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掲載日:2023年5月23日
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平成28年8月1日(月)~3日(水)
(1) 国立大学法人帯広畜産大学(帯広市)
(2) 鹿追町環境保全センター(北海道鹿追町)
(3) 農業生産法人㈲北海道ホープランド(北海道幕別町)
(4) 釧路湿原(釧路市)
(6次産業化の教育・研究について)
国立大学法人帯広畜産大学は、国内唯一の国立農学系単科大学で、獣医学、農畜産学、生殖生物学、原虫病学において、世界レベルの研究を行っている。畜産学課程では、全国各地から集まった目的意識の高い学生に対し、「農場から食卓まで」をスローガンとして、生命・食料・環境を科学し、食品衛生も含めた農畜産の幅広い分野で活躍する専門職業人を養成する教育を行ってきた。平成24年度には食品加工実習施設が完成し、農場から消費者までの一連の過程を実践する実習を行っている。
同大学の取組を視察することで、本県における6次産業化に係る施策の参考とする。
国立大学法人帯広畜産大学は、昭和16年に創立された帯広高等獣医学校が、国立学校設置法によって、昭和24年に名称を改めて設立された。学生数は、大学院も含めて約1,400人である。同大学では、日本有数の食料基地であり、食料の生産から消費まで一貫した環境がある十勝地方に位置することを生かし、農学、畜産科学、獣医学に関する教育研究を推進し、「食を支え、くらしを守る」人材の育成を行っている。
食肉科学分野では、1年生全員を対象とした農畜産実習を行っている。実習では、家畜としての豚の飼育、と畜、解体、ソーセージの製造を行うことで、命の大切さを認識させる教育を行っている。2年生では、必修科目である食品製造学の授業があり、素材の特徴や製造方法を教えている。3年生では、食肉科学、肉製品加工学、食品衛生学、食品科学実習(基礎・応用)などの授業を行っている。実習は、平成24年度に完成した食品加工実習施設で行っている。同施設には、肉畜解体実習、肉製品加工実習を行うゾーンと乳製品の加工ゾーンがあり、様々な機械を使って、ベーコン・ハム・ソーセージやアイスクリームなどを製造する実習が行われている。なお、同施設は、食品衛生管理の国際基準(HACCP)に準拠しており、各作業エリアにはそれぞれ更衣洗浄室を備え、入室する際には、白衣と帽子を着用するなど、交差汚染の低減が図られている。
同大学では、教育や研究だけでなく、6次産業化に係る産学官連携活動にも力を入れており、関係省庁・地方公共団体、製造業者、農業生産者・生産者団体等との間で、受託研究、共同研究、技術指導などを行っている。また、社会貢献活動として、人材育成事業、帯広農業高校などとの高大連携事業、市民講座などの事業を行っている。人材育成事業では、新事業を目指す中核的人材を養成するため、座学は平日夜間に、実習は週末に行っており、幅広い年齢層が受講しているという。同事業の成果の例としては、十勝清水牛の大和煮の缶詰の開発が挙げられる。受講生から何か新商品を開発したいという相談を受けて、同大学、民間企業、農協で共同開発を行うことになった。牛肉の大和煮は加熱の際に硬くなってしまうので、どのように柔らかくするか等を研究するとともに、大手デパートの協力で試食を行って、消費者の意見を取り入れた。その結果、柔らかくておいしい缶詰ができあがり、同デパートの通販等で取り扱われているという。
概要説明の後、委員から活発な質疑が行われた。「大学外部の人が、食品加工実習施設で講習を受けたり、試作品を作る際の費用負担はどうなっているのか」との質問に対し、「本学の社会貢献室に講師依頼を提出すると、1万円の補助がある。原材料費などが補助額を超える場合は、利用者の負担となる」との回答があった。ほかにも、実習施設でのと畜方法などについても質疑が行われた。その後、食品加工実習施設の視察を行った。
今回視察先を調査できたことは、本県における6次産業化の取組を充実させるために大変参考となるものであった。
国立大学法人帯広畜産大学にて
(バイオガスの利用について)
鹿追町環境保全センターは、バイオガスプラント、堆肥化プラント、コンポスト化プラントの3つからなる地域資源循環型プラントで、乳牛糞尿の適切な処理、市街地周辺の環境改善、バイオマスの資源化を目的として建設された。バイオガスを燃焼して、バイオガスプラントの稼働に必要となる電気及び熱を得ており、余剰分は売電している。また、バイオガスを精製圧縮して、都市ガスと同等の品質のガスを製造し、ガスボンベに充てんすることで、多様な用途に使用することができる。また、バイオガスプラントの生産物の一つである発酵後の消化液は、高品質の有機質肥料として有効利用されるなど、地域資源循環型農業も行われている。
同センターの取組を視察することで、本県における再生エネルギー施策の参考とする。
鹿追町環境保全センターは、平成19年10月に稼働したバイオガスプラント、堆肥化プラント、コンポスト化プラントを中心とする施設であり、国内では数例しかない集中型プラントとして、高い評価を得ている。同町は農業と観光を基幹産業とする人口約6,000人の純農村地帯であるが、観光客が増加する中、市街地を中心に乳牛ふん尿の適正処理を望む声が高まってきた。その一方、畜産農家は、家畜排せつ物の適正処理に苦労しており、また、町としても生ごみや汚泥等のバイオマス資源化も課題となっていたことから、同センター建設の構想が作られた。同センターの1日当たりの処理量は、ふん尿が成牛換算で1,870頭分、生ごみ2トン、浄化槽汚泥1.57トンと国内でも有数の規模である。
バイオガスは、家畜排せつ物、生ごみ等のバイオマスをメタン菌などが嫌気性発酵することで発生する。同センターの平成27年のバイオガス発生量は、1日当たり4,246㎥で、およそ90%が発電に使用される。電気は施設内で2割使用し、残りの8割を北海道電力に売電している。以前は、施設内で使用する比率がもっと高かったが、FIT(固定価格買取制度)により、1kw当たり42円という有利な価格で売電できるようになったため、売電比率を制度上の上限まで引き上げたとのことである。
同センターでは、酪農家まで乳牛のふん尿を引き取りに行き、バイオガスプラントに運んで処理している。そのため、農場にはふん尿が堆積せず、衛生的な環境が保たれ、市街地の悪臭が大幅に改善されたという。また、バイオガスプラントで発酵処理を行った消化液、堆肥化プラント及びコンポスト化プラントで作られた堆肥は、安全で品質の安定した有機肥料であり、酪農家の飼料畑や畑作農家の畑に散布されることで、土壌の質の改善、化学肥料の削減、作物の品質向上につながっているとのことである。
また、同センターでは、バイオガス及び余剰熱の多角的利用を図っている。バイオガスは、精製圧縮を行ってメタン濃度を上げることで、都市ガスと同等の品質のガスを製造することができる。ガスボンベに充てんすれば、都市ガス用のガス機器が使用できるため、同町では、役場庁舎等の公共施設で利用しているほか、バイオガス自動車の燃料、育苗用ハウスの加温器に使用しているという。余剰熱の利用については、平成25年度にビニールハウスを設置してマンゴーの栽培を始め、今年の冬に出荷する予定である。また、平成26年度からは食肉と高級食材のキャビアを生産するため、チョウザメを飼育している。
同町では、民間企業が実施する「家畜ふん尿由来水素を活用した水素サプライチェーン実証事業」に協力しており、また、本年4月から、ふん尿処理量が同センターの約2.3倍である国内最大級のバイオガスプラントを稼働させるなど、今後もエネルギーの有効活用のためのシステム構築を目指していくとのことである。
概要説明の後、各施設を見学し、その中でプラント装置の概要などについて活発な質疑がなされた。
今回視察先を調査できたことは、今後の本県におけるバイオガス利用の取組を推進する上で、大変参考となるものであった。
(農業の競争力強化について)
農業生産法人㈲北海道ホープランドは、明治36年に幕別町に入植した農家が、昭和56年に法人化した会社である。同社はジャガイモや小麦を中心に、緑肥作物を含め5年の輪作体制を構築しており、化学肥料を減量し、農薬散布を極力抑え、安全な食材を提供している。また、同社では休閑地に放牧して育てた豚をブランド化している。さらに、観光農園のいちご園やネットショップを開設したり、自社でレストランを出店したりするなど、農産物の品質向上や生産拡大だけではなく、販路の拡大にも取り組んできた。
同社の取組を視察することで、本県における農業振興施策の参考とする。
農業生産法人㈲北海道ホープランドは、日本有数の農業地帯である十勝地方の幕別町で大規模農業を営んでいる。同社の耕地面積は、借地も含めて約120haである。同社では、消費者に直接農産物を販売するため、自社でレストランを出店したり、観光農園のいちご園やネットショップを開設したりしている。また、実需者である食品メーカーに小麦を直接納入するなど、農協だけに頼らない経営を目指している。
十勝地方では、過去に化学肥料を過剰投入して連作を続けたために、土地が疲弊して生産力が落ちていた。そのため、同社では、ジャガイモ、小麦、豆類に加え、アスパラガスやスイートコーン、ブロッコリーなどの野菜を5年体制の輪作で生産することで、土壌を改善して持続可能な農業を行っている。同社の先進的な取組としては、ドイツやイギリスで視察した有畜農業を参考にして、放牧養豚を輪作に組み込んだ点が挙げられる。豚を選んだ理由は、出産回数が年間2~3回で、1回に12~13頭出産するため、効率が良いからであるという。現在150頭ほどいる豚は、休閑地やパドックで放牧され、自社農場や農協でもらった野菜の規格外品、収穫後の畑に残った茎や根を食べている。豚は雪の積もる冬でも屋外にいるのを好むので、11月には購入した濃厚飼料も与え、皮下脂肪を蓄えさせている。冬の屋外の気温は氷点下であるが、同社の放牧豚は、狭い豚舎で飼育された豚と比べて、ストレスが少ないため、病気になりにくいという。放牧により、豚がふん尿を畑にまいてくれるので、化学肥料の使用を大幅に抑えることができ、安全で理想的な循環型農業を行うことができているとのことである。
養豚業者は通常、豚を約6か月間飼育して体重が100kgから120kg程になったら出荷するが、同社では、放牧豚を1年から2年かけて、体重200kg程度まで大きく育ててから出荷している。同社では、脂身がおいしいこの豚を「蝦夷豚」としてブランド化しており、通常の豚の2倍の値段で売れているという。
同社の一番の課題は、人材の確保である。十勝では、TPP(環太平洋パートナーシップ協定)の問題もあって、事業規模を大きくして生き残ろうと考える事業者が多い。しかし、同社の従業員数はパートを含めて12名しかおらず、少子高齢化のため、人手不足が続いている。一方、同社は約20年前からベトナムで技術支援を行っており、平成24年に、ホーチミンの約250km北にある町ダラットで設立した子会社「ホープランドベトナム」では、15名のベトナム人を雇用しているという。また、現在JICA(国際協力機構)を通じて、ベトナムから5人の研修生を受け入れているという。
概要説明の後、委員からは活発な質疑がなされた。「十勝の農地は埼玉と比べて広大であるが、高額な大型機械を導入して採算が合うのか」との質問に対し、「人手が少ないため、効率を考えると様々な大型機械を導入する必要がある。可能な限り質の良い中古品を探して購入しているが、欧米と違い、国産メーカーは一定の期間が経つと部品の供給をしなくなるという問題がある」との回答があった。概要説明の後、豚のパドック、大型機械の見学を行った。
農業生産法人㈲北海道ホープランドにて
今回視察先を調査できたことは、今後の本県における農業の競争力強化の施策を推進する上で、大変参考となるものであった。
(湿原の自然再生及び環境保全の啓発について)
釧路湿原は日本で最初のラムサール条約登録湿地であり、タンチョウやキタサンショウウオなど多様な野生生物の貴重なすみかとなっている。近年、湿原やその周辺地域の開発が進み、自然の推移をはるかに超える速さで湿原の消失や劣化が進んできた。そのため、環境省では、地元NPO、自治体、関係各省などと連携し、平成14年から本格的に釧路湿原の自然再生事業を開始した。また、自然再生の取組は、人為による悪影響を取り除く必要があるため、国、自治体、関係団体等により、環境保全の啓発活動も行われている。
同湿原における取組を視察することで、本県における自然再生等に係る施策の参考とする。
釧路湿原は、日本の湿原全体の約30%を占める日本最大の湿原である。同湿原は、多様な生き物の宝庫であり、約2,000種類の動植物が生息している。また、渡り鳥の繁殖地・越冬地・中継地でもある。
高度成長期以降、農地や住宅地の開発が盛んになり、同湿原の面積は、60年間で約2割減少した。農地開発では、水はけや形状の良い土地を作るため、河川の直線化を行った。その結果、湿原の乾燥化が進んで魚の種類及び個体数が減少し、川底がえぐられて川から湿原への土砂流入が進んだ。また、森林伐採や人工林への転換によって、周辺の丘陵部から湿原に土砂が流入した。さらに、周辺での住宅地開発により、生活排水が増加し、酪農の規模拡大により、家畜し尿の流入が増加した。その結果、湖沼の水質が悪化し、達古武湖では、アオコの発生やヒシの繁茂が起こり、ネムロコウホネなどの希少な水生植物が減少した。また、ウチダザリガニなどの外来種が湿原内で繁殖した影響で在来生物が減少するなど、湿原生態系のバランスが崩れてきた。
釧路湿原における自然保護については、昭和46年に北海道自然保護協会釧路支部が設立されて以降、無秩序な開発に歯止めをかける機運が高まった。昭和48年の釧路地方総合開発促進期成会の釧路湿原対策特別委員会による報告「釧路湿原の将来」では、開発と自然保護に関する基本原則として自然保護を優先することなどが定められたが、そのことが、昭和55年のラムサール条約湿地指定、昭和62年の国立公園指定につながったという。その後、平成7年に北海道が釧路湿原保全プランを策定し、平成11年に釧路湿原の河川環境保全に関する検討委員会が発足した。平成14年に自然再生推進法が公布され、同法に基づき平成15年に、釧路湿原自然再生協議会が発足し、釧路湿原の自然再生の取組が始まった。
同協議会においては、釧路湿原の目指すべき姿を「シマフクロウ・イトウなどの生きものが暮らし、人々に恵みを持続的にもたらしてくれる湿原」、「ラムサール条約登録前のような湿原環境」としている。そのための目標として、「湿原生態系の質的量的な回復(生物環境)」、「湿原生態系を維持する循環の再生(物理・化学環境)」、「湿原生態系と持続的に関われる社会づくり(社会・経済環境)」の3つを掲げ、施策として7分野で具体策を示している。現在までに、環境省をはじめとする省庁、地方自治体、NPO法人などにより、8つの実施計画が作成されて様々な取組が行われている。主な取組としては、直線化された釧路川の蛇行復元、土地の掘下げやハンノキ伐採などによる湿原再生、河道の安定化工事並びに沈砂池及び土砂調整池の設置による土砂流入防止、人工林を自然林に戻したり草地化した土地に植林する森林再生、流域からの栄養塩類の除去や繁茂したヒシの刈取りなどにより多様な水生植物等の生息環境の再生を目指す湖沼再生などが挙げられる。自然再生の取組は成果が出るまでに長い年月がかかるが、現在までの成果として、川の蛇行復元により、魚の種類及び個体数が増加し、湿原の植生も改善がみられるという。また、湖沼再生では、ネムロコウホネがやや増加傾向にあるという。
自然再生事業への住民参加のための取組としては、各種イベントの際にパネルや巨大航空写真、模型などを使った普及啓発や自然再生の現場見学会を行っている。また、「ワンダグリンダ・プロジェクト」事業では、住民が積極的に釧路湿原とつながる取組を募集している。同プロジェクトには、約60団体が参加しており、清掃活動・防除活動や環境教育だけではなく、地元の製菓会社による湿原まんじゅうの販売、マウンテンバイクの走行、キャンプ場でのコンサートなど年間約80件もの様々なイベントが行われているという。
概要説明の後、委員からは活発な質疑がなされた。その後、釧路市湿原展望台から、釧路湿原を視察した。
今回視察先を調査できたことは、今後の本県における自然再生の取組を推進する上で、大変参考となるものであった。
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