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掲載日:2023年5月23日
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平成27年8月25日(火)~27日(木)
(1) 福祉のまちづくり研究所(神戸市)
(2) (公社)チャンス・フォー・チルドレン(西宮市)
(3) チャイルド・ケモ・ハウス(神戸市)
(4) (公財)加古川総合保健センター(加古川市)
(5) 特定非営利活動法人岡山自立支援センター(岡山市)
(ノーマライゼーション社会の実現に向けた取組について)
福祉のまちづくり研究所は、兵庫県が全国に先駆けて制定した「福祉のまちづくり条例」の理念をもとに、兵庫県立総合リハビリテーションセンター内に設置された研究施設である。
同研究所では、ノーマライゼーション社会の実現に向け、工学的な見地から実践的な研究を行っており、義肢装具、リハビリテーション支援装置、介護ロボット等の分野では国内でも先進的な研究に取り組んでいる。ほかにも、人が使う道具やコミュニケーション手段、交通機関、街づくりなどの幅広い分野で研究開発を行い、企業・大学等との共同研究や政策提言にも積極的に取り組んでいる。
同県における福祉の研究拠点としての同研究所の取組を参考とすることで、本県の福祉の充実に係る施策の参考とする。
福祉のまちづくり研究所は、兵庫県立総合リハビリテーションセンター内に設置され、臨床の現場と連携することで現場のニーズを迅速かつ的確に捉えて研究開発を行うとともに、試作品を現場ですぐに試用し、結果をフィードバックしている。このように、同研究所では、工学的な研究と臨床現場のニーズを双方向で情報を共有することにより、医学と工学を結び付けた医工連携を行っていることが大きな特徴である。このような仕組みがあることから、多くの企業や大学との共同研究や、政策提言に結び付いているとのことであった。また、同研究所を中心とする医学と工学の融合は、経済産業省が主催する「ロボット大賞」で審査員特別賞を受賞しており、同賞において技術そのものではなく、技術を活用・発展する仕組みが表彰されたのは同研究所の取組が初めてとのことであった。
同研究所は、隣接する兵庫県立リハビリテーション中央病院と合わせて「ロボットリハビリテーションセンター」と総称されており、医工連携の仕組みにより運動器に障害がある方への効果的なリハビリテーションを行っている。同センターでは、下肢切断の方に対して提供しているコンピューター制御義足を世界で初めて実用化したという。また、小児向けの筋電義手(筋肉の電気信号で動く義手)によるリハビリテーションの件数が日本随一であり、来年度には先進的な取組事例のマニュアル化や映像配信を行っていくとのことであった。
また、小児向けの筋電義手は訓練だけで約150万円がかかり、障害児とその家族の大きな負担となっていたが、今後の普及を図るために、昨年、兵庫県とのマッチングファンド形式による「小児筋電義手バンク」を設立した。このバンクでは、寄附金額と同額を兵庫県が支援することとなっており、今までに寄附金だけで6,000万円以上が集まったという。
ほかにも、同研究所では、保健医療福祉従事者に向けての技術研修や、福祉関連事業所運営に必要とされる人材育成研究、福祉用具普及事業を実施するなど、兵庫県の研究・研修拠点としての役割を担っている。
概要説明の後、委員から活発な質疑が行われた。その中で、「大学との連携はどうなっているか」との質疑に対しては、「民間の研究機関に比べ、人材や資金は不足しているが、医工連携によるニーズ把握と発想力は民間に勝っている。ニーズや発想を共有することで大学と連携している。また、人材の不足は大学との人材交流を積極的に行うことで補っている」との回答があった。
以上のような同研究所の取組を視察できたことは、本県の福祉の充実に係る施策を実施していく上で、大変参考となるものであった。
(子供の貧困問題への対応について)
(公社)チャンス・フォー・チルドレンは、主に経済的な理由によって教育を十分に受けられない子供とその家族を支援し、貧困の連鎖を断ち切るための支援を行っている。同法人の主な事業は教育バウチャーの発行であり、地方自治体と協働し、教育バウチャーの提供を通じて貧困世帯の子供に教育の機会を提供している。また、東日本大震災によって教育の機会を奪われてしまった子供たちの支援にも積極的に取り組んでいる。
本県においても、子供の貧困対策として学習支援に取り組んでいるところであるが、同法人の取組を参考とすることで、本県の子供の貧困の連鎖を断ち切るための施策の参考とする。
(公社)チャンス・フォー・チルドレンは、阪神・淡路大震災で被災した子供たちに対し、ボランティア家庭教師を派遣する活動やキャンプの実施などの支援を行ってきたNPO団体を母体として平成23年に発足した。同法人が行う主な事業は、経済的な理由で学校外教育を受けることができない子供たちに対する教育バウチャーの提供である。主に企業や個人からの寄附金を原資とし、同法人が子供に教育バウチャー(塾や習い事に通うことができるクーポン券)を配布し、子供は教育バウチャーを使用することで、同法人と提携する学習塾や習い事教室の中から好きな教育を選んで受けることができる仕組みである。現金給付ではなく教育バウチャーを提供することで、教育以外の用途に使用されることがなく、確実に教育機会を提供することにつながることを狙いとしているとのことであった。また、バウチャーには有効期限を設けているため、貯蓄に回されず、バウチャーの大半が実際に使用されているという。
同法人が発行する教育バウチャーの大きな特徴は、利用対象サービスが学習塾や予備校だけに限られないことである。同法人は、スポーツ、文化活動、野外体験活動などの幅広い教育提供事業者と提携しており、子供は幅広い習い事から好きなものを選択できる。これにより、一人一人のニーズに合わせた支援が可能になるとともに、選択の幅が広がることで教育バウチャーの利用の促進につながっているという。
また、大学生ボランティアが月に一度、電話や面談を通して学習や進路の相談にのる「ブラザー・シスター制度」を導入していることも特徴である。子供たちと年齢の近い大学生が、子供に寄り添いながらバウチャーの利用に関するアドバイスを行うことで、利用を促進している。
同法人は、子供の貧困問題を解決するため、各地域で地方自治体と協働して学校外教育バウチャー事業を行っている。平成24年からは、初めての試みとして、大阪市と協働して「大阪市塾代助成事業(バウチャーにより塾代を助成する事業)」の運営を、凸版印刷株式会社との協働により実施している。この事業では、大阪市が公的資金により教育バウチャーを発行し、同法人がそのノウハウを活用して教育事業者の募集や選定等の運営業務を行っているとのことであった。
概要説明の後、委員から活発な質疑が行われた。教育バウチャーの不正使用防止については「教育提供事業者には必ず訪問調査を行い、適正な事業者のみと提携している。また、『大阪市塾代助成事業』では、教育バウチャーとして写真や氏名入りのICカードを交付しており、本人しか使用できないようにしている」との回答があった。また、学習意欲を高める工夫については「親も子供も意欲が低い状況で教育バウチャーを発行しても利用率が低いので、生活支援などの総合的なサポートを通じて長期的な関わりを持ち、大学生ボランティアが相談に対応することにつなげて意欲を高めるようにしている」との回答があった。
以上のような子供の貧困問題への取組を視察できたことは、本県にとって大変参考となるものであった。
(小児がんの子供と家族の支援について)
チャイルド・ケモ・ハウスは、小児がんの子供とその家族の生活の質(Quality of Life)に配慮した、日本で初めての小児がん専門治療施設である。小児がんの子供たちが、自宅のような環境で、家族と共に過ごしながら治療を受けられることを理想としている。通常半年以上の入院が必要とされる小児がんの子供たちが、家族が寄り添いながら自宅のような環境で安心して治療が受けられるという理想の環境を提供しているという。
同施設の取組を参考とすることで、本県の小児がん治療の充実に係る施策の参考とする。
チャイルド・ケモ・ハウスにて
チャイルド・ケモ・ハウスは、「がんになっても笑顔で育つ!」をスローガンに、小児がんの子供の家族、看護師、保育士、建築家など多様な関係者が理想の施設を作るために意見を出し合い設立された、日本で初めての小児がん専門治療施設である。小児がんの子供たちが「自分の家」のような環境で家族と共に暮らしながら化学療法(抗がん剤治療)を受けられることを理想としており、病室内には、付添いの家族のための寝室はもちろんのこと、料理できるキッチン、疲れたときにゴロゴロできる場所、つらいときに泣くことができる部屋、兄弟と遊べる空間などが用意されている。子供たちが家族と共に自宅のように過ごすことができることを最も重視しているということであった。家族は24時間滞在が可能であり、子供と寝食を共にできる。また、病室への入り口は2か所あり、病院内から、もう一つは病院外から直接病室に入ることができるようになっている。これは、仕事で帰りが遅くなる親や見舞客のための入り口で、子供にとっても、自分の家のように気兼ねなく「おかえり」、「いらっしゃい」と言えるようにしているとのことであった。
運用面では、貧血や感染症などになりやすい小児がんの子供の遊びを一律に制限するのではなく、十分に注意をしながらも、一人一人の状況に合わせて兄弟や他の子供と遊んだり勉強したりする空間を設けて見守っている。また、中高生などの思春期の子供に対して年齢が近い大学生ボランティア等を話し相手とするなど、子供が安心して過ごせる生活の場を提供している。また、退院後のアフターフォローにも注力しているとのことであった。
同施設はNPO法人が運営しており、寄附金が主な資金源となっている。募金箱設置の呼び掛けや、売上げの一部が寄附される自動販売機の設置を進めているほか、チャリティTシャツを販売するなど、賛同者を増やす努力を継続的に実施している。このTシャツを着用して神戸の名所を巡るチャリティーウォークは毎年開催され、恒例行事となっているとのことであった。
概要説明の後、委員からは活発な質疑が行われた。その中で、退院後のアフターフォローの取組については「退院直後は、体力の低下した子供が地域や学校に溶け込むことができないため、家族が地域で孤立することがないよう生活相談を受けている。また、思春期の子供に対するメンタルケアや、家族が集まって話をする機会を設けるなどの取組をしている」との回答があった。また、行政に期待することについては「小児がんの子供のうち7割以上は病を乗り越えて社会に出ていくが、後遺症や体力の低下から就職が難しい子供もいる。そのため、就労支援の仕組みがあればよい」との回答があった。
以上の取組を調査できたことは、本県の小児がん治療に係る施策の充実を図る上で大変参考となるものであった。
(医療情報を共有する仕組みづくりについて)
(公財)加古川総合保健センターは、加古川市とその近隣町の地域住民の健康情報や医療情報を一元管理する「地域保健医療情報システム」を全国に先駆けて構築し、現在では、16万人以上の地域住民の情報が蓄積され、120を超える医療機関が同システムを活用している。医療機関が住民の医療情報を共有することで、いつでも、どこでも、誰でもが、良質な保健医療福祉サービスを受けられる体制を構築している。本年1月には、健康診断の拠点である「ウェルネージかこがわ」をオープンし、コンビニ感覚で気軽に血液検査等が受けられる「駅チカLABO」などの独自の取組を開始した。
本県においても、「とねっと(埼玉利根保健医療圏地域医療ネットワークシステム)」等の医療情報を共有する仕組みも活用されているところであるが、同法人の先進的な取組を視察することで、本県の医療情報の共有と活用に係る施策の参考とする。
加古川総合保健センターにて
(公財)加古川総合保健センターは、地域の健康を支えることを経営理念とし、加古川市とその近隣町の地域住民の健康診断結果の情報、医療機関を受診した際の病名や薬の情報などの個人情報をデータベースで一元化して管理する「加古川地域保健医療情報システム」を、全国に先駆けて昭和63年に構築した。同システムの利用を希望する住民には、「KINDカード」といわれるICカードが無料で発行されている。加古川市を含む1市2町の人口は約33万人で、そのうち約5万5千人が同システムを利用している。ICカードには健康情報や医療情報が登録されており、掛かり付け医以外の医療機関を受診した場合でも、カードに書き込まれた情報を読み取ることで適切な治療を受けることができる。いわば、「KINDカード」が携帯用のカルテとして機能しているということであった。
また、同法人は、平成20年4月に開始された特定健診・特定保健指導により生活習慣病への予防が注目されるようになると、システムを拡張し、日々の健康づくりの記録や生活習慣病予防の動機付けに活用する「かこがわ健康BOX」の提供を開始した。「かこがわ健康BOX」では、住民自らがインターネットで健康管理ができる。今までは医療機関に出向かなければ確認できなかった健康診断のデータがインターネットで確認できるだけでなく、日々測定した健康情報(身長、体重、血圧など)を入力すると、健康診断の結果や医療機関での診療情報に基づき、注意すべき生活習慣病とそれを予防するための行動計画がインターネット上に表示される。行動計画に基づいて目標設定を行うことで、継続的な健康管理や健康維持の動機付けにつながっているという。
このほか、同法人は、人間ドックやがん検診などの各種検診を実施している。今年1月にオープンした新館「ウェルネージかこがわ」は、より多くの住民の健康を支援するため、西日本最大級の検診フロアや女性専用のフロアを設け、最新の検査機器を導入するなど、多様なニーズに応える健診施設である。駅前という立地条件を生かし、コンビニ感覚で気軽に血液検査等が受けられ、簡単に健康状態がチェックできる「駅チカLABO」という新サービスを開始している。
概要説明の後、委員から活発な質疑が行われた。その中で、「システム未利用者はどのような理由で利用していないのか」との質疑に対しては、「健康に不安のない方や掛かり付け医療機関が一つの方はシステムを利用しない場合が多い。生活習慣病予防の動機付けの機能拡張を行ったので、健康診断を受診した際にシステムの案内もしている」との回答があった。また、「蓄積したデータをビッグデータとして活用しているか」との質疑に対しては、「医療関係者が、糖尿病などの慢性疾患の地域特性を分析し、論文作成に活用している例がある」との回答があった。
以上のような同法人の取組を視察できたことは、本県の医療情報の共有と活用に係る施策の充実を図る上で、大変参考となるものであった。
(障害者の農業参入促進について)
特定非営利活動法人岡山自立支援センターは、障害者の経済的・社会的自立支援のため、職業能力の開発に力を入れており、特に農業分野の職業能力開発に重点を置いた支援に取り組んでいる。「農業生産法人㈲岡山県農商」から委託を受け、約70人の障害者が、青ねぎ、ミニトマト等を生産している。これらの野菜は「桃太郎ねぎ」、「きびトマト」などのブランド野菜として販売されており、付加価値が高いことから、多くの障害者に就労の場を提供し、障害者の経済的自立につながっている。
本県においても、昨年度から障害者の農業参入を進める事業を行っているため、施策の更なる充実のために、同法人の先進的な取組を参考とする。
特定非営利活動法人岡山自立支援センターは、平成20年10月に設立され、現在は岡山県内に4つの事業所を運営している。これらの事業所は就労継続支援A型事業所であり、障害者の経済的・社会的自立支援のため、特に農業分野の職業能力の開発に力を入れており、「農業生産法人㈲岡山県農商」と連携し、「桃太郎ねぎ」、「きびトマト」などのブランド野菜を中心に、年間に20~30種類の季節野菜を生産している。現在、おおよそ70人の障害者が8haの畑地で汗を流している。そして、農業体験で自立できる力を身に付けた多くの障害者が、一般就労につながっているという。
障害者に対し農業参入を促進する取組は、同法人と「農業生産法人㈲岡山県農商」との二人三脚で進められている。障害者雇用を増やすポイントは、できるだけ障害者が同一作業を行うなどの工夫をすることで生産性を高め、生産規模を拡大することと、農産物のブランド化などにより付加価値を高め、雇用の場を積極的に増やす努力を継続することであるという。事業所のねぎの加工ラインに掲示されていた「一本のねぎは会社の礎、ねぎなくしては仕事なし、仕事なくしては雇用なし」という標語は、このことをよく表していた。
同法人が生産する「桃太郎ねぎ」は中国地方ではブランド野菜として認知されており、日量500kg以上を中国地方や近畿地方のスーパーを中心に出荷している。生産だけでなく、加工、出荷(配達)までを行うことで作業効率を高めるとともに、カット加工をすることで付加価値を高めている。また、「きびトマト」は、ねぎに比べて日持ちすることから関東地方を中心に出荷しており、農協や卸売業者を極力通さずに高級百貨店や高級スーパーと直接取引を行っていた。これにより、中間マージンがなくなり利益が確保できるとのことであった。同法人は、こうした取組により多くの障害者に就労の場を提供して、障害者の経済的自立につなげている。
概要説明の後、委員から活発な質疑が行われた。その中で、「同法人の取組をほかの法人に広げる取組を行っているか」との質問に対して、「他県で同様の取組を行っている法人との連絡協議会の設置や、農林水産省中国四国農政局が設立した岡山地域農業の障害者雇用促進ネットワークへの参加を行っている。これらを通じ、業績が安定している法人には積極的に障害者雇用を勧めている」との回答があった。
以上のような同法人の取組を視察できたことは、本県における障害者の農業参入の促進に係る施策を実施していく上で、大変参考となるものであった。
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