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掲載日:2023年5月31日
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令和2年1月30日(木曜日)~31日(金曜日)
(1) 社会福祉法人 伸こう福祉会・クロスハート 湘南台二番館(藤沢市)
(2) 一般社団法人 厚木ぐるっと(厚木市)
(高齢者の参加による地域活性化の取組について)
社会福祉法人伸こう福祉会では、平成29年度から、藤沢市内の介護付き有料老人ホーム「クロスハート湘南台二番館」に居住する高齢者を対象に、希望する人に仕事をしてもらうことで社会参加を促す「仕事付き高齢者向け住宅」事業を実施している。同事業は経済産業省のモデル事業として採択されたもので、要支援から要介護3までの高齢者の方々が、作業負担が少なくてすむ東レ建設の「トレファーム」を活用し、野菜の栽培や施設内軽作業を行っている。
本県においても、今後急激に高齢化が進行することにより生産年齢人口が減少していくが、一方で、収入面や生きがいのために、働きたいという高齢者のニーズが存在している。本県の地域活性化に向けた取組を検討する上で、同事業を参考にする。
横浜市に本部がある社会福祉法人伸こう福祉会は、神奈川県内で特別養護老人ホームや高齢者デイサービス、介護付き有料老人ホーム、高齢者グループホーム、訪問看護・介護事業などの高齢者に関わる施設・事業所を運営しているほか、障害者グループホーム、障害者就労支援事業、認可・認可外保育園、事業所内保育園などの福祉施設の運営等を幅広く手掛けている。
従業者数は1,126人、事業収入は57億6,200万円となっており、現在は「グループ内連携による包括的支援の実現」をテーマに中期経営計画を進めている。(数字は平成29年12月末現在)
同法人が藤沢市内で運営しているクロスハート湘南台二番館は、80室の居室を有する介護付き有料老人ホームである。同施設では「健康寿命延伸」を目標に「仕事付き高齢者向け住宅」事業に取り組んでいる。同事業は平成29年度と30年度に経済産業省の「健康寿命延伸産業創出推進事業」に採択されたものであり、要支援から要介護3までの高齢者の中から希望者を募り、東レ建設の「トレファーム」を用いた野菜の栽培や施設内軽作業を「仕事」として有償で行ってもらう取組である。
入居高齢者・入居検討高齢者の中には、要支援・要介護状態であっても「働きたい」「社会の役に立ちたい・立てる」という想いがあるが、それを生かせる環境が少ないことが課題であると感じていたとのことである。そこで、「初心者でも営農可能なトレファームでの野菜生産・販売活動」及び「施設内の業務切出しによるサービス活動」の2点を「仕事」として取り組むことで、健康寿命の延伸と経済的な安定の両面を目指すために事業を開始したとのことであった。
同施設から車で5分の場所に設置した農業施設「クロスハートファーム」は、ハウス内の栽培地が高床式のベッドであり、砂を培地とし液肥で野菜を栽培することで、車椅子の方であっても作業ができるように配慮されている。また、砂の軽い質感と腰をかがめない作業により農作業が軽労働となり、大型農機具も必要としない。そのほか、ハウスにはWi-Fiが設置され、水やりや温度管理も遠隔操作可能となっている。生産された野菜の一部は、イオン藤沢店での販売会により入居者自らが販売しており、野菜づくりの喜びにもつなげている。
同事業に参加している入居者からは、「仕事に取り組むことが楽しい。売れるともっと楽しい」、「今まで廊下ですれ違うだけの人と会話ができるようになった」といった声が挙げられている。また、施設の職員からは、「農作業を通じて、一人一人が輝いていくのが分かり、やりがいにもつながる」、「入居者には仕事は無理ではないか、との思い込みが変わり、入居者の知らない一面が見えるようになった」といった感想が寄せられている。
概要説明の後、質疑が行われ、「今年度は経済産業省からの補助金を受けていないとのことだが、事業の採算性はいかがか」との質問に対し、「土地の賃借料の負担もあり、野菜生産単独で見ると赤字である。一方で、『仕事付き高齢者住宅』の評判を聞いて新たに入所される方も実際にいるため、PR効果や働く人のモチベーション等の効果を考慮すると、当施設全体では採算面でもプラスであると認識している」との回答があった。その後、クロスハートファームの見学を行った。
今回視察先を調査できたことは、本県における地域活性化に向けた取組を推進する上で大変参考となるものであった。
丘陵地にある郊外住宅地である「森の里地区」は、住民の高齢化と人口流出が生じており、地域内の移動も徒歩では困難な高齢者が見受けられるようになった。「一般社団法人厚木ぐるっと」が運営する「森の里ぐるっと」は、地域住民を対象としたワンボックスカーによる移動サービスであり、住民が主体で行われている全国的にもあまり例のない取組である。
本県においても、急速な高齢化の進行により移動手段のない高齢者の増加が見込まれ、地域交通の維持・確保が急務とされている。本県の地域交通体系の整備や地域振興の取組の参考とするため、同事業の視察を行う。
厚木市の中心部から西に約7Kmに位置する森の里地区は、昭和55年から住宅都市整備公団により開発が進められた郊外住宅地である。自然豊かな丘陵地に約2,500世帯が居住し(平成30年6月現在)、周辺にはNTTや日産、ソニー、富士通などの企業の研究機関・事業所が立地している。一方で、小田急線本厚木駅までは路線バスで23分、愛甲石田駅まで同15分となっており、都内に通勤する住民には通勤時間が負担となっている。
森の里地区では、(1)人口が平成10年の約7,600人から平成30年には約6,200人へと減少した、(2)周辺事業所に勤務する住民が第一世代として居住を開始したものの、第二世代となる若者が地域外へ流出する傾向があり、高齢化が進行している、(3)丘陵地で坂道が多いが、自転車や徒歩による地域内の移動が困難になった高齢者が出てきている、(4)周辺の大企業に勤めていた住民が多く、同質性が高い、の4点が地域の特徴である。一方で、地域コミュニティーの維持のためには何か取組が必要である、などといった課題が認識されていた。そこで、森の里4丁目自治会役員メンバーを中心に結成された同法人では、厚木市の支援を受けて、平成23年10月から地域住民乗合交通「森の里ぐるっと」を開始した。
同事業では、森の里地区の1丁目から6丁目にそれぞれある自治会館などの施設を8人乗りのワゴン車で巡回している。月、水、金の週3回、1日当たり8便を運行するほか、地域のイベント等が行われる際には、臨時便も運行されている。この1周6kmの周回ルートの運行はボランティアのドライバーと補助者により行われており、地域の住民は無料で利用することができる。なお、事業開始から3年間は市の支援があったが、その後は市から委託された公園・遊歩道の草刈り等の管理受託収入等により、自主財源で運営を継続している。
さらに、毎週金曜日の終バス終了後に、愛甲石田駅と森の里の間を3便運行させる「ぐるっと深夜便」を平成29年1月から開始した。これは、都心で働く若者の地域離れを食い止め、地域活動に参加するきっかけとなって欲しいとの思いから事業を開始したとのこと。なお、「ぐるっと」のドライバーはOB世代が担っているが、「深夜便」では30代から50代の現役世代が務めている。
また、同法人では、地域づくりに向けた新たな取組として、平成31年4月から森の里地域の住民による交流の場「ぐるっと広場」をオープンした。これは、地域づくりのために様々な活動をしている同法人のことを知っていた地元の企業から、格安で物件を貸してくれるという話があり、地域の交流拠点をつくりたいとの思いから開設したものである。これについても運営は当番制のボランティアにより行われており、地域の人が気軽に集まれる場として、順調な滑り出しをみせている。
概要説明の後、質疑が行われ、「開始から3年間は市からの助成があったとのことだが、その後は行政からの支援は特になくても大丈夫だったのか」との質問に対し、「3年間の助走期間に、その後は自立して運営できる体制を構築してきた。行政に頼ることを考えるのではなく、森の里地区の取組がモデルとなり、他の地域にもこの取組を発信していけるような意気込みでやってきた」との回答があった。また、説明の途中で、視察会場の自治会館に立ち寄った「ぐるっと便」の運行の様子を見学した。
(一社)厚木ぐるっとにて
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