4万円程度である。保護者からは、仕事が続けられたとの感謝の声を多く頂いている」との回答があった。また、「国に対応を求めることはあるか」との質疑に対して、「重症心身障害児は『大島分類』によるIQと運動機能の2軸で判定されるが、運動ができても医療的ケアのため看護師の配置が必要な子供が多いため、医療依存度も判定要素に加え、支援を拡充してもらいたい」との回答があった。
同園の障害児保育の取組を視察できたことは、本県における子育て支援に係る施策を充実していく上で、大変参考となるものであった。
(小児医療の充実について)
国立研究開発法人国立成育医療研究センターは、病院部門と研究部門が連携して小児医療、母性・父性医療等を提供する高度専門医療機関である。
研究部門では、再生医療等を中心とした研究では優れた実績を挙げている。病院部門では、全国の関連する小児医療機関とネットワークを構築する「子どもの心の診療ネットワーク事業」などの特色ある取組を行っている。また、平成28年4月から、重症小児患者の短期滞在施設であり、子供のためのホスピスとしての役割も持つ「もみじの家」が開設予定であるなど、子供と家族を支える先進的な取組も進めている。
同センターにおける小児医療の特徴ある取組を視察することで、本県における小児医療の充実に係る施策の参考とする。
国立成育医療研究センターは、国立がん研究センターなどと並ぶナショナルセンターのひとつであり、受精・妊娠に始まり、胎児期、新生児期、乳児期、学童期、思春期を経て、次世代を育成する成人期へと至るまでのライフサイクルに生じる疾患の医療と研究を推進するために設立された機関である。医療と医学研究とはお互いを補う存在であるとの理念から、病院と研究所が密接に協力して運営されている。
研究部門では、再生医療等を中心とした研究を行っており、京都大学に次ぐ国内2番目のヒトES細胞樹立機関としての認定を受け、小児の先天的な疾患に対してES細胞やiPS細胞を移植する治療の研究などでは優れた実績を挙げている。病院部門では、全国の関連する小児医療機関とネットワークを構築する「子どもの心の診療ネットワーク事業」を行っている。この事業では、同センターが19道府県29施設のネットワークの中央拠点病院としての役割を担い、人材育成や技術的支援を行っている。東日本大震災時には、子供の心の診療支援として専門家を派遣したとのことであった。今後は、発達障害への対応の拡大や思春期から成人期までを見据えた支援を検討していくということであった。病院部門では、ほかにも、在宅医療が必要な小児が地域で安心して療養できるように福祉サービスと連携する「小児等在宅医療連携拠点事業」などの特色ある取組を行っている。
また、同センターでは、平成28年4月から、重症小児患者の短期滞在施設であり、日本初の子供ホスピスとしての役割も持つ「もみじの家」を開設する予定である。日本では、小児医療の進歩により救命率が向上した一方で、常時医療ケアの必要な小児の数が増え続けている。一部の子供は、急性期の治療が終了した後も、人工呼吸管理や中心静脈栄養などの医療ケアが常時必要になっており、こうした子供の数は、同センターだけで100人を超えているという。「もみじの家」では、短期間子供を受け入れ、家族は自由な時間や兄弟・姉妹との時間、そして休息を取ることができる。また、施設で預かった子供は、同世代の子供たちと遊んだり学んだりと、普段自宅ではなかなかできないことをして過ごすことができる。「もみじの家」は、限りのある命を穏やかに過ごすための子供ホスピスとしての役割も持つが、公的機関としてこのような施設の運営に取り組むことで、「今、日本の小児医療の現場で何が起きているのか」を世に問いかけていくとのことであった。
概要説明の後、ヒトES細胞の研究を行っている「幹細胞・生殖学研究室」や、「もみじの家」を見学した。「幹細胞・生殖学研究室」では、ヒトES細胞の樹立過程や安全で質の高い細胞移植に向けた取組について説明を受けた。また、「もみじの家」は、開設前であり内装工事中であったが、施設内を見学し、施設の概要や利用料金、運営に必要なスタッフやボランティアの募集状況等について説明を受けた。
同センターの小児医療の最前線の取組を調査できたことは、本県の小児医療に係る施策の充実を図る上で大変参考となるものであった。
国立研究開発法人国立成育医療研究センターにて
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